チルンハウス変換によるガロア理論(3) チルンハウス変換 | きーやまの経過報告

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チルンハウス変換によるガロア理論(2)では、「根の置換で対称性を測る」というガロア理論のアイデアは出てきましたが、肝心のチルンハウス変換が出てきませんでした。

いよいよチルンハウス変換の登場です。(1),(2)は今回のための準備みたいなもんです。

なお、これまでずっと二次方程式で説明してきたので、今回も二次方程式だけの説明ですが、考え方・原理がわかれば、三次方程式、四次方程式でもやることは結局同じだとわかると思います。

 

(1),(2)の内容を改めてまとめておきます。(1)によると、方程式x^2+ax+b=0を解くとは、直接表現では、

・a=u+v

・b=uv

の逆変換(a,b)→(u,v)

・u=φ(a,b)

・v=ψ(a,b)

を求めることでした。(2)によると、方程式を解くとは、対称性を下げていくことであり、対称性を上げる仕組みは掛け算である、ということでした。


では実際に方程式を解くためにはどうすればいいか。ここで次の変数変換を考えます。
・y=f(u,v)
fの形を具体的に決めていないのでまだナンノコッチャかもしれませんが、ともかくfがなんであれ、この変数変換を佐藤幹夫の語法に従ってチルンハウス変換と言います。要するにただの変数変換なんですが。

チルンハウス変換とは結局何なのか?については佐藤幹夫の説明を読むのが一番いいと思いますが、簡単に要約すると、連立方程式a=u+v,b=uvから、y=f(u,v)によってu,vを消去すればyに関する方程式が得られるはずです。そうすると、u,vに関する方程式を解く代わりに、そのyに関する方程式を解いて、最後に変数をyからu,vに逆変換で戻せばよいのです。それが結果的には、u,vに関する方程式を解いたことと同じである、というわけです。

考え方は、最初と最後では不要になるものを途中で経由するという意味で、ラプラス変換で常微分方程式を解くことに近いと言えます。勿論、その途中に経由する方程式が元の方程式より難しかったら意味がないわけですが…。

蛇足。u,vが二変数なのにyは一変数で自由度が変わっとるやないか、という突っ込みがあるかもしれませんが、一般にはy=(y1,y2,y3,...)というようにyはいくつあってもいいので問題ありません。実際、ここでは少なくとも二自由度で考えないといけないので、y=(y1,y2)のようにすることになります。


さて、fとして具体的に何を持ってくるかが問題です。最終的に逆変換しなければならないことを考えると、なるべく簡単なものをとりたいので、fを一次式としてみましょう(一般には一次式で上手くいくとは限らない)。しかし一次式と言っても、f(u,v)=3u-5v+1のような出鱈目に決めていいわけではありません。
fの形を決めるときに、(2)で考えたことを活かします。根の置換σ=(uv)は二回作用させればσσf(u,v)=σf(v,u)=f(u,v)なので当然元に戻りますが、fにσを一回作用させたときに、元のfの定数倍(つまりσの固有関数)になっているとします。つまり、定数を仮にkと置いておくと、
σf(u,v)=f(v,u)=kf(u,v)
となっていると仮定します。するとこの定数(固有値)kは、σをfに二回作用させれば元に戻るという条件から、k^2=1を満たさなければなりません。これを満たすkとしてはk=1とk=-1の二つがありえます。
k=1のとき、f(u,v)はu+vの定数倍になります。このときf(u,v)はσで不変な対称式です。しかし(2)の内容を思い出しましょう。

 

「方程式を解くとは、完全非対称な状態を作ることである。方程式を解くためには対称性を下げていかなければならない。」

 

方程式が解けた状態(根u,vが裸で出てきた状態)を作り出すには、対称性の低い式が必要です。上のk=1のときでは、対称性が高いので根に届きません。

k=-1のときを考えると、σf(u,v)=f(v,u)=-f(u,v)ということですが、このときf(u,v)はu-vの定数倍になります。これは対称な式ではありませんから、方程式を解くのに役に立ちそうです。

 

これまでの考察により、チルンハウス変換として、次のものをとります。

・y1=u+v

・y2=u-v

変数は(u,v)→(y1,y2)に変換されていると考えます。これが逆変換できることは、連立一次方程式の理論(線形代数)によってわかりますが、具体的に解いてもいいでしょう。

 

もともとの方程式も変数変換しないといけません。a=u+v,b=uvからu,vを消去して、y1,y2に関する方程式にしないといけません。a=y1はすぐにわかりますが、もう一本が問題です。

ここでやはり対称性に着目すると、方程式a=u+v,b=uvはu,vに関して対称ですが、チルンハウス変換y1=u+v,y2=u-vはu,vに関して非対称です(というより非対称になるように作ったのでした)ので、対称性の高さが違っています。

 

(2)の内容を思い出しましょう。

「対称性の高さは、掛け算の前後で変化する。掛け算によって対称性は上がる。」

 

y2=u-vはu,vに関して非対称ですから、対称性を上げるために自乗します。

(y1)^2=(u-v)^2=u^2+v^2-2uv

これは何と対称式になっています。対称式になった仕組みはこうです。

チルンハウス変換をy1=f(u,v)と書いていました。この表記で、根の置換σに対して、σf(u,v)=f(v,u)=-f(u,v)(固有値が-1)です。すると自乗は、σ(f(u,v)f(u,v))=f(v,u)f(v,u)=(-f(u,v))(-f(u,v))=f(u,v)f(u,v)となって、σに関する非対称性量としての固有値-1は自乗で相殺してしまいます。

 

対称式になれば、「対称式は基本対称式の多項式(つまり和差積)で書ける」という定理が使えます。実際、(u-v)^2=(u+v)^2-4uvとなっています。

 

ということは、解くべき方程式は、チルンハウス変換によって次の連立方程式に変形されたということです。

・a=y1

・a^2-4b=(y2)^2

 

これをy1,y2について解けばよいということになります。解くと次のようになります。

・y1=a

・y2=±√(a^2-4b)

 

解けたのでチルンハウス逆変換します。

・u+v=a

・u-v=±√(a^2-4b)

 

後はこの連立一次方程式をu,vについて解けば終わりです。

 

今回は二次方程式で説明したので、簡単すぎて読んでても逆によくわからない、という人がいたかもしれませんが、三次方程式、四次方程式でもやり方は同じです。また時間があるときにそれらについても説明するかもしれません。そして五次方程式が一般には解けない、ということもいずれ説明したい(できるようになりたい)と思っています。