グランツーリスモSPORTのポイント レース、最近再三話題になっているのが、予選におけるスリップストリーム。
過度にスリップを求めるあまりコース上での極端なスロー走行が発生し問題になっています。
中には「予選のスリップを無効にすべき」「デイリー レースのように1台ずつ走行させればよい」
といった意見も見られます。今回はこの問題について私なりの見解を述べたいと思います。
〇なぜ今になって問題になったのか?
そもそも、スリップストリームを使った方が速い、というのは2017年にテストシーズンが始まったころから
ずっとあった話です。しかしこの問題が浮上したのはごく最近と思われます。なぜ今さらなのか?といえば、
つまるところ、燃料投棄走行が蔓延し、それにともなって、本来ならモラルが働いていたはずの極端な
低速走行に対するモラル意識が欠如してしまい、燃料消耗が無くなっても低速走行の部分が残ってしまった、
ということが要因と思われます。燃料投棄が流行る前は、ここまで極端にスリップを求めて
大渋滞が起こるケースはほとんどありませんでした。
〇低速走行は違反行為に該当するのか?
そもそも、スリップ欲しさに低速走行することは問題行為では無いのでしょうか?
GT SPORTはFIA(国際自動車連盟)の公認ゲームですが、そのFIAには国際モータースポーツ競技規則、
というものがあります。全て何でもかんでもこの通りにしなければいけない、なんてことは当然ありませんが、
物事を考える上での基本的指針であることは確かだと考えられます。スポーツモードの利用規約でも、
スポーツモードは実際の自動車レース競技と同様に公平性を重視する旨記載されているからです。
では、規則に何か該当するものがあるのか?というとあります。日本自動車連盟のサイト上に
日本語訳の規則がありますので、関連部分をそのまま抜きだして見ましょう。
FIA国際モータースポーツ競技規則付則L項
第4章
サーキットにおけるドライブ行為の規律
(2019年12月10日版)
第2条 追い越し、車両のコントロールと走路の範囲
(略)
e)いかなるときも、車両を不必要に低速で運転したり、不規則に走らせたり、あるいは他のドライバーに
とって潜在的に危険と見なされるような運転をすることは許されない。
不必要な低速での走行は違反だと書いてありますね。これが実際に起こったのが2019年のF1イタリアGP。
予選のQ3でスリップを求める駆け引きが世紀の茶番劇に発展。ニコ ヒュルケンベルグが先頭でピットを
出るだけ出ておいてターン1~2のシケインを曲がらずに通過して後続を先行させるという行動に出るなど
見るも無残な譲り合いとなりましたが、結局これに対して審査委員会は3名のドライバーに
過度の低速走行で危険を生んだとしてペナルティーを科しました。
つまり、基本的にスリップ欲しさにやたら低速で走行するのは、蛇行なんかと同じでやってはいけない行為、
と考えられます。ゆっくり走るのは違反では無いと思っている人がいるなら、まずここを認識していただきたいです。
〇スリップを使うこと自体を非難するのは間違い
一方で、予選でスリップを使ってタイムを出すことそのものを悪く言うのは完全に筋違いです。
これ自体は実際のレースでも起こることですし、普通にお互いに距離を保ちつつアタックに入って1周して
タイムを出しているだけです。私みたいにスリップに入ると遅くなる人もいますし、前がミスればもれなく
詰まってタイムを失うリスクもあります。『無理やりにでもスリップを使おうと振舞う行為』と
『スリップを使って好タイムを出す』ことは全くの別問題なので、スリップを使わずタイムを出した人が
スリップを使った人を、まるでインチキでもしたかのように言うのは間違っています。
こうした議論が過熱する過程で、必ず論点がズレて『スリップを使う=悪』のような極端なことを言い出す人が
出て来ると思うので、予め牽制しておきます。
好き嫌いはあるので、「俺はなんかセコイからスリップ使わない」というのはもちろん自由ですが、
批判の対象を間違えることがないようにしないといけません。
〇予選ルールを変えるべきか?
そして焦点の1つ、予選制度をさらに変えるべきかについて、先に書いた2点について考えてみます。
1 スリップ無効化
いちばん現実的な解決策ではあると思います。ただ、実際のレースですらあるものを封じることが果たして
いいのかどうかと言われると疑問があります。
「スリップを使うと実力が覆される」というような意見も目にしますが、それを言い出すと、じゃあ決勝で
スリップに入って、抜いてもいいのにあえて抜かずに燃料をセーブする行為はどうなのか。
本来単独なら直線が遅いので苦しい車が付いていくのはどうなのか、そういう話にならないでしょうか?
スリップがあるせいで燃料が節約されて卑怯だ、86が付いてくるのはおかしい、そんな話になるでしょうか?
先にも書いたように、スリップを使うことと、使うために非常識な動きをするのは別の話だと思います。
本質的に問題なのは「制度」ではなく「人間」のはずです。
2 単独走行(ないしは事前タイム)制
デイリーレースのように先にタイムを出しておく、あるいは1台ずつ制限時間内に別々の時空で走る、
という考えは確かにトラブルは起こりません。しかし、スポーツモードの基本は言うなれば「壮大なレースごっこ」。
実力通りにいかない不確定要素も含めての予選であり、それを否定するというのは競技の本質・魅力を
見失う気がします。
ミサイルは困るから接触は無効化して全て透明に、性能差があるのは不公平だから外観だけ別の車で
中身はワンメイクで、といった考えと似ていて、そもそも何をするゲームなのか、という本質が置き去りに
なっているように思います。
〇運営はきちんと発信すべき
問題は、基本的には参加者のモラルの問題でしかありません。しかしながら、運営は何かしらきちんと
発信する必要はあると思います。そもそも、予選での燃料消耗を無しにしたのは、燃料投棄の問題が
極めて深刻になったからに他なりません。本来であれば、規則の変更と同時に、なぜそういった状況に
至ったのか、といったこともきちんと発信して、同様の行為を行わないよういさめるべきです。
しかしそうしないでルールだけを渡して終わりにしてしまうことで、結局こうなってしまいました。
最終的にはスリップ無効なりなんなりの対応が取られることになるのかもしれませんが、私からすると、
モラルのない人間のせいでどんどん「レースごっこ」の魅力が削減されていくのは極めて残念です。
結局のところ、運営はトップ選手が堂々と行っていた行為を後付けで「こういうことをするな」とは言いづらい、
そしてプレイヤー側にも、ある程度
「知ってる人でもやってる人がいるからこっちは批判しづらい、ルールを批判しよう」という意識が多少なりとも
あるのではないでしょうか?
予選の制度を変えてこの問題が仮に解決したとしても、率先して利益を求める人たちはまた別のものを探して
同じような問題を起こすだけではないかと思います。毎回場当たり的にそこだけ塞いで、問題など何も無い、
知ってる人だけ知ってればいい、という態度が同じ問題を繰り返させます。
〇予選もできずにレースできる?
これは前回のGT SPORTの記事でもちょろっと書きましたが、結局ルールをどうしようとも、自身の利益のために
違反でなければ何でもやるという人がいることが問題なわけです。であるならば、予選だけルールを変えたら
上手く行くのかと言えば、そんな人ばかりが集まった状態でレースをして、まともにレースができるでしょうか?
というところに行きつくと思います。
私に知り合いの中にも、たぶん燃料投棄して人の邪魔をし、今度は低速走行で邪魔になってる人も
たぶん探したらいるんでしょう。
「他がやらないならやるつもりは無いが、他がやるならこっちもやらないと、そのせいで本来自分より遅いやつに
負けるのは納得がいかない」と、消極的参加をしている方もおそらく多いでしょう。
ただ、いくら言っても、模範になるべきトップの人たちがお互い相手のせいにして結局集団低速渋滞を
生み出していれば同じだと思います。ワールドツアーみたいな大きなイベントで人前で生放送されてても
同じようにみんなで渋滞作って無残な予選をやるつもりでしょうか。
非常に申し訳ないですが、モラルを守れず自分のことしか考えられない人は、いくらワールドツアー経験者でも
タイムアタックランク1位でも、ダメなものだダメとはっきり指摘されるべきで、そのあたりはうやむやにして
3年間やってきた運営の責任でもあると思います。
ありがたいことにこの文章を最後まで読んでいただいた方、どのぐらいいるか分かりませんが、その中で
トッププレイヤーと呼ばれる方、あるいはそうした方を応援している周囲の方、個人的な願望ですが、ぜひ
スリップ合戦との決別、あるいはそうするように声援を送っていただきたいなと思います。
振り返れば、燃料投棄は私が記憶する範囲では、2018シーズンの第1部屋では既にやってる方がいました。
私も半生放送で『なんか燃料減らす裏技コマンドでもあるんか~?』なんて茶化してたと思いますが、
(まあぶっちゃけ何やってるか想像ついてて小芝居してました)、じゃあみんな追随したかというと、ほとんど
誰も真似してなかったと思います。正直、やってる人があまり周囲からの評判が良くない方だったと思うので、
『相手にしてなかった』『そこまでやるか、と冷めた目で見ていた』ところが多かったんじゃないかと思います。
2018エキシビションも、2019本シーズンの開幕時もあそこまで広まってはいませんでした。
どこかで、『あの人がやるならこっちもやろう』という、モラルが崩れるタイミングがあったんだと思います。
そして、上位の発信力のある人がみんなやるようになった結果、どんどんと範囲が広がり、最終的には、
渋滞と接触事故だらけの予選になったわけです。
影響力のある一定数のプレイヤーが決別すれば、当座そのマッチング帯では低速走行する必要もなくなるので
渋滞も減るでしょう。故意に減速するのは悪い事なんだ、というイメージが広まれば全体に抑止力になります。
それでもなお、相手が見つからないたびに減速する人がいれば、堂々と批判の対象になっていただければ
よいと思いますし、基本的に違反行為ですから場合によっては処分されればよいだけのこと。
『みんなでやれば怖くない。悪いのはできるようになってるルールの方だ』はあまりに安易だと思います。
カッコ悪いことはしない、ルールだけで何もかもできるわけではなくて、一人一人の心がけが大切、
最初に見せられる映像の内容、覚えてますか?スポーツの意味、もうちょっと考えませんか?
追記:
gamyさんからコメントをいただきました。
私が参加しているランクではスリップ渋滞もそこまで酷くはないですね。
私は前後に誰か居るとグダグダになるので、前後に誰も視認出来ないくらいボッチを狙いますがw
同時走行の予選を無くしたりスリップを無くしてしまうとすれば、レース気分を削がれる感じがして
残念な感じがしますね。単独でのタイムアタックはあくまでもタイムアタックであって、レースの予選では
無いと思っているので。
ある程度常に安定した走行ができるレベルの方々と異なり、そうでないレート帯のプレイヤーはスリップを
求めて渋滞するよりも、自分のタイムを出すべく周回した方が結果は出やすいので、それほど問題は起こらない。
燃料投棄でも同じ話だったと思います。つまるところ、上位の一部の人の行為が、(表現は良くないですが)
関係ない多くの他のプレイヤーにも制度変更という形で影響を与えてしまう可能性がある、ということは
考えないといけないでしょう。スタープレイヤーについての説明を読んで見るとこう書いてありますね。
スタープレイヤーは、優れたテクニックやマナーを備え、すべてのプレイヤーから尊敬される存在です。
スタープレイヤー同士のマッチングで渋滞に対する不満が渦巻いてしまう状況って、
『すべてのプレイヤーから尊敬される存在』なんでしょうか。
もちろんスタープレイヤー登録してない人もいるでしょうが、望まなくても上位の人には競技への影響力が
付いて回ります。参加する以上は、自分の行為が全体にどういう影響を及ぼすか、多少は考える必要が
あるんじゃないでしょうか。