2020 AUTOBACS SUPER GT Round8 たかのこのホテル FUJI GT 300km RACE
富士スピードウェイ 4.563km×66Laps=307.098km(フォーメーション周回追加により65周に減算)
GT500 class winner:RAYBRIG NSX-GT 山本 尚貴/牧野 任祐
(Honda NSX-GT/TEAM KUNIMITSU)
GT300 class winner:埼玉トヨペットGB GR Supra GT 吉田 広樹/川合 孝汰
(T御与太GR Supra/埼玉トヨペット Green Brave)
2020年のSUPER GTも最終戦となりました。昨年のDTMとの特別交流戦や、かつてのエキシビション戦・JAF GPが開催されていた11月末、普段ならレースをしてない季節のレースとあって、寒いのでピット リポーターの高橋 二郎の口が回っていませんw
前回のレースの最後にちょろっと小ネタ程度に扱いましたが、KONDO RACINGは監督の近藤 真彦が不倫報道にともなってレース現場に来ないことになり、GT300で選手権リーダーのリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rは監督抜きでのレースになります。
刑法犯ではなくあくまで私的な不法行為である不倫において社会的制裁や報道がどう取り扱うべきか、というのは毎度のテーマですが、このチームは日産自動車大学校と提携して人材発掘・育成を標榜してもいるので、人としてすべきでないことをした人間がトップに立つべきではないとは個人的に思います。もちろん、一度の誤りでその後金輪際復帰不可能、というのは制裁として不釣り合いですし、当事者間での解決が成されていれば一応終了する問題ではありますが、「レースは関係ない」というのもちょっと違うと思いました。
一方で、この報道に関しては、その取材過程から考えて、SUPER GTが組み立ててきたCOVID-19感染対策をすり抜けての取材ではないか?とする、不倫の扱いとはまた別の問題もあるようです。オートスポーツwebの記事を併せてご覧いただければと思います。
予選では、低温のせいか植毛ケーズフロンティア GT-Rがいきなりターン2で滑って自爆する始まり^^; GT300クラスは埼玉トヨペットGB GR Supra GTが従来の記録を1秒以上更新する驚異のタイムでPP獲得。1分34秒台の予選タイムというのは、いわゆる09規定が導入された2009年ごろのGT500と同等の水準です。
ちょうど前方をSUBARU BRZ R&D SPORTが走っていて、BRZが1回目のアタックを途中でやめて仕切りなおしたためにちょうどいい感じにスープラの前方へ。これでスリップストリームが貰える距離にいたのも大きかったと思います。
2位がBRZ、3位がADVICS muta MC86で、JAF-GT300とマザーシャシーでトップ3独占。リアライズGT-Rは7位、逆転を狙う選手権2位のLEON PYRAMID AMGは5位でした。
GT500クラスはKeePer TOM'S GR SupraがPP。平川 亮がQ1、そしてニック キャシディーの代走・山下 健太がQ2で見事にPPを獲り、平川に貴重な最前列とボーナス1点をプレゼントです。前戦では久々&けっこうぶっつけ本番で、感触の割にタイムが伸びずQ1敗退、平川に繋げなかったですが、今回倍返しの仕事をしました。上位4台をスープラが独占、選手権トップのKEIHIN NSX-GTはQ1敗退で12位と苦しい状況になります。
Modulo NSX-GTがNSXで最上位の5位、MOTUL AUTECH GT-RがGT-R最上位の6位、そして7位にRAYBRIG NSX-GTで、チャンピオン コンテンダーのNSXとしては最上位です。
RAYBRIGはスタンレー電気の商品ブランドでしたが、このレースを前にして2021年3月にブランドをスタンレーに一本化することが発表され、「RAYBRIG NSX」はこのレースで最後だと発表されました。SUPER GTではスポンサー名=車名=チーム、みたいなイメージも強いので、「レイブリックが撤退」と、ややもするとチームが撤退するかのような誤解をする方もいそうですが、ブランド名が無くなることによるスポンサー契約の終了です。
ただ、来年スタンレーのブランドで継続するのかと聞かれると、発表されている文言やドライバーの雰囲気を見たら、少なくとも決まっているようには感じないのが正直なところです。あくまで勝手な憶測ですけどね。なお、KEIHINも日立オートモティブシステムズがショーワ、日信工業とともに合併され『日立Astemo』という企業になるため、会社としては消滅します。
気温8℃、路面温度13℃ととても寒い決勝、フォーメーション周回が2周に設定されましたが、隊列が整わず、追加でもう1周して計3周に。もしKeePerのドライバーがルイス ハミルトンなら煽り運転しながら「ペースが遅い」と文句を言ったことでしょう。レース前のインタビューで「タイヤが固め」と言っていたので、嘘をついて揺さぶったのでなければこのスタート前の熱入れが重要です。
1周減算されて65周となりスタート。5位スタート、熱入れの早いミシュランを履くMOTUL AUTECH GT-Rがある程度最初に勝負してくるであろうことは予想できましたが、KeePerがやや熱入れに苦戦するせいもあって、コカコーラコーナーでまず4位上がると、ダンロップコーナーで4ワイドかという争いから大外刈りで全員まとめて抜いて先頭に立ちます。おそロシア(;・∀・) KeePerは2位はなんとか守り切り、次第にタイヤに熱が入ると前を追い始めます。
一方GT300はスタート直後のターン1でBRZがスープラをパス。ブリヂストンは熱の入り方がやや遅いようで、LEON AMGも少し順位を下げました。ただ彼らはおそらくタイヤ無交換と予想されるのである程度は想定の範囲内でしょう。
7周目のターン1でKeePerがMOTULを抜いて先頭を奪還。一方後ろはスープラ同士で争って少し離れており、なおかつその争いの中で予選2位のDENSO KOBELCO SARD GR Supraと予選3位のau TOM'S GR Supraが接触、デンソーは左リアを破損して緊急ピットし争いから脱落してしまいます。
GT300も9周目のターン1でスープラがBRZをパス。盤石のレース運びになってきました。仮にこのまま優勝した場合、リアライズGT-Rが5位以下ならチャンピオンになります。現在リアライズはその5位です。
MOTUL GT-Rは最初に攻めたせいでグレイニングでもできたのかペースが上がらず、11周目にauもこれを抜いて2位へ。一方予選4位だったZENT CERUMO GR Supraは逆に後ろから来るNSX勢に抜かれて6位に後退。予選トップ4のスープラはトムスとそれ以外で散り散りになってしまいました。
MOTULの後ろではなんとスタートからすいすいと前に出たKEIHINが4位にいましたが、13周目にRAYBRIGがパス。元々予選順位ではこちらが前でスタートしていました。ホンダ同士で連携する雰囲気でもなく真剣勝負しているようです。トヨタは早々に身内で接触してしまいましたが、こっちは大丈夫でしょうか^^;
17周目、GT300でリアライズGT-RがGAINER TANAX GT-Rを抜いて4位に浮上。ただLEONもすぐ後ろに続いています。仮にいつも通り4輪交換vs無交換だとピット後に大きくLEONが順位を上げてひっくり返る可能性があるため、リアライズはもうちょっとがんばり続けないと安心とは言えません。
一方GT500はKeePerが2位のauに15秒近い大差をつけて20周を経過。DENSOと接触した影響があるのかどうなのかauはKeePerを追えず、逆にRAYBRIGが追い付いてきました。そして22周目、ダンロップコーナーの飛び込みでかわしていきます。今コース上で唯一KeePerとペースで対抗できそうなのがRAYBRIGのようです。
22周目、そのRAYBRIGがピットに入ると一斉にピット サイクルがスタート。そしてその22周目に入ったWAKO'S 4CR GR Supraがタイヤ無交換のギャンブル、翌周にピットに入ったKeePerをコース上でかわして実質トップとなりました。仮にこの順位でゴールなら逆転でチャンピオンですが、さすがにそう甘くはなく27周目のヘアピンでKeePerが再度実質トップへ。
この後WAKO'Sは30~31周目のストレートでRAYBRIG、auと2位争い。auの関口 雄飛は最終コーナーを最も外側から立ち上がり重視で立ち上がり、
RAYBRIGのスリップを貰う→RAYBRIGにサイド ドラフトを使って蹴落とす→WAKO'Sのスリップを貰う
で一気に2台抜きしかけましたが、中古タイヤのWAKO'S・坪井 翔が頑張りすぎてターン1を止まれず関口に接触して押し出し。これでRAYBRIGが結果的に得して単独2位、トヨタ勢はまた身内で接触してしまい、WAKO'Sはこの接触のせいで緊急ピット、リタイアとなってしまいました(´・ω・`)
一方GT300のピット戦略はやっぱりスープラもLEONも無交換。スープラはBRZにコース上で30秒近い差をつけていたので交換しても全く問題ない気がするんですがそれでも無交換、ライバルからすれば完全お手上げです。
実質的な順位ではLEONが2位、リアライズが4位。この順位だとチャンピオンはLEON。リアライズは3位に上がるとリアライズがチャンピオン、逆に両方が1つ下げるとスープラがチャンピオン。スープラはもう自力で稼げるものは無いので、あとは後ろの争いに託すしかありません。
一方、ピット前には2位だったBRZ、どうしてもピットでの静止時間が長い上にタイヤへの入力が小さい=アウト ラップが遅いので実質7位あたりまで下げてしまいました。結局タイヤが厳しくてロングでのペースが上がらなかったらしく、BRZは8位でレースを終えました。
その後リアライズは3位のADVICS 86を追走。明らかに上回るペースで追い上げると、残り9周でとうとう真後ろに。ダンロップコーナーでぴったり張り付くとターン13でもうADVICSの小高 一斗はウインカーを出してどうぞどうぞ走法。これでリアライズがチャンピオンの権利を自力で手にします。この後、ポイント的には関係なくなりましたがLEONもコース上でかわしました。
一方GT500のトップ争いも安泰とは行かず、最大16秒以上あった差が、残り20周あたりから一貫して減少していきます。元々、燃費的にNSXはスープラに勝っていると言われており、レース距離の2/3、約200kmを走るにはスープラは燃費走行がより必要と考えられます。燃料の問題ではないかと思いながら見ていました。
そして残り10周で8.2秒、残り5周でとうとう3秒になります。さすがにここでKeePerの平川も対抗して少しペースを上げてきます。燃料を使って良い許可がとうとう下りたのかな?なんて思いつつついに最終周、その差は約2.5秒。万一にもガス欠することがあるかもしれないけど、まあそんなことは滅多に起きないだろうな、とも思って見ていましたが、その時は訪れました。
最終コーナー出口、加速しないスープラ。明らかに燃料切れです。RAYBRIGがその脇をすり抜け、残り僅か、たぶん700mぐらいでしょうか、まさかの大逆転。RAYBRIGが大逆転優勝でチャンピオンを獲得しました。そのRAYBRIGも最後ガス欠してチェッカー後にコース中盤で止まってしまいました。
とりあえず2位でチェッカーを受けたもののすぐに止まってしまったKeePer TOM'S GR Supra
信じられない事態に座り込み、怒りから壁にパンチを見舞う平川
GT300はスープラがテレビに映らないレースでそのまま優勝、リアライズGT-Rは2位でチャンピオンを決めました。マッチさん、せっかく長年レースに携わって一生懸命やってきたのに、自らの過ちでこの現場にいれなかったわけですから、芸能活動の自粛よりこっちの方がよっぽど精神的ダメージデカかったんじゃないでしょうかね。
ちなみに、ちょうど埼玉トヨペットスープラとリアライズGT-Rの間にGT500のリーダーがいたため記録上2位以下が全員周回遅れ、リアライズはGT300車両で最初にチェッカーを受けたわけですが、その前の周の段階で両者には42秒の大差がついていました。
GT500の結末はさすがに予想外でしたが、事後情報を見るとこれまた意外な状況が見えてきました。
詳しくはオートスポーツwebの記事を読んでいただければと思いますが、私の想像では、KeePerは燃費走行を強いられ、RAYBRIGが追い、最後に抜かれないようにちょっとペースを上げたら足りなかった、とこんな感じだと思っていました。
しかし、エンジニアの言葉が事実だとすれば、要約すると
RAYBRIG:満タンにしたけどそれでも余裕が無いので、リフト&コーストやマップの変更、アンチラグを切って燃費走行した。最後は山本がダメ元で行かせてくれというからアンチラグを入れた」
KeePer:給油では満タンにしていないけどギリギリではないと思っていた。最後の最後に燃料の警告灯が点いたと聞いて驚いた。考えが至らなかった
とこういうことなわけで想像とはまるで状況が違いました。止まった原因がガス欠である、という前提ですが、客観的な感想を言えば、KeePerはピット前には2位に15秒の差をつけていたので、そこまで給油量で攻める必要性は無かったのに何でそこまで攻めたの?ということです。私が言うと「ど素人が知りもしないでうるさい」と言われそうですが、仮にGTの解説を川井 一仁がやっていたら、たぶんこのコメントを見たら同じことを言う気がします。そして「うるせえ川井」と文句を言われるでしょう(苦笑)
冗談はさておき、振り返れば前戦のもてぎ、SCがひょっとしたら入らないこともない状況で、トップ2のNSXだけが入って結局得しましたが、ライバル勢は「あそこで入ったら燃料が足りない」というのが入らなかった理由の1つでした。ストップ&ゴーのもてぎと比べれば高地の富士は燃費が良いですし、空気抵抗が少ないと思われるスープラは、富士であればエンジン側の燃費のデメリットをある程度車体で相殺できると思われます。
それでも、200kmを走るのはなかなか楽ではないことに変わりなく、ましてやある程度大きなリードがある中でしたから、あまりにもったいない判断だったように思います。
もっとも、最終的に燃料切れに追い込んだのは山本の速いペースでの周回と賭けに出たことにあります。そして、そもそもレースのきっちり1/3を経過したところでほぼ全車ピットに入ってしまう、というのは、ピットサイクル中にSCが出て事実上レースが決する事態があまりに続いたせいでもあり、『見えないSCの脅威』が長い後半スティント、燃料勝負を生み出したもう1つの要素だと思います。
また、WAKO'Sが無理せずにauを先行させていれば、少なくとも数周はRAYBRIGを抑えられた可能性があり、そうすればもう少しKeePerは燃料が危ないと気付いてからでもセーブする余裕が生まれたはずなので、トヨタ同士の同士討ちもまたRAYBRIGにタイトルを奪われる一因だったと思います。
もちろん正面から遠慮なく勝負するのは見る側としては素晴らしいので別に見る側からすると文句は無いんですが、陣営内に多少「どうやってもうちらの誰かがチャンピオンになるだろう」という打算、NSXの追い上げを甘く見ていた心の隙みたいなものもあったのではないかと感じたレースでした。
GT300の方はタイヤ無交換のスープラはもはや別カテゴリー状態でしたが、そんな中王道の四輪交換でペースで戦ってチャンピオンになったリアライズはお見事、「ブリヂストンじゃなきゃ勝てない」という雰囲気が漂うGT300で、ヨコハマで勝ったことにも価値があると思います。GT-Rも車体として非常に速いですし、あまり得手不得手が無いのが強みですね。タイヤ摩耗は決して良いわけではないんでしょうが。
まあ今季はSCに翻弄されることが多くて、FCY制度の導入を望む声が一気に内外で増えたと思うので、どうにか来年は、というところです。
なお、植毛ケーズフロンティアGT-Rは20位で今季もドライバー選手権は無得点でしたが、チーム選手権でNILZZ Racingはクラス25位。ギリギリBシードの順位、かな^^;