NASCAR Cup Series
GEICO 500
Talladega Superspeedway 2.66miles×188Laps(60/60/68)=500miles
※NASCARオーバータイムにより191周に延長
competition caution on Lap 25
winner:Ryan Blaney(Team Penske/Menards/TruWave Technology by Sylvania Ford Mustang)
NCS at タラデガ。今季2度目のSSWです。デイトナでのライアン ニューマンの事故を受けて安全面でいくつかの
規則変更がありました。テイパード スペーサーの径が59/64インチ→57/64インチに縮小され、これにより
40馬力ほど低下が見込まれます。また、ドライバー保護のための追加の安全バーがSSWでは装着義務化
(他のトラックでは任意)となった他、ドラフトを効きやすくするエアロ ダクトをSSWでは排除、バンパーに貼って
車体同士が引っかかるのを緩和するスリップ テープの貼り付け範囲拡大といった策を講じました。
レースは雨のため月曜日に1日延期されましたが、開催前に大きな事件が発生してNASCARは騒然としました。
今回のイベントの流れと不可分なのでここからお伝えします。
日曜日午後、リチャード ペティー モータースポーツが使用する4番ガレージに『先端が結ばれた縄』が
あることが発見され、NASCARに通知されました。これは人種差別的行為として知られるものの1つで、
要するに『首吊って死ね』という意味合いで、黒人の家の前などに置かれることがある行為です。
RPMのドライバーは唯一の黒人ドライバーであるダレル ウォーレス ジュニア。社会は今人種差別反対運動の
機運が高まっている情勢であり、NASCARもこの週末から、人種差別を想起させるとされる、いわゆる
『南軍旗(Battle Flag)』の使用を停止すると決定していたタイミングでした。
これはウォーレスを標的にした憎悪犯罪である、とみなしたNASCARはすぐさま調査を開始。ガレージは
一般の人が立ち入れる場所ではないことから、トラック、ないしはチーム関係者が関与している可能性もあり、
翌日にはFBIが捜査に入る一方、対外的には差別反対の意思を明確に発信するとともに『被害者』である
ウォーレスへのサポートと連帯を示し、レース前にはウォーレスの車両を前面に出しての行進も行いました。
というわけで、この週末のNASCARは普通の雰囲気ではなかったことが分かりますが、そんな中で、
まだ調査結果が出ていない中で行われたレースはデイトナ500同様フィニッシュ直前まで
激しい争いが展開され、ライアン ブレイニーが昨年の秋に続いてタラデガで連勝を果たしました。
PPくじを引き当てたのはマーティン トゥルーエックス ジュニア、2位にデニー ハムリンと、スタート順位は
抽選なのにチームメイトが見事に終結、序盤はカイル ブッシュを含めジョー ギブス レーシングの3台でリードを
固める場面があります。しかし展開が長続きするはずもなく、ペンスキー勢とリッキー ステンハウス ジュニアが
前方に出てレースを展開。ステンハウスはチームもメーカーも変わったのに相変わらず速いのが興味深いですね。
結局コンペティション コーションの25周時点ではジョーイ ロガーノ、ブラッド ケゼロウスキー、ブレイニーと
ペンスキーが1-2-3でした。
リスタート後も似た展開。時折3ワイドになって「おいおい、まだステージ1なの忘れてないか?」と心配に
なりますがトラブルなく進行していきます。
一方荒れ模様なのは天候で、ターン1の奥側に黒い雲があり、その関係か風も強くフロントストレッチで
強い向かい風が吹いているようです。
ステージ残り6周、ハムリンは右前タイヤを傷めたようで緊急ピット、争いから離脱してしまいます。
そしてその直後、雨によりコーション発生。1時間ほどの赤旗になりました。
リプレイを見るとどうやらターン2を出た後、追い風のせいで思ったより曲がらずにウォールに当たったのが
タイヤを傷めた要因のようでした。ちなみに、今回ハムリンはいつものFedExカラーではなく黒一色。
国立公民権博物館をフードにあしらった特別スキーム。FedExは博物館に50万ドルの寄付をした、と
博物館のTwitterが伝えており、フェデックス自ら自社の宣伝をせずに、今回は権利の大事さを伝えようとした、
ということのようです。
中断を終えてステージ残り2周でコーション周回に戻りましたが、リスタートは当然されないためそのまま
義務的に周回をこなしてステージ1は終了。コーション時点でリーダーになっていたタイラー レディックが
初のステージ勝利を手にしました。なんかこの大物新人は持ってますねw
ピットでは順位に変動、レディックは遅れてしまい、アレックス ボウマンとジミー ジョンソンが1列目で
ステージ2開始。リード ラップ車がみんなピットに入ったのでハムリンはウエーブ アラウンドを選択して
リード ラップに復帰しました。
ジョンソンは相変わらずSSWでは人気が無いので後ろからあまり押してもらえず、3ワイドのレース展開。
本来ならピット作戦はメーカーごとに展開を見つつ考えられますが、今日はまたいつ雨が降ってもおかしくないので
とりあえず走れるだけ走る方向性。やはりペンスキーが引っ張る場面が多くなります。
ちょうどレース成立条件である半部を過ぎた95周目、ジョン ハンター ネメチェックの左リアタイヤの圧が
いきなり落ちてスピンしコーション。
DEATH WISH COFFEEというコーヒー豆販売会社がスポンサーです。通常の2倍の量のカフェインが含まれている、
と謳う『世界最強のコーヒー』だそうです。
ウエーブアラウンドしたため燃料的に真っ先にピットに入るしかなかったハムリンにとってこれは好都合、
当然全車ピットに入り、順位重視で2タイヤ交換が主流です。
112周目、カイルにゴンゴンと押されていたステンハウスが、ブレイニーが乱れた一瞬のスキを見逃さず前に出て
ペンスキー鉄道の頭を抑えます。さらにペンスキー勢が動くとステンハウスはカイルを裏切ってカバーに回るなど、
一気に動きが激しくなりました。ブレイニーはケゼロウスキーに押されすぎてスピン寸前でしたが一切アクセルを
戻さなかったようでカウンターを当てながらリードを奪還( ゚Д゚)
ステージ2終了へ向けて盛り上がる、と思ったら114周目にデブリーでコーション。熱くなりすぎてビッグワンが
起きる前に水を浴びせた格好になりました。戦略が分かれるタイミングでのコーションですが、ピットに入ったのは
15位以降の人たち。
そしてステージ残り2周でリスタートされると、1列目のブレイニーとステンハウスが「押させ押させ!」とばかりに
後方のプッシュを受けての争いとなり、僅差でステンハウスがステージ2を制しました。レース展開は
ペンスキー/フォードが優勢なのになぜかステージ勝利はいずれもシボレー^^;
押させ作戦でステンハウスのリアのスリップテープはもうボロボロですw
ファイナル ステージ。先ほどピットに入った組はステイ アウト、ないしは給油のみとしたため順位は大幅に
シャッフル。今季限りで引退のブレンダン ゴーンが3列目に来ました(・∀・)
リスタート早々の127周目、マット ケンゼスは異変を感じて隊列を離脱、トラック バーのマウントが壊れたようです。
安全に退避しコーションは出ません、さすが大ベテラン!
残り56周、チェイス エリオットがケゼロウスキーに押されている一方で前のロガーノに詰まってしまい、
ラインを変えようとしてたまらずスピン。オースティン ディロンがこれに巻き込まれますが、前方での
アクシデントのわりに少ない被害で済みました。
ここで給油してもまだ最後までもたないので上位はステイアウトし139周目にリスタートされますが、142周目、
ブレナン プールが単独スピン、ジョーイ ゲイスもあおりを受けたようでダメージを受けてしまいます。
ゲイスはカメラに映ってなくて何でクラッシュしたのかよく分からずw
今度はギリギリ燃料が足りる可能性があるタイミングなので上位勢もピットへ。6人ステイアウト、ピット組も
給油のみが多く、トップオフで複数回ピットに入る人もいて再びオーダーに大シャッフル。トゥルーエックス陣営は
燃料について「本当にギリギリ」と言っています。
クリストファー ベル、エリック ジョーンズという若手2人でのリスタート、タッグを組もうとしたのか、ベルが
リスタート後すぐにインに下りますが、ジョーンズをコース外に押し出してしまいあやうく大事故。
ベルはペナルティーを受けました。さらにカイルはトラブルで後退、ペンスキーがレースを引っ張ってないと
どうも全体に落ち着きがないですね^^;
とっ散らかったせいか隊列がバラバラになってしまい、暫くはウイリアム バイロンをリーダーに上位勢は
シングル ファイルに。そして、ようやく隣のレーンが追い上げてきたところから各陣営の思惑が絡み合って
動きが激しくなり、いよいよタラデガの締めくくりに向けた争いが始まりました。しかし忘れてはいけないのは、
このままレースが進めば燃料が厳しいということ。概ねどこも2~3周足りないようで、先行するとおそらく
燃料は足りなくなります。
残り8周、後ろについてじゅうぶん燃料をセーブしておいたブレイニーが3列目を作ろうとする動きを見せたのが
号砲となり一気に各車が動きを見せます。この時点でのリーダーはレディック。ブレイニーは後続をブロックしつつ
走っており最初はなかなかレディックを捕まえられなかったものの、ステンハウスを呼び出すことに成功すると
バンプを貰って一気に前へ。この段階でレディックは外されて後退(;・∀・)
ガス欠車両も出始める中、ブレイニーはまだ残りが4周もある中で右に左にかなりえげつないブロックを見せ、
後続がその動きを見つつ動いていたら、残り3周でアクシデント発生。
ケビン ハービックがジミー ジョンソンを引っかけてしまいました。ジョンソン、待望の勝利へ向けて3位から
組み立てようとした途端に回されてしまい不運。ハービックはちょっと狭いところに入りに行ってしまいましたが
レーシング インシデントの範囲ですかね。これでオーバータイムになります。
11台がステイアウト、12位のハムリン、13位のジョーンズはちょうどコーション前にガス欠してピットに
入っていたので結果的に燃料がじゅうぶんある組では先頭に。
オーバータイム、ブレイニーは後ろにいるステンハウスのプッシュを期待しましたが、肝心のステンハウスが
リスタートでズッコケてあっさりとハービック-クリス ブッシャーのタッグに先行を許します。
しかしようやく追いついてきたステンハウスがあらためてプッシュを開始するとあっという間に追いつき最終周へ。
バックストレッチでブッシャーをかわすと、ブロックに動いたハービックの逆をついてターン3でインへ。
ハービックは姿勢を乱してやや失速し、替わってステンハウスがまたブレイニーの背後へ接近。
外ラインではジョーンズをネメチェックが押して大逆転を狙い、いよいよフロントストレッチへ!
ブレイニーはジョーンズをブロックしますが、トライ オーバル部分で完全に横に並んで、、、ブレイニーが
ジョーンズに寄せて行きましたが、ジョーンズの横にはネメチェックもいたために接触し多重事故発生。
接触で失速したブレイニーの真横にステンハウスが来ましたが、結果はギリギリでブレイニーの勝利。
そして3位になったのは
クラッシュに巻き込まれてスピンしているエリック アルミローラでしたw
ブレイニーとすれば、アウトにいたジョーンズに寄せただけとはいえ、ちょっと全体にブレイニーは極端に
左右に動きすぎるところがあります。これはロガーノもそうですが、ちょっと走り方として汚いですし危険なので、
もうちょっと学んでほしいですね。ハービックはターン3の入り口でそんな極端な動きはしませんでしたし、
ケゼロウスキーも過度なブロックは嫌っているそうなので、リードしていてもここまで動き回りはしないでしょう。
一方ステンハウス、彼がリードしていても同様に荒れた可能性がありそうですが、それはそれとして、
非常にSSWで速いことが周囲のドライバーにも認知され、積極的にドラフトに組み入れたいドライバー、
という見方をされ始めたかなと感じます。上位へ行くためにはステンハウスを使うことが必要である、
とある程度認知されて外されにくくなっているように思いますし、こうした立場を手に入れると今後のSSWでも
常に上位の集団に入れてもらえますから、この後2戦のSSWでも注目の存在になりそうです。
最後にクラッシュしてしまいましたがジョーンズは5位、ネメチェックは8位と健闘。
そして我らがマット ディベネデトーはといえば
最終周のターン3手前で発生した多重事故に巻き込まれて191周目を完了できず26位に終わりました。
スピンしている青/白の車です。
ウォーレスは14位でフィニッシュ、今回僅かながらに入場が可能だったファンと喜び合い、インタビューを
受けてこの難しいレースを終えました。
さて、4番ガレージで発見された『縛り縄』ですが、レース後の火曜日、FBIは様々な情報を精査した結果、
縄は昨年秋のレース~このレースの間の期間の早い時期には既にそこに存在しており、一連の社会情勢が
巻き起こるはるか前から存在していたため、ウォーレスを狙った憎悪犯罪ではない、と結論付けました。
NASCARは開催される29のトラックの1684ヶ所のガレージを調べ、全部で11か所に結ばれたロープがあり、
そのうち『縄』はこの1つだけで、誰が結んだかは分からなかったとしました。
私の英語力と情報力だけでは限度があるので大まかな情報ですが、どうやら昨年の秋のレースで
4番ガレージを使用していたウッド ブラザーズ レーシングから『去年の段階で見た気がする』という情報があり、
The Athletic AutoのJeff Gluckが発信した情報によれば、昨年のものとされる写真で縄は既に結ばれています。
こうした状況から意図的ではないとする結論に至ったようで、結果的にNASCARの初期の反応は少々過剰だった、
ということになりました。今の情勢を鑑みれば、明らかに憎悪犯罪だと感じてしまうのも不思議では無いですが、
あまりに断定的な発信をしすぎてしまいました。思い込みで判断するのは怖いですね。
しかし一方で、縛り縄が見つかったという情報が出た段階から、捏造ではないか、といった声が出て、
さらに意図的では無かったという調査結果から、ウォーレスが異常に叩かれる状況にも至っているようです。
ウォーレスやNASCARが明らかに誰かを名指しでもして批判していたのなら問題ですが、今回の件では
『差別は悪である』という基本的な問題そのものが変わるわけでもない中で、組織であるNASCARが
一定の批判を浴びるのは仕方ないとして、普段からそうした差別的行為を受けているであろうウォーレスが
悪く言われるのは明らかに筋違いであり、何でもいいから揚げ足をとって批判してやろう、という意図ありきにしか
私には見えません。当事者である彼やチームが、縛り縄を見て恐怖を感じるであろうことは想像に難くないわけで、
そうした状況を考えずに非難するのは明らかに間違えています。
ガレージの割り当てを誰が決めるのか、といったあたりの情報がちょっと見当たらなかったので、
NASCARの担当の人間が『縛り縄がたまたまそこにあることを知っていたのでわざと4番に割り当てた』
という内部犯行の可能性や、元々昨年スタッフの誰かが差別的な意図でふざけて作った可能性が
この調査結果に含まれているのかどうかよく分かりませんが、偶然だったとしたらあまりにもタイミングが悪く
不運な出来事だったと思います。
さて、次戦はポコノ―。元々予定されていた土日の2連戦が行われます。これYouTubeの配信は
どういうスケジュールなんだろう?w