Monster Energy NASCAR Cup Seriesはプレイオフに入りました。
他のカテゴリーでは存在しないこの独自の制度、
何回か過去にも書いた気がしますが改めてこのややこしい制度を
まとめておこうと思います。
 プレイオフ制と関わりの深いステージ制も同時に改めて説明します。

・そもそもプレイオフとは何ぞや

 通常モータースポーツの選手権というのはレース毎の獲得ポイントを
足し算していって、その合計が多い人がチャンピオンになります。
レースによっては、不運や全戦出場できない人を考慮して
結果の悪いレースを取り除く『有効ポイント制』というのもありますが
基本は同じです。
 しかし、往々にしてシーズン終盤はチャンピオンになれる可能性の
ある人が絞り込まれて、強い人がいればあっさりと決まってしまったりします。
 NASCARカップ シリーズは年間36戦もあり、巨大なスポンサー市場でもあり、
シーズン終盤にはアメリカで絶大な人気を誇るNFL、NBAの開幕、
MLBのプレイオフが始まってお客を取られてしまいかねず、
そんな消化試合では困ります。
 NASCARはこれを阻止すべく、36戦をレギュラー シーズン26戦と
プレイオフ10戦に分割。ある種最後の10戦は別枠として、リセットして
争うことでチャンピオン争いを引き延ばそうとしました。
これがプレイオフ制の導入趣旨です。


・プレイオフを見るうえで大事なのが『ステージ制』

 で、プレイオフの仕組みを説明するために知らないといけないのが
ステージ制です。昨年から始まったこの制度、これまたレースを
根幹から覆すような無茶苦茶な制度ですが、存在する以上は
納得して見るしかありません。

 ステージ制は、レースを予めステージ1、ステージ2、ファイナル ステージ、
の3つに分けてしまい、言うなれば3回のフィニッシュ場面を
設けてしまうというものです。
 これは、何もコーションが発生せず、ただ淡々とレースが進んでしまって
お客さんが飽きるのを防ごうと導入された制度です。

 ステージ終了時には、黒白のチェッカー フラッグとは異なる、
緑白のチェッカーが振られることになっているので、
グリーン チェッカー』とか『グリーン ホワイト チェッカー』
とか呼ばれています。
 グリーンチェッカーを受けた車はその時点で順位が確定しますが、
レース手順としては、10位までが通過したところでコーションとなり、
以降の人たちはコーション時点の順位で凍結されます。
 また、ステージ終了2周前になった瞬間にピット ロード入り口は
クローズとなり、これ以降ステージ間コーションでオープンの
指示が出る前の間に作業を行うとペナルティーとなります。


 ステージ1と2では『ステージ順位』を争い、
1位にはドライバー ポイント10点とプレイオフ ポイント(後ほど解説)1点、
以下2位 9点、3位 8点~10位 1点が与えられます。
 他方、ファイナルステージはレースの結果そのものなので、
これが正式なレース順位となり、1位には40点とプレイオフポイント5点、
2位 35点・・・36位以下は1点となっています。

 ですので、1レースでは最大で60点とプレイオフポイント7点を
稼ぐことができるということになります。
では具体例で見ていきましょう。

 前戦のインディアナポリスでは、160周のレースを
50周、50周、60周の3つに区切りました。
 ステージ1はスタート~50周目までで争われます。

 ステージ1ではクリント ボイヤーが勝ちました。
10位のエリック ジョーンズがグリーンチェッカーを受けて
ここでコーションとなります。
 ステージ間コーションと便宜上呼んでいますが、ここは
もちろんコーション中なのでピットに入ることが多いですが、
義務では無いので入らないのも作戦です。
ここではテレビCM、お客さんのちょっとした休憩なども行えますね。
テレビ局からステージ優勝したドライバーへの無線インタビューも
よく行われます。
 
 ステージ2は100周目に設定されていますが、コーション中も
周回数はカウントされ続けるため、きっちり50周のレースではありません。
このレースでは56周目にリスタートされ、実質は45周です。
 なお、NASCARではスタートとリスタートでは
僅かながらスタート違反等の制度に違いがあります。
ステージ開始も全て『コーション明けのリスタート』なので、規則は
リスタートのものが適用されます。

 このステージ2は多くの上位ドライバーがステージ終了前に
ピットに入ったため、トップ争いしていなかった
マット ケンゼスが制しました。ここでステージ制の厄介な部分が
ちょうど出てきました。

 通常、コーションが出ていない時にピットに入ると周回遅れになるので
損をしますが、インディアナポリス、ポコノ、デイトナ、タラデガ、
ロード コースでは、1周が長いために、ピットに入っても上位陣は
ギリギリ周回遅れにならずに済みます。
 そうすると、ステージ終了前に入る→ステージ間では入らない、
という手順を取ると、ステージを走り切った人はほぼ間違いなく
ピットに入るため、次のステージを上位からリスタートできます。
 ステージポイントを取るか、リスタート後の展開を取るか、
というやつで、ここでは多くの上位陣が後者を選びました。


 さて、残るはファイナルステージ。ここも106周目のリスタートで
実質55周のレースになりました。
 終盤に立て続けにコーションが出ましたが、ブラッド ケゼロウスキーが
優勝を飾りました。
 ケゼロウスキーはステージ1で6位、ステージ2も7位だったので、
合計でこのレース49点+プレイオフポイント5点を獲得。
 その次に多い点数を稼いだのはそれぞれ2位、5位、6位で46点稼いだ
カート ブッシュでした。


・プレイオフポイントとは?

 ここで初めて説明されるプレイオフポイント、これは
ドライバーポイントとは別に付与されるもので、プレイオフになってから
初めて効果を発揮するものです。
ヨドバシカメラにはかつて、修理専用のアフターサービスポイントというのが
ありましたが、それと似ているかもしれません。
 プレイオフポイントは前述の通り、ステージ勝利で1点、
レースの優勝で5点、そして、レギュラーシーズンを終えた段階での
ポイント順位にも与えられ、『レギュラーシーズンのチャンピオン』
には15点、以下2位 10点、3位 8点 4位 7点・・・10位 1点が与えられます。
今年からレギュラーシーズンのチャンピオンにはトロフィーも与えられます。


・プレイオフ制度

 さて、ようやく話が戻ってきました。プレイオフ制度本体の話です。
プレイオフは大まかに言うと
『16人のコンテンダー(権利保有者)を3戦ごとに4人ずつふるい落として、
最終戦を4人で争う』制度です。うん、意味が分からん(´・ω・`)

・出場権

 コンテンダーはざっくり言うと『レギュラーシーズンの成績上位16人』と
なっています。具体的には

・全レースに出場している(怪我などの理由で欠場した場合、
 NASCAR側は特例で進出に該当するかの判断をする)
・レギュラーシーズンのポイントで30位以内である

という規定を満たした上で

・レースで優勝する
・16番目の枠は、未勝利の人のうち獲得ポイント最上位のための枠とする
・優勝者数が15人に満たない場合、残りはポイント順とする
・優勝者が16人以上の場合には、勝利数の多い順>ポイントの多い順で
 決定される
・この場合16番目の枠は、当該位置になった勝利ドライバーと
 未勝利の最大獲得ポイントドライバーのポイントを比較し、
 よりポイントの多い者が権利を得る

となっています。過去26戦で16人も勝ったシーズンが無いので、
ほぼ勝利数>ポイント、で決まると言って良いでしょう。
ただし、上記の通り全戦出場とポイント30位以内が義務なので、
スポット参戦で勝ってしまっても権利はもらえません。
また、レース後に違反が見つかった場合などに、
『レース結果としての優勝は残すが、プレイオフ進出要件としての
 勝利としてはカウントしない』という裁定が下ることもあります。
2017年のジョーイ ロガーノはこれによって、1勝したものの
権利がはく奪されて進出できませんでした。

 なお、コンテンダーは16人ですが、16人でレースをするわけではなく、
最大40台の通常のレースです。

・プレイオフの進め方

 プレイオフになると、コンテンダーはポイントが
2000点+プレイオフポイントに一律でリセットされます。
なぜ2000かというと、非コンテンダーが絶対取れない数字だからです。
 そして、まず最初の3戦は俗に『ラウンド オブ 16』と呼ばれます。
この3レースでコンテンダーは、勝利>ポイント、の順で並べられ、
成績の下位4人がプレイオフから脱落します。
勝てば自動進出なのでできれば勝って楽になりたいのがプレイオフ。
 3戦目は『エリミネーション レース』とも呼ばれ、ここで
もはやポイントでは生き残れそうになく、勝つしかない人は
『マスト ウイン シチュエイション』と言われます。

 次の3戦はラウンド オブ 12。
コンテンダーは3000+プレイオフポイントにリセットされ、
また同じ手順で下位4人が脱落します。

 次の3戦はラウンド オブ 8.
コンテンダーは4000+プレイオフポイントにリセットされ、
下位の4人が脱落。これで残りは最終戦の1レースになります。

 そして最終戦。コンテンダーの4人はポイントが一律5000点に
リセットされます。
 つまり、このレースで4人の中で最も順位が良かった人が
シリーズチャンピオンになります。
 仮に4人まとめてクラッシュしたら、コーションが出た段階で
50cmでも前方で事故っていた人が、リザルト上37位であろうと
チャンピオンになるかもしれません
 開幕~第35戦まで35連勝した無敵の人がいて、最終戦の
最終ラップまでリードしていたとしても、エンジンが壊れてゴールに
たどり着けなかったら、チャンピオンにはなれません。



・効き目がデカいプレイオフポイント

 ここで効くのがプレイオフポイント。
昨年はマーティン トゥルーエックス ジュニアが大量53点を持って
プレイオフに入りました。
53点というと優勝よりも大きい数字です。
 3戦ごとに脱落させられる制度上、もらい事故やトラブルで泣くという
リスクもあるわけですが、53点も既に持っていると安心感が違います。
 また、プレイオフポイントは、プレイオフ中も引き続き獲得でき、
次ラウンドに進出できた場合に有効となります。
 トゥルーエックスはそのおかげでラウンドオブ8にはなんと
4069点を保有した状態で入りました。
 唯一、プレイオフポイントが通用しないのが最終戦です。


・脱落したコンテンダーは?

 ところで脱落してしまった人はどうなるのかというと、
ポイントは2000+プレイオフ内で稼いだポイント+脱落前までに
獲得していたプレイオフポイント、の値に一律で戻されます。
ですから、進出さえしてしまえば、とりあえず16位以内は確約されます。
最終的には5位~16位を争うポイント争いをしていることになります。
 どうせ負けた人同士だから大したことない気もしますが、
スポンサー獲得交渉をするのに数字は結構大事です。

「あのNASCARで年間10位ですよ」
「うちはプレイオフに出てますよ、テレビいっぱい映りますよ」
というのはたぶん大事な要素です。



 と、人気回復を狙った結果説明がややこしすぎるのが今の
NASCARです。いつまで続く制度か分かりませんが、
これを理解しないと特にここから先は意味が分からないので
改めて解説してみました。来年も同じ制度なら使いまわそうw