ミュージカル「アラバスター」振り返りの続き♪
この作品の裏の主人公ともいえるのが、美しいだけが取り柄の、冷酷無比なインターポールの捜査官ロック。
この作品を観に来たオタクたちの心を、ぜーんぶ持って行っちゃった気がするなぁ。
演じる矢田さんがこちらも納得できるビジュアルの良さで、登場時から周りを見下してる感じが既にクズなんだけど、ここまで徹底すると逆に清々しかった。
刑事役の田村さんが歌う「ミスター・ロック」で出てくる「にほん」をわざわざ「にっぽん」って言い直したり、アラバスターについて話しているのに自分の価値観の話に逸れて行ったり。
こうして現在という軸での物語が動き出す。彼が日本に招かれてから、アラバスターが起こした最初のテロ、イタリアの教会襲撃がゲンの初登場シーンでした。
我が推し、スキニー履かせて銃を持たせたら最強やなって思ったのはわたしだけでしょうか。
少し前までスポットライトで存在を示していた亜美が、ここでは影として現れ、ゲンと共に銃を携えて現場へ向かうのだけど。
影役の穴沢さん。劇中はずっと目隠しのようなものを付けていて、お顔が口元しか見えない。だけど、目だけで気持ちが伝わるように、口元だけでも伝わるものなんだなって思った。
影が活躍する部分と、スポットライト&涼風さんの声で紡がれる部分。上演が終わってから思い返したんだけど、目にするのが辛い場面は後者のパターンが多いのよね。
だから観ている側は想像力を刺激される。
昔に比べて制限が多くなっている今の時代に、昔の作品を出来るだけ忠実に再現する。そのために各分野のプロが集い、考え抜かれた手法なのだと思いました。
そして慈悲を求める神父に、のぶ兄アラバスターが浴びせる歌声の暴力。こちらまで飲み込まれそうでした。彼のソロで劇中いちばん痺れたのは、このナンバーかも。
東京で世界的なモデルが行うショーを狙った第二のテロ。それに向かう前のゲンと亜美とのシーンは、個人的に好きな場面のひとつです。
無邪気にはしゃぐ亜美と、それを見つめるゲンの表情がとてもやさしくて、本当にこの人たち悪いことをやってる集団なんだろうか?って思うくらい。
実際、メンバーもアラバスターの正義に巻き込まれて、何が正しくて何が間違っているのか、分からなくなっているんだろうな。
アラバスターに指示を受けた後、ゲンが歌うナンバー。ついさっきまでとは打って変わった、闇を感じさせる重めの歌声にハッとさせられました。
敬多ってこんな声も出せるのかと。アラバスターでの敬多は、これまでの作品よりも自信を持って歌ってるように見えました。だからこちらも安心して聴いていられた。
いいものを見せてもらう。今のわたしがいちばんに求めていることを、満たしてくれた期間でもありました。
東京でのテロは結果的に失敗だったのよね。モデルの付き人として潜入したロックの変装。お顔が綺麗だから全然違和感なかったなぁ。
そして、正体を現してからのキレっぷりよ。アラバスターも思わぬ敵に戸惑っていたようだし、信頼がないのか、連れ去られた亜美を助けにすら行かせてもらえないゲン。
一幕最後、ロックが亜美を山小屋に連れ込んで弄ぶ場面は、実際そこに亜美が居たら、きっと直視できなかっただろうな。
声だけの出演ということに賛否両論だったようだけど、この場面に限って言えば、これが正解だったんだと思う。
残酷なほど無邪気に、スポットライトの位置にいるであろう亜美を蹴り倒すロック。ロックと離れた位置にいるのに、一拍のタイミングのずれもなく受け身になる亜美の影。
そして、泣きながら抵抗している亜美の姿がそこに見えた。涙声なのに全くブレない。言葉が埋もれることもない。辛いシーンなのに全てが圧巻でした。
きっとそれまでの亜美は、どこか少女の面影を残していて、誰かに依存し、自分が何者なのか、美しさの定義とは何かをずっと探していたと思うんだけど。
この出来事をきっかけとして、完全に変わったんだろうね。ミュージカルならではの、時系列には属さない二幕の導入部。
優しい音楽の中、優しい表情で周りが佇んでるのに(なぜかここでもゲンが少し踊ってた。荻田先生ありがとうございます)、亜美だけが違った。
自分は魔女だと宣言する声に、影の表情に狂気が見えた。アラバスターは満足そうだったけど、逆にゲンはそれを目にして、亜美を救いたいと思ったんだろうな。
協力を求められた力仁、そもそも最初に大事な妹を利用した奴を、しかも「愛してる」とか言ってる奴を(笑)よく信用して承諾したよね。
それぞれに亜美のことを想ってのふたりのデュエット、すごく良かった。
ゲンと力仁がアジトに向かうのと、アラバスターが元恋人の令子の元に現れる場面って、時間軸としては同じくらいかしら。
演じた遠藤さんが「舞台上でこんなに背筋が凍る体験をしたことがない」っておっしゃってたけど。
令子はきっと、自分の言葉ひとつで彼がここまで変わってしまうとは思っていなかったし、今になって現れてどうしろと?って思ったんだろうな。
だけど佐野次郎にとっては、令子とは両極端のところに亜美に執着するようになってしまうくらい大きなことで。
「親代わりになるべき者」のはずが、亜美を女王として求める男になったときには、ロックとは別の意味での救いようのなさを感じてしまった。
だけど、亜美の方にはかろうじて人間としての心が残っていたのかな。アジトに現れた力仁とゲンとのやりとり。
強がっていても、逃げ回っていても、どこかに戻りたい気持ちが見え隠れしていて、きっとそれは必死に説得を試みる、ふたりからの愛情を感じ取れたからなんじゃないかと。
そんなタイミングで現れるロックの狡猾さよね。劇中で何度か繰り広げられたアクション、この場面を含めていつも力仁はやられっぱなしで。
だけどここでのゲンは、惚れ惚れするくらい強かった。一連の動きを思い返してみる。一発撃たれた状態で、ロックに掴みかかって、残りの弾を全部使わせて。
頭突きを食らわせて、銃を奪い取って、ロックのあの綺麗なお顔をめちゃくちゃに殴る。あースカッとした。(おい)
願わくは、このあとロックがグチャグチャになった自分の顔に失望して海に身を投げるか、放心状態で動けなくなって、結局は自分が仕掛けた爆弾で自らも爆破されてたらいいのに。
そう本気で思えるくらいの、矢田さんの憎きロック。あっぱれでした。
自分はもうダメだと悟り、力仁と亜美を屋上へと逃がすゲン。あんな息も絶え絶えで歌うなんて、恐らくミュージカルでしかやらないよね。
音になっていないようで、でもちゃんと言葉には魂が宿っていて、来世はふたりが違うかたちで出会えますようにと願わずにはいられない場面でした。
ここで一息。AKANEさんとアンサンブルの方々による魂のシャウト。そして、亜美の渦巻く心情を表現する穴沢さんのダンス。
銀テープがわんさか飛び散ってる中で、ハイヒールで、しかも前髪がずっと目にかかった状態になる目隠しをしたままで踊るなんて、最初はヒヤヒヤしてたけど。
プロですね。プリシラ初演の後から出演情報をチェックしていて、いつもは積極的に発信するタイプだと思ってたけど、今回は開幕まで役柄のことについて何も言ってなかった。
この役に賭ける彼の想いを見た気がしました。
さて、話が戻ってアラバスターと亜美を守ろうとする力仁との闘い。どう考えても力仁に勝ち目はなさそうだと思ったんだけど、それでも結果的にアラバスターが海へと消えていったのは・・・
きっとゲンと力仁が自分を守ってくれたこと、彼らの想いを受け止めて、彼女自身の意思でアラバスターをはっきりと拒絶したからなんだろうね。
「誰よりも見た目にこだわってるのはあなた」「わたしは自分自身の姿に誇りを持ちたい」これらの言葉は、今の世の中だからこそ心に響いたのかもしれません。
せっかく自分を取り戻したのに、自分自身に誇りを持ちたくても周りがそうさせないから、このまま生きては行けないと、夕日になってしまった亜美。
あと一歩、あと一歩だけ力仁の想いが届かなかった。結局誰も救われなかった。だけど、それこそがアラバスターという物語なのだと思いました。
劇中では重苦しい空気が漂っているのに、カーテンコールになった途端、今のは夢だったのかな?と思えるような和やかさを見せてくれたカンパニー。
少数精鋭とはこのことかと思えるほど、みなさん歌声もお芝居もダンスも、その表現力が素晴らしかった。その中に敬多がいるってことが誇らしい。
わたしが劇場に足を運ぶきっかけとしては、敬多が出ているからというのがいちばん多いけど、そこから色んな出会いがあって、視界が広がっていくのも楽しいです。
次はどこに連れて行ってくれるのかな。ハードルをもっと上げて待っていることにしよう。
20周年の前に何とか書き終わったー(笑)今この瞬間からようやくライブモードです。
あと2日。どうか笑顔溢れる記念日になりますように。それでは、また~☆彡