最後の最後まで行方が分からない展開となったF1アブダビGPと
2016年のチャンピオン争い。
レース後に、というかレース中から話題となっているのが、
トップを走るルイス ハミルトンがわざとペースを落とし、2位の
ニコ ロズベルグを他のドライバーに攻撃させて順位を蹴落としてやろうと
したことです。
特にアンチ ハミルトンの人はあの行為を、卑怯だ、往生際が悪い、
と言った意見で罵っているようです。
しかし個人的には、ハミルトンの行為自体は、何ら非難されることはない
レースのやり方の一部だったと思います。
私自身、他のカテゴリーを見ていて、SUPER GTなんかは特に
「これは下手に逃げても逃げれんし、いっそペース落として後ろ同士で
争わせといてその間に逃げた方が良いんじゃない?」
と思うことがあります。
(逆に、今ここで後ろと争うより、後ろの速いやつにあっさり譲って
前で争わせといてそこに追いついたら?と思うことも)
ハミルトンがチャンピオンになるためには、自分が勝つだけではだめで、
ロズベルグが4位以下になってくれないといけませんでした。
普通に走ればロズベルグは100%2位になれますし、まさかハミルトンがロズベルグを
ウイングでサクッと攻撃しといて自分だけ無傷で走るわけにはいかないので、
彼にとって自力でできる唯一の方法はライバルを引き寄せることだけでした。
その可能性に賭けるのは極めて当然であり、実際にメルセデスのボス・トト ウォルフは
レース前にその可能性についてチームで話し合いがあったと認めています。
これを往生際が悪い、と批判するのは、例えばモナコで偶然ポイント圏を
走行し、2秒遅いのにライコネンを抑えている小林 可夢偉に対して
「お前死ぬほど遅い車で邪魔なだけなんだからさっさとインを開けて譲れ、卑怯だ」
と言っているのと大差ないのではないでしょうか?
ドライバーは決められたルール内で、自分の技を使って自分に最大限の
利益をもたらすように努力しているだけであり、わざとぶつけてリタイアさせたわけでも、
目の前でブレーキを踏んだわけでもないハミルトンが、その行為自体について
批判されるのは筋が違うと私は思います。
それに、故意にペースを落として自分が抜かれずにいるということはそれほど
簡単なことではありません。
特にF1はDRSがありますから、相手が1秒以内に入った瞬間いきなり
展開が変わります、それに、ロズベルグが選手権リーダーですから、いざとなったら
ロズベルグには必殺の
「このバトルの結末は、壮絶なダブルクラッシュと行こうぜ(ニヤリ)」
があります。ハミルトンがリスクのないことをしていたわけでは全くありません。
ちなみに、ハミルトンのわざと遅い作戦は私が覚えている限りでもこれで3度目。
昨年のマレーシアと中国でも立て続けにやっており、マレーシアでは
VSC中に指定ペース以下で走ったとみられ、中国ではやはりフェラーリを
おびき寄せたらチームから「ペース上げないとニコを先にピットに入れるぞ」と
警告されていました。
今回のレースで問題となるのは、単純にメルセデスのチーム内だけの
内輪の問題です。
ですがその対応にも、私はどうもあまり合理性がないというか、
チームの指示を無視したからルイスが悪い、というのはあまりに責任を
丸投げしすぎている気がします。
前述のとおり、メルセデス内ではレース前からハミルトンがわざと遅く走る可能性を
把握していましたが、その対処は流れに身を任せるような対応で、
レース前に具体的に決定をしなかったようです。
他人のもめごとだから薪をくべてるだけかもしれませんが、レッド ブルの代表、
クリスチャン ホーナーはレースの前から遅く走る作戦を話題にしており、
レース後も、要約すると
「そりゃ当たり前だろ。メルセデス甘すぎ」といったコメントを残しました。
にもかかわらず、レース後のロズベルグのコメントでは
「こんなことは予想していなかった。これについては話し合う必要があると思う。」
と発言。もし本当にそうなら、彼のエンジニアや上層部はいったい何を
しているんだと思いますし、そうでなくてもロズベルグ自身がそのぐらい
簡単に理解していて然るべきで、驚いていることにこちらは驚きです。
メルセデスはハミルトンにペースを上げるよう指示を出した理由として、
ベッテルに抜かれて勝利を失う可能性があり、自ら勝利を手放す行為は
チームの原則として認められないからであるとしています。
ただ、ハミルトンがわざと遅く走っていると認識している=ベッテルが
2位になったらペースを上げるだろうからそうそう負けっこない、
ということになるので、そもそもこの前提は、完全にではありませんが
矛盾があります。ハミルトンは最低限勝つことは必要なので、ベッテルに
抜かれてしまうなら作戦の意味がありませんし、ベッテルのSSは
ハミルトンに届くころにはそれなりに摩耗しており、ハミルトンが”本来の”
ペースで走れば、それまでのように猛烈に速いということはなかったと思います。
また、
この可能性を認識していた→
なら当然実行されれば他車が後ろに来ているはず→
それに対してレース前に何も言わなかった、
という中で、いざレースになってから介入されても、ドライバーが怒るのは当然です。
レース前には自由にレースをさせるつもりだった、という話ですから、
結局のところ、ベッテルを口実に
「もうやめてくれ、今更ロズベルグが抜かれて逆転して遺恨とか勘弁してくれ」
というオーダーを出したにすぎないと思います。
それならば、レース前から「1、2位で帰って来いというオーダーを出すかもしれんぞ」
ときちんとミーティングで確認をしていればよかったのではないでしょうか。
きちんと事前にその話をし、ハミルトンがそれを承諾していたにもかかわらず、
いざその時になって無視して暴走していたのなら、批判されても仕方ないでしょう。
しかしそれだと、メルセデスがレース中にチャンピオン争いの興味を
完全に消してしまった、つまらんことをするなよ、と世の反発を受けるかもしれないから、
はっきりとそうは言いたくなかった、だからそうはしなかったのでは?
と勘繰ってしまいます。
対応が中途半端になったことが、事態をややこしくした要因の1つではないでしょうか。
一般企業ならいざ知らず、F1はチーム競技でありなおかつ個人競技で、
最終的には身内を打ち倒すことが最大の目的になり得るという特殊な世界ですから、
その世界で、まるで一般の会社のように、なんでも上からの指示通りに
ドライバーが動いてそれで丸く収まる、従わなかったらそいつが悪い、
という統治の発想そのものが、ホーナーの言う通り考えが甘すぎで、
ましてやシーズンの最終戦のチャンピオンが決まる局面で
それを求めたのは無理がありすぎたと思います。
それでもメルセデスが、チーム内倫理に反するようなドライバーは
認められない、と考え、何らかの処分を下そうとするのであれば
それはその組織の考えですし、万一彼がFA市場に放り出されて、他チームも
同じ考えで誰も契約したがらないなら、それもそういう世界ということにはなります。
言われたままに走る没個性な、お金持ちのドライバーしかいない競技に
なるだけのことです。
ホーナーは「自由にレースしたいならこっち来なよ」的な事を言ってますがw
ただ、メルセデスがまず考えるべきことは、ハミルトンの処分内容でも、
2度とこういうことが起こらない、どんな事態にも対処できるチーム内規則の考案でもなく、
レーシング ドライバーというのはそもそも完全に自分たちが制御できるような
存在ではない、そこが理解できない人にはチームの統率なんてできない、
ということではないでしょうか。
確かにハミルトンのレース終盤の発言は暴言に近いものがありましたが、
一般企業でも「君の仕事には口出ししないよ」と言っていたはずの上司が
納期ギリギリになってやたらと横でああだこうだ口をはさんで自分の仕事を
否定し始めたら文句の1つも言いたくなりません?
あと、会社として、
「レース前から結果の決まった出来レースの消化試合をやって勝った自動車会社」と
「同士討ちも恐れず、最後まで自由に戦わせた結果完走できなかった自動車会社」
どちらの印象が良いかと聞かれたら、明らかに後者だと思いますが。
コンストラクターズ選手権もとっくに決まっている中、わざわざ
レースの醍醐味を無くしてまでこのレースで勝つ意味ってどれほどあったのか、
そこもまた素人目には理解できないです。
たまには他所が勝った方が視聴率も上がって結局宣伝効果も上がると思いますが。