今週(現地時間では先週)はNASCARの最後の休養週、ということで、
ここらで第3シーズンのフォーミュラE選手権をざっと
振り返ってみたいと思います。
 ドライバー選手権はルーカス ディ グラッシが3年目にして初タイトル、
チーム選手権はルノー e.damsが3連覇となりました。

 まずは選手権上位5人の成績を並べてみます。
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Racing-Reference.comのデータに基づく
赤数字は全ドライバー中最高

 最終的にはディグラッシが24点もの差を付けた選手権でしたが、
ブエミはニューヨーク2連戦を欠場しており10戦出場での結果。
それはもちろん言い訳でもなんでもなく、結果ディグラッシが勝ったのも事実。
しかしシリーズの流れを見れば終盤までほぼブエミのシーズンでした。
 開幕からの8戦で6勝し、第8戦を終えた時点で2位のディグラッシに32点差で
選手権リーダー。ちなみにこの第8戦は全周リードでチェッカーを受けた
フェリックス ローゼンクビストがレース後にペナルティーを受けており、
ブエミは『1周もリードしないで優勝』という珍しい勝ち方をしています。

 元々FEで採用しているパワートレインはルノー製で、それを使う
e.damsは1年目から車が速く、PT開発が解禁された2年目は明らかに
分があるシーズンでした。
 3年目もその優位性は高く、ギアを2段から1段へとするなどさらなる
最適化を図ってきたルノーZ.E.16は開幕から明らかに速いものでした。
 最高出力がレース時170kw、全チーム共通のバッテリー容量28kwと
これらの数字は固定ですから、速く走るために必要なのは駆動部分や
伝送系における伝達ロスの軽減と、回生効率向上に尽きます。
 回生できる能力にも上限値がありますが、実際にレースをすると
発熱によって回生能力は低下するために常時完璧に回生を使い続けることはできず、
故に効率向上による発熱の低減は、よりレース中の長い時間にわたって
回生を行う=力行に使うエネルギーを多く有することができます。
 そして、限られたエネルギーをどこでどう使って、どこでリフト&コーストして、
回生をいつどれだけするか、というマネージメント面も極めて重要です。
ここはドライバーの技量も大きく問われ、基本的にボトムスピードを上げて
走る方が効率が良く、ブレーキで奥まで突っ込む走り方は効率が悪いと思います。
 FEの技術に関してはオートスポーツ誌に何にも記事が無いので
ほぼ想像ですが、現状開発できる部分はこのぐらいだと思います。

 そうした面の全てにおいてブエミとルノーe.damsが優れていたのは
一目瞭然でした。ブエミの平均スタート順位は5.5ですが、第6戦パリまでに
限ればその数字は4.0、平均フィニッシュは3.0になります。

 印象としても数字としても、第7戦のベルリンから潮目が変わりだしたな、
というのは今季の1つの印象でした。
各ドライバーとチームの得点の推移をおなじみ折れ線グラフにしてみました。

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 結局のところブエミが欠場した2戦を含めて最後の4戦で1点も取れていない、
ということが彼にとっての最大の敗因であることは間違いないでしょう。
 それと同時に、7戦目以降、ドライバーではローゼンクビスト、
チームでマヒンドラが上昇していることが分かります。
 実際、第7戦以降に限った獲得ポイントでは、ローゼンクビストとバードは
共にディグラッシより5点少ないだけ、チームでもマヒンドラはアプトより
やはり5点少ないだけ。ブエミが得点できていないルノーe.damsはこの間
マヒンドラより50点も少ない加点しかできていません。
 シーズン序盤はトップ2とそれ以外のチームに大きな戦力格差があったものが、
このあたりからマヒンドラが明らかに進歩。
 DSバージンも昨年の2モーターから1モーターへと変更したせいか
序盤は速さが鳴りを潜めていましたが、後半は熟成が進み、そこに
ルノー製PTを使うため基本性能がチャンピオンと同じテチーターも加わって
一気にトップ コンテンダーが増加し、後半戦は非常に見ごたえのあるレースへと
内容が大きく変わりました。

 今のところ開発するべき部分が絞られているので、ある程度頭打ちになった
上位勢より、伸びしろのある下位勢の追い上げの方が強かった結果で、
多くの産業で当たり前の出来事ですが、F1では起こると思っていたら
全然起こらなかった出来事です。
 F1はPUに優位性のあったメルセデスが車体開発に注力して色々と
特殊な部品を作り上げたために全然追いかける側が追い付くことがありませんでした。

 こうして戦える顔ぶれが増えたことで、ブエミの居ぬ間に連勝して
選手権をリードしたかったディグラッシはニューヨークでそれをバードに
阻まれて十分に加点ができず。
 しかし最終のモントリオールではブエミの方が思うように週末を過ごせず、
おそらく開幕直後ならそれでもコース上でそれなりに抜いて上がってこれたであろう車を
抜けずに、有利だったはずの週末を一瞬にして暗転させてしまいました。
 ブエミとディグラッシが直接コース上でやり合っての決着、という感じではなく、
欠場もあっての決着ですから、これを激戦と呼べるかは微妙ではありますが、
トップ2だけが速い状態のままの後半戦ならこんな展開にはならなかったでしょう。
車に大きな優位性があればフリー走行で車をぶっ壊すことはなかったかもしれず、
それなら第11戦の失格もなく、普通に表彰台に乗れていたと思います。
 ライバルの台頭がブエミの流れを少しずる狂わせた、と私は思っています。


 特にローゼンクビストはさすがマカオ2連覇、という速さに
FE独特の乗り方への対応もまた素晴らしかったんだと思います。
 チームメイトの大先輩・ニック ハイドフェルドとの適度な緊張関係も
今年に関しては成長に一役買ったと思います。
運悪くF1に乗れずに彷徨っていたタイプの人ですが、天職を見つけたかもしれません。
 マヒンドラもまた、新しいレースでインドの会社が売名行為をしている、
ということにならずきちんと進歩したところに非常に感心しました。
 PTは自社生産ではなくマニエッティ マレリ製のものを採用、これは
アンドレッティーも同じなんですが、買った後の開発をどうしてるのかが
素人には分かりません。でもたぶん同社のエンジニアさんと協力しながら
いじれる部分はいじるんでしょうね。


 まだまだモータースポーツ好きの中でもFEには関心がない、下に見ている、
別物と考えている、という人が多く、車が遅い、音が無い、見た目がイマイチ、
ファンブーストが安っぽい、などケチを付ければキリがないとは思いますが、
少なくとも後半戦の争いは、ファンを引き付けるだけの争いがあったと思います。

 そしてそんなレースに今後多くのメーカーがワークス参戦するという
ニュースが相次いだのも今季の話題の1つ。
 今のところコストが非常に安いので、EVに取り組んでますよ、
と世界に示すには格安の広告塔であるというのが理由の1つではありますが、
こけら落としからずっと見てきている人間とすると、とうとうこの段階に来たか、
と驚きと喜びと困惑が入り混じる心境です。
 こうなってくると、オーナーの家族であるという理由が明らかに
シートに絡んでいるトップ2チームの人たちは、結果が出なければいつまでも
その座にいられるとは思えません。
 二コラ プロストは選手権6位、ダニエル アプトは8位。
最強の車に乗りながら平均スタート順位10.9というプロストの数字は
明らかに不十分です。
 彼は元々レーサー街道を走っていたわけではなく、
レースやるなら大学出ときなさい、と言われてそれからレースを始めた人なので、
2世ドライバーと言ってもマックス フェルスタッペンなんかとは全く
境遇が違うということはフォローしておきますが、それもブエミが速いから
許されている話で、混戦になったらいつまでも我慢はできないでしょう。



 なお、12月から始まる4期目のシーズンは、レース中の最高出力が
10kw増加して180kwとなることが発表されています。
 最速ラップのポイントは、序盤で脱落した人が一発狙いで走って
持っていくことが多くて問題だったので、入賞したドライバー内から
選ばれることになりました。何でもっと早くそうしなかったのか。

 ウィリアムズ アドバンスト エンジニアリング製の28kwのバッテリーが
使用される最後のシーズンとなり、第5期で大幅な規則変更と
新規参入組の大量参戦があります。
 第4期はエントリー面に大きな変更はありませんが、NextEV NIOは
NIOブランドを宣伝するためチーム名からNextEVが外れ、
ファラデー フューチャーと組んでいたドラゴン レーシングは
FF社の名前が無くなってドラゴン レーシングに戻りました。
 以前レース記事にも書いた通り、FF社は資金繰りが急速に悪化して
事業継続に問題が起きている可能性が指摘されており、やはりここにも
その影響が出てきました。