※フィクションです。
拙いけど、友人に贈る散文のような短編。
空を見上げていた。
雨降らず たなびく雲 描く模様
フラせてよ ねぇ 空梅雨の時
空蝉に 想う儚さ 雲間から
天突き抜けろ 甘恋(雨乞い)の夢
( 悲しみがどんより垂れ込めて押しつぶされそう
( 決壊寸前の涙が心の中で暴れてる
( 上手く泣けないよ、泣きたいのに
そういうの歌にすんな、って言われそうだけど。
世界は蜘蛛の糸でひしめき合っている。
雲の垂れ込めたあの空から、銀の雨が落ちるように
その一本一本の銀糸がヴェールを織り上げて。
風に揺られてそのヴェールはサテンの光沢を時に放って。
雲に覆われた空を見ると、そう思うのだ。
青空はすっかり塗りつぶされ、増殖する雨雲。
まるでルネサンス画を見上げているようだ。
こういう空を見ると思う。
<世界は蜘蛛の糸でひしめき合っている。人はみなカンダタだ>と。
あの雲から銀の糸が無数に地上に降りてきているように思うのだ。
人の一生はあの雲まで上っていく間のあれこれ。
風に吹かれたり、ぶつかったり、寄り添ったり。
上り終えるまで切れない糸、新たに地上に魂を降ろす糸、
様々な糸のひしめき合い。
途中で切れる糸はきっと美しい雨になるのだろう。
駅前のスクランブル交差点。
色が変わり渡り始める。前方の空を見上げたまま。
行き交う人と時に肩をかすりながらよけながら歩く。
乾いた自分を感じる。日常を送るつつがない自分。
ほんとは弾ける直前の水風船のような内圧を感じながら
表向き平静でいる自分。
空に描かれた絵画に引き込まれるように
周りの人も車も駅のアナウンスさえもが遠のき、
肩をかするほど近くを通る人さえも遠く感じるほど、
私の周りにはエアポケットが出来る。まるで異次元。
交差点の真ん中で立ち止まってみる。
異次元エアポケットで時が止まったように感じるけど、
実際のとこは多分数秒だ。
私もまたカンダタなのだろうか。だよな。
私はいま糸のどの辺をどんな風に上っているところだろう。
一陣の風に煽られ四苦八苦といったところか。
十日前、この交差点を歩いてた時。
そのエアポケットに飛び込んできたのは
飛行機、ではなくギタリストだった。
ま、衝撃度としては私めがけて飛行機が墜落したと言ってもよかった。
「ノンさん、久しぶり。元気すか?」
街が、行き交う人々が息を吹き返しざわめきが戻る。
ともに駅に向かって歩く。
「お~久しぶり。一年ぶりくらい?チェルシーのライブ以来?」
「そっすね。あん時楽しかったっすよね。対バンもみんな良くて。」
蘇る空気感。楽屋に染み付いた煙草の匂い。
「そだね~、企画バンドも居たりね。最近もモリオ企画でやってんの?」
「いやいやいや、ノンさん知らない?モリオさん、消えたんすよ。」
「はぁ?」
「え、初耳??」
「うん、最近モリオと連絡とってなかったし、ちょっと違う仕事してて。え?でも何で?」
「こっちが聞きたいっすっよ。来月の企画もよろしく~と言ったまま。」
「マジ~?!どうかしたのかな?」
「会社も家も荷物そのまんまで消えたらしいっすよ。」
「それ、いつくらいの話?」
「チェルシー後ちょっとした頃だから、一年近いんじゃないすか。
ノンさん、モリオさんに会ったら俺が連絡取りたがってるって伝えて」
「うん・・・わかった。じゃね、また。」
ギタリストは改札の向こうへ消え、
私は地下鉄に乗るはずだったけど、茫然とそのまま駅を越えて歩き始めた。
モリオはいったいどこに行ったんだろう?
ちゃらんぽらんだけど、そういうことする奴じゃないのに。
とりあえず携帯にかけてみる。
「この電話はお客様の都合により・・」放置ってことか。
一年四か月前のライブイベント。
その後少しして消息を絶ったモリオ。。
記憶を辿る。記憶を彷徨う。
モリオは、モリッシーが好きすぎて「俺をモリッシーと呼べ」というアホで
あたしはあえてモリオと呼んでいた。
なので、周りではモリオと呼ぶ人も多い。
モリオはあたしが以前働いていた制作会社の関連会社にいて
よく一緒に仕事もしたし、なかなか気の合う飲み仲間だった。
あたしが会社を辞めるのをとてもさみしがりながらも
「ノンには自由が似合うよ」と笑ってくれたモリオ。
でもその目がまるで捨てられた子犬みたいで、
なんだか胸が締め付けられたっけ。
一年四か月前のライブイベントが会社で最後の仕事だった。
モリオ自身も単発企画バンド組んで出ていた。
でも、あのライブでトラぶってた記憶はない。。。
モリオがトラぶりそうなことって何だ?
モリオってもしかして?と思った事はあった。
二丁目界隈で引く手数多だった気がする。
捕まって女装させられてる写真を何度か見せてもらったことあるな。
昔もツアー仕事で地方一緒に周った時、あるビルの看板を指して
「あの二列目に俺写ってんだ。どーれだ?」
というので見上げたら、ニューハーフのショーパブの看板だった。
「えっ?あんた、あっちの人?」
と聞くと、撮る時に頭数足りなくて、店の前をたまたま歩いてたら
拉致られて女装させられて一緒に写真撮らされたって言ってた。
確かにモリオはちょっと華奢で化粧映えしそうな顔立ちだけどさ。
でも俺は女が好きだと言ってた気がする。
そしてそうであってほしいとも思う。
ただ、嫌がってる割には定期的に二丁目に出入りしていた気はする。
どうもヤバいパシリをやっているんじゃないかと噂されてたっけ。
ほんとよく一緒に仕事してた時なんかは
仕事も、仕事終わりの飲みも、気晴らしに寄るクラブも一緒で。
いつもモリオが隣にいた時期があった。
そんな頃は、恋愛だとか付き合ってるだとかそんな定義の外側で
まるで戦地で体温を分け合う戦友のように肌を重ねた事もあった。
ぜひ女性だけを好きでいてもらいたいところだ。
モリオは普段ちゃらんぽらんを装いながら
その実、薄氷のようにナイーブなところがあって、
間違いのような戯事を決して口にはしなかった。
翌朝には何食わぬ顔で夢を持ち越さない男。
安易に語ったら最期、壊れてしまうとでも言いたげな雰囲気だった。
溶け合う時だけ水になる、氷のようなモリオ。
すごく人好きで優しくて、でも甘ったるさのないモリオ。
とりあえず、よくモリオと始発待ちにも使っていた
シャンデリアの可愛いバルへ行って、
アイスコーヒーを注文した。
シャンデリアのきらめきが、チクチクと心を乱す。
ここで一晩中企画練ったりしたよな。
「いい!それ活かそう!使おう」と大盛り上がりして。
テンション高くなるとキスしてきてさ。
その様が何だか可愛いらしくて、つい
「チューなんて誰とだって出来るわ」といじめると
「なんだよ~。でもノンのそれ好きー」と笑って。
いや、いじめるというより、はぐらかしてたんだ。
あまりにも共有する思いが濃ゆくて、
モリオという存在がわからなくなってしまいそうで。
思い出すのは、なんかしょうもない事ばかりで。
あたし、モリオの何を知っていたんだろう。
分かるのなんて名刺に書いてあった名前くらいのもんだ。
どんな人間関係の中にいたとか、私と一緒じゃない時の仕事っぷりも
仕事を離れると何してるとか、まったくわからないや。
遊ぶ時も仕事の延長線上だったから、仕事抜きのモリオを知らない。
血液型や家族関係とかも、プライベート何にも知らない。
それを痛烈に感じた。
しばらくご無沙汰してたのに、いないと分かったら必死なんて
調子のいいことこの上ないな、と自分のこと思うけど、
でもこの焦燥感、虚無感を否定出来ないでいる。
気付いたらフラフラと御苑前まで来てしまっていた。
モリオが一度連れていってくれた二丁目のバーに
行ってみようかと思ったけど、思った途端足が前に出なくなった。
モリオの触れてはいけない部分に触れる気がして、やめた。
よく知ってるようで、全然知らなくて
近いようで、遠いようで。実像より記憶の方がリアル。
いなくなってから存在感を発揮するなんてズルくない?モリオ。
あんたはいま糸のどの辺上ってんのよ?
風はもうあたしたちの糸を寄せてはくれないの?
こんな曇り空が続く間はモリオの記憶を反芻するんだろう。
「ロンドン日和だぜ」
笑いを含んだ声が聞こえてきそう。
この町の華やかな看板の中でもどっこい笑ってそうな気がする。
またいつかきっと風のきまぐれで出会うこともあるだろう。
それが一番らしいのかもしれない。
拙いけど、友人に贈る散文のような短編。
空を見上げていた。
雨降らず たなびく雲 描く模様
フラせてよ ねぇ 空梅雨の時
空蝉に 想う儚さ 雲間から
天突き抜けろ 甘恋(雨乞い)の夢
( 悲しみがどんより垂れ込めて押しつぶされそう
( 決壊寸前の涙が心の中で暴れてる
( 上手く泣けないよ、泣きたいのに
そういうの歌にすんな、って言われそうだけど。
世界は蜘蛛の糸でひしめき合っている。
雲の垂れ込めたあの空から、銀の雨が落ちるように
その一本一本の銀糸がヴェールを織り上げて。
風に揺られてそのヴェールはサテンの光沢を時に放って。
雲に覆われた空を見ると、そう思うのだ。
青空はすっかり塗りつぶされ、増殖する雨雲。
まるでルネサンス画を見上げているようだ。
こういう空を見ると思う。
<世界は蜘蛛の糸でひしめき合っている。人はみなカンダタだ>と。
あの雲から銀の糸が無数に地上に降りてきているように思うのだ。
人の一生はあの雲まで上っていく間のあれこれ。
風に吹かれたり、ぶつかったり、寄り添ったり。
上り終えるまで切れない糸、新たに地上に魂を降ろす糸、
様々な糸のひしめき合い。
途中で切れる糸はきっと美しい雨になるのだろう。
駅前のスクランブル交差点。
色が変わり渡り始める。前方の空を見上げたまま。
行き交う人と時に肩をかすりながらよけながら歩く。
乾いた自分を感じる。日常を送るつつがない自分。
ほんとは弾ける直前の水風船のような内圧を感じながら
表向き平静でいる自分。
空に描かれた絵画に引き込まれるように
周りの人も車も駅のアナウンスさえもが遠のき、
肩をかするほど近くを通る人さえも遠く感じるほど、
私の周りにはエアポケットが出来る。まるで異次元。
交差点の真ん中で立ち止まってみる。
異次元エアポケットで時が止まったように感じるけど、
実際のとこは多分数秒だ。
私もまたカンダタなのだろうか。だよな。
私はいま糸のどの辺をどんな風に上っているところだろう。
一陣の風に煽られ四苦八苦といったところか。
十日前、この交差点を歩いてた時。
そのエアポケットに飛び込んできたのは
飛行機、ではなくギタリストだった。
ま、衝撃度としては私めがけて飛行機が墜落したと言ってもよかった。
「ノンさん、久しぶり。元気すか?」
街が、行き交う人々が息を吹き返しざわめきが戻る。
ともに駅に向かって歩く。
「お~久しぶり。一年ぶりくらい?チェルシーのライブ以来?」
「そっすね。あん時楽しかったっすよね。対バンもみんな良くて。」
蘇る空気感。楽屋に染み付いた煙草の匂い。
「そだね~、企画バンドも居たりね。最近もモリオ企画でやってんの?」
「いやいやいや、ノンさん知らない?モリオさん、消えたんすよ。」
「はぁ?」
「え、初耳??」
「うん、最近モリオと連絡とってなかったし、ちょっと違う仕事してて。え?でも何で?」
「こっちが聞きたいっすっよ。来月の企画もよろしく~と言ったまま。」
「マジ~?!どうかしたのかな?」
「会社も家も荷物そのまんまで消えたらしいっすよ。」
「それ、いつくらいの話?」
「チェルシー後ちょっとした頃だから、一年近いんじゃないすか。
ノンさん、モリオさんに会ったら俺が連絡取りたがってるって伝えて」
「うん・・・わかった。じゃね、また。」
ギタリストは改札の向こうへ消え、
私は地下鉄に乗るはずだったけど、茫然とそのまま駅を越えて歩き始めた。
モリオはいったいどこに行ったんだろう?
ちゃらんぽらんだけど、そういうことする奴じゃないのに。
とりあえず携帯にかけてみる。
「この電話はお客様の都合により・・」放置ってことか。
一年四か月前のライブイベント。
その後少しして消息を絶ったモリオ。。
記憶を辿る。記憶を彷徨う。
モリオは、モリッシーが好きすぎて「俺をモリッシーと呼べ」というアホで
あたしはあえてモリオと呼んでいた。
なので、周りではモリオと呼ぶ人も多い。
モリオはあたしが以前働いていた制作会社の関連会社にいて
よく一緒に仕事もしたし、なかなか気の合う飲み仲間だった。
あたしが会社を辞めるのをとてもさみしがりながらも
「ノンには自由が似合うよ」と笑ってくれたモリオ。
でもその目がまるで捨てられた子犬みたいで、
なんだか胸が締め付けられたっけ。
一年四か月前のライブイベントが会社で最後の仕事だった。
モリオ自身も単発企画バンド組んで出ていた。
でも、あのライブでトラぶってた記憶はない。。。
モリオがトラぶりそうなことって何だ?
モリオってもしかして?と思った事はあった。
二丁目界隈で引く手数多だった気がする。
捕まって女装させられてる写真を何度か見せてもらったことあるな。
昔もツアー仕事で地方一緒に周った時、あるビルの看板を指して
「あの二列目に俺写ってんだ。どーれだ?」
というので見上げたら、ニューハーフのショーパブの看板だった。
「えっ?あんた、あっちの人?」
と聞くと、撮る時に頭数足りなくて、店の前をたまたま歩いてたら
拉致られて女装させられて一緒に写真撮らされたって言ってた。
確かにモリオはちょっと華奢で化粧映えしそうな顔立ちだけどさ。
でも俺は女が好きだと言ってた気がする。
そしてそうであってほしいとも思う。
ただ、嫌がってる割には定期的に二丁目に出入りしていた気はする。
どうもヤバいパシリをやっているんじゃないかと噂されてたっけ。
ほんとよく一緒に仕事してた時なんかは
仕事も、仕事終わりの飲みも、気晴らしに寄るクラブも一緒で。
いつもモリオが隣にいた時期があった。
そんな頃は、恋愛だとか付き合ってるだとかそんな定義の外側で
まるで戦地で体温を分け合う戦友のように肌を重ねた事もあった。
ぜひ女性だけを好きでいてもらいたいところだ。
モリオは普段ちゃらんぽらんを装いながら
その実、薄氷のようにナイーブなところがあって、
間違いのような戯事を決して口にはしなかった。
翌朝には何食わぬ顔で夢を持ち越さない男。
安易に語ったら最期、壊れてしまうとでも言いたげな雰囲気だった。
溶け合う時だけ水になる、氷のようなモリオ。
すごく人好きで優しくて、でも甘ったるさのないモリオ。
とりあえず、よくモリオと始発待ちにも使っていた
シャンデリアの可愛いバルへ行って、
アイスコーヒーを注文した。
シャンデリアのきらめきが、チクチクと心を乱す。
ここで一晩中企画練ったりしたよな。
「いい!それ活かそう!使おう」と大盛り上がりして。
テンション高くなるとキスしてきてさ。
その様が何だか可愛いらしくて、つい
「チューなんて誰とだって出来るわ」といじめると
「なんだよ~。でもノンのそれ好きー」と笑って。
いや、いじめるというより、はぐらかしてたんだ。
あまりにも共有する思いが濃ゆくて、
モリオという存在がわからなくなってしまいそうで。
思い出すのは、なんかしょうもない事ばかりで。
あたし、モリオの何を知っていたんだろう。
分かるのなんて名刺に書いてあった名前くらいのもんだ。
どんな人間関係の中にいたとか、私と一緒じゃない時の仕事っぷりも
仕事を離れると何してるとか、まったくわからないや。
遊ぶ時も仕事の延長線上だったから、仕事抜きのモリオを知らない。
血液型や家族関係とかも、プライベート何にも知らない。
それを痛烈に感じた。
しばらくご無沙汰してたのに、いないと分かったら必死なんて
調子のいいことこの上ないな、と自分のこと思うけど、
でもこの焦燥感、虚無感を否定出来ないでいる。
気付いたらフラフラと御苑前まで来てしまっていた。
モリオが一度連れていってくれた二丁目のバーに
行ってみようかと思ったけど、思った途端足が前に出なくなった。
モリオの触れてはいけない部分に触れる気がして、やめた。
よく知ってるようで、全然知らなくて
近いようで、遠いようで。実像より記憶の方がリアル。
いなくなってから存在感を発揮するなんてズルくない?モリオ。
あんたはいま糸のどの辺上ってんのよ?
風はもうあたしたちの糸を寄せてはくれないの?
こんな曇り空が続く間はモリオの記憶を反芻するんだろう。
「ロンドン日和だぜ」
笑いを含んだ声が聞こえてきそう。
この町の華やかな看板の中でもどっこい笑ってそうな気がする。
またいつかきっと風のきまぐれで出会うこともあるだろう。
それが一番らしいのかもしれない。