一軍はようやく連敗のトンネルを、なかばやけくその
5番・大山 悠輔で脱出した阪神タイガース。
 しかし、webでスポーツのニュース記事を開いた私は
開いた口が塞がらない見出しを目にしました。


 現在2軍調整中の藤浪 晋太郎が、2軍の中日ドラゴンズ戦で
乱調だった上に、最後には石垣 雅海の頭部に投球を当てて危険球退場に。
とりあえず中日に申し訳ないですね・・・

 藤浪のコントロールが悪いのは入団当時からでしたが、
『適度な荒れ球が良い』『小さくまとまる選手にはしない方が良い』
という声が多数。私もそう思っていました。
 が、今年の状態は、今まで野球を見てきて見たことが無いほどのひどい状態、
荒れ球、という言葉とは次元が違う危険な状態です。
『打者に当ててしまう危険性がある選手を起用してはいけない』という
規則は存在しませんが、一般的な信義則として、現在の藤浪は
試合に登板させてはいけないと思います。

 確かマッキーさんたちと牡蠣小屋フィーバーでオフ会をやった時だったか、
ちょうどその日がクライマックス シリーズの第1戦で、阪神が
初戦に藤浪を使うという、裏をかいたというか、試合を捨てたというか、
そんな試合があった日だったと思いますが、マッキーさんが
「あのフォームは絶対コーチがいじろうとするよな」と言っていたのを
覚えています。
 結果的に、チームはそうしないことを選び、主にインステップの
矯正だけにとどめ、あの独特の腕を目一杯体から遠ざけて使う
フォーム本体には手を付けずに来ました。

 ただ、見ていて思ったのは、年数を経ても下半身の大きさが
どっしりしておらず、なんとなく上下のバランスが悪いな、と
感じていました。どのスポーツでも、まだ発展途上の年齢の人は
体のサイズや筋肉のバランスが変化していくので、それに合わせた
調整が必要になると思うんですが、どうも藤浪はそれがうまくいっていない、
そんな気がしていました。

 デビューからそれなりに結果が出ていて、『試合中の修正能力が高い』
とか言われているので、かなりの面でチームは本人に任せた
やり方をしていたと思います。
 壁らしい壁に当たったのはプロ3年目の2015年で、
開幕からそこそこの投球回は投げるものの、失点が多く勝ちが
付かない状況。そんな中、5月14日の東京ヤクルトスワローズ戦で、
打席に成瀬 善久を迎えた場面で投げた直球で
「キャッチャーを突き抜けてそのままボールがバックネットに突き刺さる感覚」
を掴んだらしく、この試合をきっかけに浮上。
結局この年はこの後大活躍で最多奪三振を獲得しますが、
シーズン終盤に肩を傷めて、その状態で登板していました。
これが1つ悪いきっかけだったと思います。

 2016年は比較的ゆっくり調整していましたが、その割に
登板初戦から149球を投じるなど、最初の10試合の平均投球数が119、
そのうち6試合が114球以上で、ちょっと投げさせすぎに思っていました。
 そこまでの10試合では4勝2敗でしたが、その後の13試合では2勝9敗、
三振を取る一方で荒れ球が明らかに悪化していて突如制御不能になり、
フィールディングでの送球も、元々下手ではありましたがどんどん
悪化していて、技術・精神双方でちょっと怪しい感じがしていました。
 そこに、7月8日の広島東洋カープ戦で、序盤の失点にもかかわらず、
まるで罰当番のような161球を投げる”事件”が発生。
なぜ2軍に落とさないのか疑問ですし、チームは藤浪の育て方、
軌道修正の仕方を持っていないな、と感じさせられました。

 結局自己最悪の4年目を終え、本来なら土台からやり直さないと
いけない時期だった気がしますが、WBCの代表に選ばれるかも、
ということもあって、それよりもスピード調整&WBC球練習にシフト。
キャンプではおそらくそれまでより練習量不足、加えてWBC本戦では
1試合に投げただけ。その1試合は中国戦で、そこでも簡単に
2アウトを取った後に突如連続四死球で走者をためており、
ちょうど試合をテレビで見ていましたが、危ないからMLB選手相手に
使わないでほしい、と正直思いました。

 で、今年のひどいシーズンへとつながります。
初登板の4月4日スワローズ戦で、たまたま顔面には当たってないけど
危険球と判断すべきではないかという球を投げて乱闘騒ぎ。
以降の試合でも右打者の顔付近、あるいは頭の上を通過する球が、
プロ野球では明らかに見たことが無いレベルの頻度で登場していて、
投げさせるのは見ていて危険でした。
 それでもなんとなーく抑える部分は抑えて結果が出ているので
再調整を命じれない感じで、チームが決断したのは5月26日の
登板を終えてから。そしてその後の2軍戦でも、抑えた試合すら
右打者の頭の上を通過する大暴投があると新聞に書いてあり、
重症、というか、いわゆるイップスに近いのではないかと感じました。
 そこに今日のこの出来事です。この試合では打球処理でも
送球エラーを犯しているようですし、やはり守備時、右打者時に、
精神面での苦手意識からうまく体を動かすことができない状態に
なっているのでは?と思わされます。

 2軍落ちについて、元横浜ベイスターズの監督で、WBCで
投手コーチでもあった権藤 博は、新聞のコラム内で
”藤浪ほどの選手は2軍でいくら投げてもどうこうなるタイプの選手ではなく、
1軍で投げさせながら直すべし”といった事を書いていました。
 私はそうは思わず、むしろしばらく投球自体を止める段階だと
思っていましたが、
(高山 俊を投手の左右やちょっとした不調ですぐ替えるな、というのは
その通りだと思いましたが)ちょうど今日の登板の数日前に、権藤が藤浪を
いわゆる表敬訪問。
2軍相手だからって結果を求めて小さくなったら意味が無いから
思い切って1軍戦のつもりで投げろよ、とでも言ったかどうかは
分かりませんが、結果がこうなったわけで、もう2軍で何試合も投げて
1か月以上経過したことを考えると、どっちで投げるのが良いとかいう
段階の話ではなくなっていると思います。

 藤浪は走るのが嫌いだ、とかいう本当かどうか分からない投稿も
記事のコメントにあったりしますが、もしそうならチームがきちんと
対応していなかったところに問題あり。
もちろん、あくまで個人事業主なので、基本は自己責任以外の何物でも
ないですが、そういうことが起こらないようにするのがチームの役目で、
チームは「自己責任」と選手を突き放しておけば良い立場では
当然ありませんから、(もう藤浪と契約する気が無くて
戦力として考えるつもりが一切ないなら別ですが)そういう点では
やはり管理に問題があったということになります。
 そしてそうであるなら、関西マスコミはもっと
「結果は出てるけど練習してないから必ずガタが来るぞ」と
もっと否定的な情報を書く責任があったと思います。

 そうではない、練習量は完璧だ、というならば、調整法、
あるいは起用法に問題があったと思えますし、ここまでバランスが
完全に狂ったのなら、もうフォームに手を付けるしかない状況です。
体のバランスとフォームのバランスが合わなくなっているのであれば、
いくら続けても無駄です。ウエイト トレーニングを重視する
現行のチーム方針のキャンプが致命的だった可能性もあります。
上半身が強くなりすぎて、今までバランスをぎりぎり保てていたものが
崩壊したのかもしれません。
 WBC球での練習というのも厄介で、2013年のWBCの際には、
代表候補だった山井 大介が投球練習でワンバウンドばかりでまともに
ストライクを投げれなくなって先行漏れした、なんてこともありましたし、
岩田 稔も滑りやすい球をきっちり抑え込もうとしたせいではないかと
推察しますが、WBCで1試合しか投げていないのに、結局WBC後に
故障しました。
 ただでさえバランスが狂いだしているところに、そういう
”別の球技”の球で練習したせいで、本来の立ち位置が分からなく
なったまま開幕していきなりの冒頭癖、というのが、余計に
精神的にも技術的にも問題を抱える要因になった気がします。


 かつてセントルイス カーディナルスに、リック アンキールという
選手がいました。高校から直接プロに入り、天才投手とも呼ばれた
逸材は入団3年目(MLBはドラフトがシーズンの真ん中ぐらいなので
日本で言うと2年目に近い)に、荒れ球ながらもキレのあるボールで
11勝を挙げチームに貢献します。
 そして、プレイオフのディビジョン シリーズで開幕投手を任されますが、
なんとアンキールはこの試合で打者の頭の上を通過する暴投を連発して大荒れ。
その後も、シーズンの姿が消え失せて荒れ球ばかりになり、
完全なイップス状態でマイナーへ転がり落ちます。
 結局怪我もあって、その後とうとう打者へ転向、打者としても
一発屋で確実性を欠くタイプでしたが、通算101本塁打と、
それなりの成績を挙げたようなそうでもないような感じで引退しました。


 アンキールのイップスは相当なものだったと記憶していますが、
今の藤浪はあれとダブります。なんとなく経歴の経緯が似ている気も
しますがまあそれはたまたまです。
 藤浪の調整法について今後チームが、引き続き同じで行くのか、
もう権藤式で1軍起用に踏み切るのか、再考するのか分かりませんが、
個人的には、才木 浩人、浜地 真澄、という高卒新人選手2人と
同じ、基礎練習と体力強化中心メニュー、登板はたまに、
というぐらいに、もう一度最初からやり直してみるべきだと思います。
福本 豊が常に言いますが「暇あったら走っとけ」です。

 もう1つの考え方は、
「1軍で投げることを考えたら、力を抑えて安定させても意味が無い」
という発想自体が根本的に誤りであると解釈し、
「試合中に145km/h以上の球を投げるの禁止」としてしまい、
投げたら即降板、ぐらいの縛りで、完全に技巧派の投球を
シーズン最後までさせてみることです。
 今のやり方ではいくらやっても必ず再発すると思うので、
全く違う野球をさせてみて、それで2軍を抑えてしまったら試しに
1軍に上げても良いでしょう。
 シーズンが終わったらリミットを外して練習させてみれば良いのです。
豆腐屋のハチロク作戦です。
 シーズンが終わるころには速い球の投げ方を忘れているかもしれませんが、
それぐらい感覚を失っておいた方が、逆に、今までの
「何か違うところを直す」という引き算的発想から
「どうすれば速くなるか」という足し算に代わって
引き出しが増えるかもしれません。まあこれは極端な考えですが。


 何にせよ、本人はもちろん大変な苦労を強いられていると思いますが、
首脳陣もまた、自分たちの行いが招いた問題でもあるという
責任をきちんと引き受けた上できちんと方向性のある対応策を
検討して解決策を導いてもらいたいです。