私が今暮らしてるところの近所に、タコを干してるところがあります。
棒みたいなのでびろーんと引き延ばされて、割と高いところに吊るされてます。
それも、ちっちゃいタコじゃありません。頭から足まで入れたら20~30㎝くらいのまあまあでかいタコ。
海沿いの車道の脇に干してあるので、けっこう目立ちます。
私も初めて見たときは、思わず二度見しました。そもそもテレビや水族館以外でタコ見ることなんてないんだもの。
それが5年も経っちゃうと、すっかり生活の景色の一つになってしまいます。
家の近くの公園で、奈良公園から流れてきた鹿がブランコの下の雑草をもしゃもしゃ食べてても
「あら、こんなとこ(人里)まで降りてきたのね」
としか思わないのと一緒です。
(例えが分かりにくすぎてすみません。奈良出身なんです)
道路沿いの電信柱の近くで干されて乾いたタコがゆらゆら風に揺れていると、なんともいえない趣を感じます。
思えば遠くに来たもんだ…。タコを干してる島まではるばる…。
タコって、水の中で生活してる生き物だからやっぱ水分が多いんですよね。
干すにあたって、カビとか生えたら困るのでできるだけ早く乾かしたい。干す前に水分を少しでもとばしときたい。
ってことで、干す前に洗濯機(二層式なんですかね、やっぱり)で脱水をかけるんよ、と聞いたことがあります。
絵面を想像するとめっちゃシュールすぎ…洗濯機の中で回るタコたち…。
その洗濯機はタコにしか使わない「タコ専用洗濯機」だそうです。いらんトリビア。
タコを干してるのはどこの誰かというと、その近くにある魚屋のおじいさんです。
もう80は余裕で過ぎているだろうおじいさんが営んでいる魚屋、店の外には昔ながらの生け簀もあります。
これも道路沿いにあるので、側を歩きがてら中をそっと覗くことができます。
ある時、あんまりじろじろ見たら買わされそうだし…とちらりと盗み見したらタコが1匹入ってました。
これは夫が見た話です。
仕事中車で出ていた夫が、件の魚屋の近くの信号で止まりました(くどいですが、タコ干してるのも魚屋も大きな車道沿いです)。
何気なーく魚屋の方に視線を向けていると、生け簀からにょろにょろとあるものが這い出して側溝に逃げ込もうとしてたと。
そう、タコです。
えええ、と思いながら見ていると、ちょうど側溝の近くに押し車を押したおばあさんが通りかかって
問答無用とばかりに素手でタコを掴んで即生け簀に投げ込んでた
夫は興奮気味に以上のことを語っておりました。え、タコってそんな簡単に素手でつかめるん?
もうそろそろタコを干し始める時期のはずですが、いつもの場所にタコはいません。
今年の春ごろから、魚屋さんは閉めてしまったのです。
生け簀は水も入っておらずカラカラ。表はシャッターが降りたままです。
店のおじいさんはいい歳だったし、コロナの影響もあってもうやめてしまったのかもしれません。
思い出の中だけの干しタコが、今年もゆらりゆらりと揺れています。