仕事帰りに見上げた月

40年前…
午前2時にセットした目覚まし⏰
学校に行く時は、母親に怒鳴られないと起きる事が出来ないのに、ものの数秒で起き上り頭が冴える


月は出ている!


友人達といつもの橋で合流し、いつものダム湖を目指す
左手には宝物のバンタムのワンピースロッド
右手一つで自転車を操ること2時間
ようやくダム湖畔に着く

見上げる満月…

そう、あの頃見上げた月と同じだ…

月明かりを頼りに、銀のコルフォーハンドルに漆黒のバンタムリールをセット
ストレーン20lbラインをガイドに導き、お気に入りのプラグを詰め込んだプラノのタックルボックスからポッパーを取り出す
期待と興奮でいつも手が震えた…
ブラックバスってどんな魚だろう?

ハヤ、鯉、鯰、オヤニラミ、鮒、タナゴなら延べ竿でたくさん釣った

アメリカからやって来てこのダムに泳ぐバス
アメリカからやって来たルアーフィッシング

釣ってみたい!

東の空が僅かに白み始めるとあちこちでライズ音が始まった

ワカサギやハヤがバスに追われている

ライズの方向へ渾身のキャスト

バックラッシュ…

朝まずめのゴールデンタイムは短い

漸くラインを解いて直ぐ様キャスト

うまくいった!
その刹那
スプラッシュが上がりバンタムロッドは大きくしなる

乗った! 

心臓の鼓動がはっきり聞こえる程興奮した

バレないでくれと必死にリールを巻いた

釣り上げたのは43cmのブラックバス

初めて見る魚、初めてルアーで釣った魚

もう嬉しくて嬉しくて、涙が溢れた
友人達が駆け寄って来て
「やったやん! やっぱ引いた?」
「よかー、俺も釣りたかー」
「コレがブラックバス?黒くなかね」
……

鮮やかなグリーンの鱗屑に、その名の通り大きな口に、勇猛な体躯に、どれ程の時間だろうか、皆で見惚れた

山上のダム湖畔は澄み渡る空気と、眩しい太陽の光の中だった

あれから40年…

清流に糸を垂れる少年を見なくなった
クヌギ林で虫捕り網を持った少年を見なくなった

時代でしょうね、公園のベンチでゲームに興じる子供達…
画面の中で捕獲したモンスターに、あの日のバスと同じ興奮があるのかは計れないけれど、せっかくこの世界に生きてるのだから、もっと自然に、もっと命に触れて欲しいなと思います

自由で不自由な時代ですが…