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こりは私がある方のブログで勝手に連載したものです。勝手にはじめる連載は多いのですが、終わるのは極く稀です。この「じゃがりこ地獄」は、いちおう最後まで行きついたので皆さまのご高覧に預かりたく思います。

なお、"地獄"が主題なのでまったく楽しくありません。逆に怖いらしいのです。

「じゃがりこ地獄」を読むための予備知識
山陰地方に生まれた蛇山ヘヴィ子は、元来の外人フェチを貫徹するためアメリカ大陸の北の果てに住むキースを追って移住する。宿願を果たし、キースと結婚したヘヴィ子。しかし、そこには足りないものがひとつ…。それはじゃがりこであつた。

人里離れたヘヴィ子の住む州は、生卵さえない劣悪な環境のうえに日本人も少なくじゃがりこは手に入るはずもない。そこで、折からはじめたブログを通じて広島に住むぴろ(仮名)を騙して定期的にじゃがりこを送らせることに成功する。

外人とじゃがりこという、ふたつのモノを手に入れて喜びにひたるヘヴィ子。しかし、不用意に洩らしたひとことは、地獄への招待状となつてしまう…



じゃがりこ地獄

「あぁ、この世は私のためにあるやうだわ」、ヘヴィ子はぴろ(仮名)に
送らせたじゃがりこのストックを眺めては悦に入る。「でも、ここは地の
果て…、ぴろに毎週送らせるのも限界があるわね。じゃがりこで一杯
のじゃがりこ地獄でもあればよいのに、オホホホホホホ」。驕慢な高笑いを
零下20℃の北の大地に響かせるヘヴィ子に、不思議な声が語りかける。

「ありますよ♡ じゃがりことして、皮を剥かれ、形成され、油で茹でら
れるのです。しかも口は無いので食べられません…」ヘヴィ子は振り向
いた。その表情にはさっきまでの驕りは微塵もない。誰もいないはずの
家で、しゃべりかけて来る者が?しかも、日本語ではないか。「だ!誰?」、ヘヴィ子の慌てぶりに構わず声は続く。

「油で茹でられた後、皮を剥かれた赤裸に思いっきり塩をまぶされます。
その痛さは筆舌に尽くせるものではありません。やっと静かになったと
思いきや、狭くて暗いところに閉じ込められます。もちろん酸素などあり
ません。呼吸もできず、狭く暗いところに立錐の余地もなく詰めこまれて
いくのです…」

「密閉された暗黒空間に閉じ込められてしばらくすると、今度は大きな振動
が起こります。立錐の余地はなくとも、塩をまぶされた身体に隣のじゃがり
こが擦れます。摩擦が起きると断末魔の悲鳴をあげたくなるほど痛いので
すが、相変わらず口が無いので叫ぶこともできません…」

と、ヘヴィ子はじゃがりこになっていた…。目は見えず、口はなく、耳は聞
こえない、嗅覚はあるが油と塩とジャガイモの臭いがするばかりだ。
そして、臭いなどよりも痛い。痛い痛い痛い痛いイタイイタイーっ!!
皮を剥かれ、切られて、成型され、油で茹でられ、塩をまぶされ、その
うえ隣どうし擦られ続けているのである。傷を負い、切断され、全身火傷
の身体を互いに擦りあっているのだ。

しかし、この振動は何だろう。じゃがりこが作られたあと、どうなるか。
工場から消費者のもとに向けて、出荷されていくだろう。と、なると
トラックの車内かコンテナの中だろう。振動は移動で揺れているからか。
すると日本には違いない。どこなのだろうか?

永遠に続くかと思われた地獄の苦しみ…。と振動は止まり、ぴとの話し
声がした。「ほいじゃけぇ、わしゃ言うたんよ『こんな、誰の許可得てお好
み焼きよるんじゃ』、ての…」。どうやら広島のようだ。

目は見えず、耳は聞こえないはずなのだが、なぜかイメージとして情報
が次々と入って来る…。

どうやら、スーパーの倉庫に並べられてゐるらしい。「はい、ひと箱で
すね」「ママン?何で箱で買うの?」「ヘヴィ子ちゃんに送るのよ」「ふ~ん」。どうやら私はダンボール箱ごと買われたようだ。「ママン、何でユアーズ○中店から送らないの?」「ユアーズからだと送れないんだって」「ふ~ん」。

郵便局からパックが入った箱のまま、また車に積まれる。相変わらず、
隣の身体と擦れ合う。身体は固く脆いので、ときどき落剥する。どう
やら身体の一部が落ちたらしいが、もう感覚も麻痺してゐるので痛いと
すら思わない。落ちた身体にも意識はあるらしく、パックの底で横たわ
っているのが手に取るやうにわかる…。

今度は飛行機に乗せられる。もちろん貨物室だらう。航空関連の会社に
勤めていた私は、貨物室が飛行中零下の温度になることを知っていた。
密航して貨物室で渡航した人が、何人も凍死しているからだつた…。

飛行機は長い間待機していたが、やがて飛び立ったようだ。貨物室には
アテンダントもいなければ、ミールサ~ビスも無い。高度が上がると温度
は急激に下がる、パックと箱に二重に包まれているはずだが、寒い寒い
寒い寒い…寒いし遠い…。

また永遠と思われる時間が過ぎていく。最早感覚はない。以前密航しよう
として補助輪につかまった男がいた。命はとりとめたが、凍傷で手指をな
くしたという。きつと私に手があったら指は凍って腐り、まっ黒になって
いるに違いない。幸か不幸か、私には指はなく、感覚、それも痛覚だけが
ある。

どんな旅にもやがて終わりは来る。飛行機は最終目的地に着いたやうだ。
地表に到着しているのに、痺れるやうな寒さは衰えを知らない。なぜだ?
飛行機の中が極度に寒いのは高度のせいなのに。どこに着いたのだらうか。

箱は外に運び出されたらしい。矢張り寒い。いや、猛烈な寒さだ。ロシア
人は厳寒の冬季をマロ~スといふらしいが、ロシアなのだらうか。マロ~
ス爺さんが活躍するという…。じゃがりこ地獄にいるはずなのだが、酷寒
地獄に変わってしまつたのだろうか。

つづく