「遠い記憶」 エドワード・サイード みすず書房
「ペンと剣」 エドワード・サイード ちくま学芸文庫
「OUT OF PLACE」 佐藤真 みすず書房
エドワード・サイードはパレスチナ系アメリカ人。英文学と比較文学の教授としてコロンビア大学で40年教えてきたが、パレスチナ問題の発言者としての方がより知られているかもしれない。
「ペンと剣」 エドワード・サイード ちくま学芸文庫
「OUT OF PLACE」 佐藤真 みすず書房

エドワード・サイードはパレスチナ系アメリカ人。英文学と比較文学の教授としてコロンビア大学で40年教えてきたが、パレスチナ問題の発言者としての方がより知られているかもしれない。
サイードは「オリエンタリズム」、「文化と帝国主義」といった著書で、帝国主義がイメージや文化によって自らを正当化してきたことを指摘した。日本人が"英語"や"クリスマス"に熱心なのは、こうした無自覚な文化的侵食の結果ではないかと考えて、最近サイードの本を読んでいる。
とはいつても主著である前掲書ではなく、アプローチしやすいものから。「遠い記憶」は学者になるまでの自伝。パレスチナ人のキリスト教徒としてエルサレムに生まれるが、幼少期のほとんどは父親の事業(文具商)の拠点であつたエジプトのカイロで育つ。冨商の息子であった彼が通う学校はイギリス人が経営する私立校であるか、イギリスの学校を模しアラビア語を禁じる植民地の上流現地人を生産するための学校であった(こうした学校の在り方は、途上国では今も基本的には変わらない)。こうした社会的背景と、故郷喪失者(1947年イスラエルの成立によって戻ることは不可能になる)の形成が淡々とそして鮮やかに再現される。
父親あるいは母親との精神的な関係を回顧的筆致で叙述するスタイルは、文学性も高い。特に少年サイードを困惑させてきたと父親との関係が、最後に思わぬ形で解明されるのが感銘深い。

「ペンと剣」は、サイードへのインタビューをまとめたもの。どちらかというとパレスチナ問題についての言及が多く、学問的業績については物足りないかもしれない。
「OUT OF PLACE」は同名のドキュメンタリー映画のガイドブック。とはいっても本編でカットされた膨大な量のインタビューが収められている(チョムスキー、バレンボイム等)。サイードを巡るインタビューなので、彼の世界を知るのにはとっつきやすいかもしれない。ちなみに「OUT OF PLACE」というのは、「遠い記憶」の原題でもある。

「ペンと剣」は、サイードへのインタビューをまとめたもの。どちらかというとパレスチナ問題についての言及が多く、学問的業績については物足りないかもしれない。

「OUT OF PLACE」は同名のドキュメンタリー映画のガイドブック。とはいっても本編でカットされた膨大な量のインタビューが収められている(チョムスキー、バレンボイム等)。サイードを巡るインタビューなので、彼の世界を知るのにはとっつきやすいかもしれない。ちなみに「OUT OF PLACE」というのは、「遠い記憶」の原題でもある。
「NANA(1)」 矢沢あい 集英社

先日、「DVD日記」で紹介した映画「NANA」の原作。原作の愛読者にはかならずしも評判のよくない映画だが、1巻を読んだ限りではかなり原作に忠実であった。と、いうより映画で仄めかされていたことが原作を読むとよくわかる。(例えば、淳子と京助は単なる友達として映画に出て来るが、原作ではもっと大きな役割りを持つ)

先日、「DVD日記」で紹介した映画「NANA」の原作。原作の愛読者にはかならずしも評判のよくない映画だが、1巻を読んだ限りではかなり原作に忠実であった。と、いうより映画で仄めかされていたことが原作を読むとよくわかる。(例えば、淳子と京助は単なる友達として映画に出て来るが、原作ではもっと大きな役割りを持つ)
単行本で16巻におよび現在進行中である原作の、第1巻だけを読んで背景がよくわかるのは、じつは第一話(小松奈々篇と大崎ナナ篇に別れているので、実質は2話だが)が読み切り構成になっているからだ。連載誌のCookieはりぼん増刊号として発行されたのだが、創刊準備号に掲載されたのが第一話だったからであった。
第1巻だけしか読んでないが、矢沢あいはストーリーテラーとして有能である。映画にある「○○なんだよ」という印象的なモノローグの言い回しも原作そのままだ。しかし、このまま読みつづける気にはならない。少女マンガの愛好者なら、こうした"少女マンガらしい画風"がよいのだろうが、皆同じような顔に見えて感情移入がしづらい。(髪型や化粧が違うので、キャラクターの違いはわかる)
「ヒトラー・コード」 ヘンリク・エーベルレ他編 講談社

ヒトラーの死に疑問を持ったスターリンが、部下に命じてヒトラー側近を尋問した記録。スターリン一人のために書かれた文書だが、それゆえにヒトラーの日常生活や言動など詳細に綴られている。

ヒトラーの死に疑問を持ったスターリンが、部下に命じてヒトラー側近を尋問した記録。スターリン一人のために書かれた文書だが、それゆえにヒトラーの日常生活や言動など詳細に綴られている。
章立ても長くはなく、大きな出来事ごとに別れているので読みやすい。叙述も平明であり、興味深い。また、各章につけられた注が詳細にわたっており、深い背景知識も得られる。
こうした歴史上の指導者、とくに独裁者の日常生活は面白い。以前にも「毛沢東の私生活」李志綏著/文春文庫という侍医の書いた本があったが、出色の面白さだった。
「六本木水脈」 杉良治 ベストブック

著者は赤坂のナイトクラブ、ペペルモコのオーナーで、キャバクラの走りである六本木ポップコーン、バブルの頃にはニューウェーブ、フェースといったクラブの持ち主だった男。

著者は赤坂のナイトクラブ、ペペルモコのオーナーで、キャバクラの走りである六本木ポップコーン、バブルの頃にはニューウェーブ、フェースといったクラブの持ち主だった男。
1960年代から21世紀初頭まで、夜の赤坂六本木の顔として生きて来た著者が実名を交えてエピソードを書き綴ったのが本書。私はこの最後のナイトクラブとも言われたペペルモコの終焉の頃に、何回か訪れたことがある。テーブルには著者の手書き文字が印刷された挨拶文があり、確かに変わったオーナーだと思ったことを覚えている。
色々なエピソードもあって面白いのだが、実際に現場を知らなかったり夜のクラブ活動をしない人にはまったく興味のない本に違いない。んが、上記の店の名前に記憶があったり、銀座や六本木の有名店に出入りしたことがあるなら、巻措く能わぬ一本のはずだ。