ある春の日の事だった。私は富山駅の構内のプラットフォームを一人で歩いていた。自宅に帰る途中だったのかも知れない。あるいはただ訳もなくぶらぶらしていただけだったのかも知れない。高校を中退して浪人中の私は暇人だった。

するとその時、高校の同級生にぱたりと出っくわした。同じ小学校と中学校を卒業して、高校も同じだった同郷の学生であった。私はその人と一緒にホームのベンチに腰掛けた。

 彼は私に、これから大学に通うために上京するのだと話した。彼はどこの大学に通うのかを言わなかったが、私は彼が横浜国立大学の工学部に合格していた事を知っていた。彼はまた私に、私の進路の事を訊ねた。私は口ごもっていた。私の気分は暗かった。

ちょうど停まっていた列車の車窓から、赤ん坊が笑いながら顔を出していた。彼は立ち上がって、見ず知らずのその赤ん坊に親しそうに声をかけ、あやしたりしていた。彼は如何にも得意そうであった。これから待っている大学生活への希望と期待に満ち溢れている様に私には思えた。

 私はぼんやりしていた。この同級生と自分との間の懸隔の大きさを思わずにはいられなかった。自分の将来を考えると真っ暗になった。私は何も考えることが出来なかった。彼と見知らぬ赤ん坊との笑い声だけが耳に響いていた。

しばらく経った後、彼は腕時計に目を通すと、列車の到着する時間が来たからと断って、私と別れた。一人になった私は、暗澹たる気持ちがいつまでたっても快復しない様な気がしてくるのだった。