11月4日発売のオートスポーツNo.1433には付録として
SEV RACING CORE ヘッド&ネック なるものが付いてきます。
昨年も同様に付いてきたこれ、誌面でもやたらと宣伝しているんですが、
良識ある読者としてはこれに異を唱えずにはいられません。
あえて発売前日に水を差そうと思います。

 SEVについての詳細は説明が面倒くさいのでまずは公式サイト
http://www.sev.info/kenko/whats_sev/
を見ていただくのが早いんですが、要約すると放射線を出す鉱物や金属を何層か
重ねた商品で、これを近づけたものに何やらうまいこと作用して”本来の働き”
とやらを引き出すようになるとか。全く意味がわかりませんね(苦笑)

 誌面では使用しているドライバーのインタビューも掲載され、
体の負担が軽くなるとか回復が早いとか両親の体調がよくなったとか色々言ってます。
そりゃあすごい、しかも本来高価なSEVが雑誌に普段の価格+数百円で付いてくるなんて!

 と食い付いてくれたらしめたものなんでしょうが、私は昨年からこの
SEVごり押しに非常に反感を覚えています。

 まずこの商品の原理、多くの国で特許を取得!というのを謳い文句の一つに
しているんですが、その内容について真面目に考察したというサイトがありまして
http://alfa156.sakura.ne.jp/zakki_011.html
これを読むと非常にずさんなのが分かります。このサイトが反SEVのために内容を
でっち上げているかもしれないので本来は自分で読み解くべきでしょうがそこはご勘弁を。

 特許庁のサイトで調べてみると確かにあります


なお、文中で書かれており、各所で指摘されている
「100ミリシーベルト」という、本当だったら使用者が被ばくして死ぬに違いない表記、
出願から10年以上経過した2009年に、
ミリじゃなくてナノだった、というのを含めていくつかの特許の訂正を
要請したようですが、蹴られた模様です。


 ミリとナノをタイプミスしたとは断定できない、ナノだと微量すぎて
そもそもの商品の趣旨に反するから意味が通らん、などの理由が示されています。
確かにそう思えるのは、この会社が2002年に取得した特許


でもやっぱり100ミリシーベルトで、なおかつアメリカの特許でも
ミリで表記されていることです。
そんなに大事な技術でミスを連発するとは客観的に考えて思えません。
しかも長年放置です。
 SEVが広まるにつれて突っ込まれることに気づき、訂正を申し入れたが
元の内容が雑すぎて、その訂正方が矛盾の塊になった、と思えてしまいます。
 そしてこの放射線に関する記述は商品説明ではされておらず、
受ける恩恵が放射線によるものだとはここを読まないと分かりません。

 そもそも特許というのは、ある新たな発想を、安易に模倣されてしまうことで
考案者の利益が損なわれないよう守るためにあるもので、その内容に
科学的根拠があるか、等はそこまで考慮されていないとのこと。
なぜなら、嘘八百の特許なら、誰も真似をしないから誰もその特許が
保護されていることで不利益を受けないからです。つまり、
特許を取得=技術にお墨付きを得ているわけではありません。

 そしてその内容、さきほど面倒くさいので何やらうまいこと書きましたが、
特許内容もぶっちゃけ大差なく、何やらうまいこと作用してるけど、
研究を進めにゃ理由は分からんと書いてあるということで、つまり内容がありません。
 
 生物に直接作用する物事というのは基本的に証明をすることが難しく、
また、世の中には偽薬効果と呼ばれるものがあり、仮に全く効果がないものであっても、
使用者が効果のあるものと信じて使うことで結果的に効果が出てしまうことが
知られています。
 ですからこれだけをもって、インチキであるとするには根拠が不足している
というのが科学的検証の限界となると思います。
具体的な内容を書かず、個人の感想として記述する限り問題はない、
というのは通販のCMなんかと同じです。
 問題は、特許を取得したのって自動車に関するものであり、
人体への影響って一切特許では触れられておらず、それでいて
全てのSEV商品の説明にこの特許が書かれていることなんですが。

 しかしながら、SEVに関しては、車に装備すると性能が向上するような記述があります。
「付けたら速くなった気がする」は、一見すると偽薬効果と区別が付かないように
見えますが、この場合SEVが車に作用してそれを人間が知覚している、
SEVの対象はまず機械であり、根本的に異なります。
 機械はSEVを付けて「お、俺いつもより調子よくね?」と勘違いして性能は
上がりません。機械はほぼ完璧に効果を測定によって証明可能ですが、
いくら検索をかけてもそうした客観的データは見つかりません。
それほどの素晴らしい効果を一切対外的に示さないなんて、ずいぶんと
もったいない宣伝の仕方ですね。


 具体的に「燃費が○%向上」などと書くと、それが証明できない場合
法令違反であるのに対し、SEVは具体的数値は書かず、あくまで
「未知の現象による効果」で「人が感じた」から、嘘は言っていない、
というのが法的な解釈かもしれません。しかし、現象は証明できなくとも、
結果の証明は容易なはずで、機械に作用しているとしながらその効果を
具体的に示せないのであれば、それは根拠のない数字を示すのと
同義ではないでしょうか?


 検索すればブログやら掲示板やらでSEVに関する議論はかなり見つけることができます。
効果があったと言う人、個人レベルで詳細に測定して効果なしと結論付ける人
(すごい労力ですね)、否定派数人vs少数の肯定派で肯定派が社員扱いされて
馬鹿にされてる掲示板(反論がだいたい悪徳商法の販売員っぽい)などなど…

 否定派の意見は概ね私の意見と同じなわけですが、肯定派(反論派)の声では

・使ってみないと分からない(使ってもみないで否定しようがない)

・これだけの人が効果を感じているから効果がないわけない

・詐欺ならこんなに売れていない

といった内容が多く、科学的根拠に関しては証明できないから堂々巡り。

そんなに効果があるなら何で自動車会社は使わないの?>販売価格が上がるから

お金に糸目を付けないF1なら使うはずでは?>レギュレーションで禁止されてる
(どの部分が該当するか教えてくれ)

まあ屁理屈大会ですな(苦笑)

 ちなみに、大手企業が販売する空間除菌やら虫が寄ってこない商品やらも、
効果は確かにあるけど効果範囲は空間に対して小さすぎる≒事実上効果なし、
という判断を受けたのは記憶に新しいところ。売れてるから効果があるとは限りませんし、
大手企業が謳ったから証明されてるとも言えません。

 オートスポーツ誌では「本来無駄なものは一切排除したいレーシングドライバーが
愛用することからも効果の高さがうかがえる」的記述、基本は同じですね。

 で、ようやく話が戻ってくるわけですが、証明できない、ないしは
偽薬効果による体調の変化を容認する以上、それそのものを否定するのは、
公平性という点ではフェアーではないでしょう。
 しかしレーシングドライバーというのは技術を最大限引き出した機械を操る仕事、
モータースポーツ雑誌はそれを取り上げる媒体です。
コンディショニング云々の話は横に置いたとしても、車に対する効果には
疑問を投げ掛けるべき最前線にいるはずの人達ではないでしょうか。

 「ドライバーが使用している」と言っても、それが本人からお金を出して
選んだとは限らず、レーシング スーツにSEVが書いてある人はスポンサーとして
支援されているわけですから、会社側から「これと資金を提供するから宣伝してくれ」
と言われていると考えた方が妥当だと思います。
 彼らが仮にコンディショニングに関する部分だけで恩恵を感じ、機械への効果を
信用していないとしても、消費者が謳い文句を額面通り受け止めると、
レーシングドライバーが使うほどの効果を有する性能向上だと認識する可能性があり、
その商品を声高に宣伝することは、それに加担していると言え、道義的に問題があります。

 これを積極的に推すオートスポーツも、今書いてきたような話を併記し、
車に対する効果はデータがない、偽薬効果の可能性もある、と断った上で書くなら
構いませんが、一方的な宣伝を、しかも宣伝というよりも完全に特集記事のような扱いで
取り上げ、まるで万能薬かのように扱うのはやはり道義的に問題があるでしょう。

 モータースポーツにしろ雑誌にしろ、お金の面で苦しいため藁をもすがりたいのは
理解できますが、お金がもらえたら何でもかんでも宣伝するのはおかしいだろ、
といった意見は実は昨年の読者コーナーの投稿にもありました(掲載するだけ偉いですが)、

が、それに対する編集部のコメントは「応援するスポーツ選手と同じアイテムを
身に付ける感覚で喜んでもらえるのではと思ったのですが…」といったものでした。
それが何かのマスコットとかキーホルダーとか、そもそも効果など謳わないものなら
何の問題もありませんが、効果を謳い、買うと非常に高価で、しかもその真偽が
不確かなものをグッズと同列に扱えるものではありません。

 宇宙的力によって体調がよくなる羽毛ぶとん30万円!なんて宣伝していたら、
まず怪しむでしょうし、そんな宣伝を堂々とする人や雑誌があったら、
信用できないのが普通です。
 実は特許検索していたら、同じく
物質活性化材およびその製造方法
物質活性化材を表面に塗布した貼着シートの製造方法
で特許を出願している人がいることが分かりました。
 で、その人を検索したら
ここにたどり着きます。SEVを信用するということは、この人も
信用できるということになりますが、いささか印象が異なるのではないでしょうか。
前者を軽く読んだ見たら、SEVの内容に存在する欠点をこの人が
解決してくれるようです。

 偽薬でも効果が出た人がいるならいいじゃないか、否定する材料も無いだろ、
という反論がまずなされるでしょうが、効果を感じた人の裏に
多くの騙されたと思う人がいるのは想像に難くありません。
 そもそも、偽薬効果をもたらす要因の1つは、
「こんなに高いものなんだから効果がないわけないよな」
「ここの勧めてる人みんな効果あるって言ってるんだから、よく分からんけど
 効果が有るような気がするな」
という、ある種の強迫観念によるところもあるでしょう。
 これはつまり、本来なら効果を感じず、お金を出す必要性が無かった人たちに、
外圧をかけることによってお金を使わせた可能性があるということに
なりますから、その宣伝に加担する意味は非常に大きいと思います。

 逆に、SEVというものの存在を全く知らない人に、その人に黙って
設置した場合の効果というものを検証すると、ある程度心理面による効果の
有無を検証することが可能かもしれません。
が、これですら、ネタバラシの際に
「実はこういう効果のあるものを付けたんだけど」と言われたことで
「そういえば効果あったような気が」と誘導される可能性があるので
定量的な観測方法とは言えないでしょう。

 過去にも有名人が詐欺商法の宣伝に加担していたことがいくつかあります。
最近ではいわゆる円天事件やペニーオークション詐欺があります。
彼らは刑事上は責任はなくとも、道義的責任は大きいはずです。
またメディアという点でも、豊田商事事件に代表されるように、
完全な詐欺会社が多額の広告料でさも超一流企業であるかのように振舞って
大手新聞にも広告を出したことは被害の拡大を促進したと考えられます。

 モータースポーツ界に有象無象がいるのは恐らく中の人間にとっては
周知の事実なんでしょうが、そうした付き合いは結局自らの首を絞めます。
 それなりに給料ももらえているはずのGT500のワークスドライバーであるならば
なおのことその行動に自覚を持つべきですし、自動車メーカーもこうした
関係に対してはきちんと目を光らせ、縁を切る、ないしはそうしたドライバーであれば
契約しないという意思を持つべきです。

 大変長くなりましたが、SEVに関して効果があると思うかどうかは
個人の自由ですので構いませんが、少なくともSEVがどういったものであるのか、
ということを知っていただき、もしオートスポーツ誌を購入する予定で、
なおかつ私と同じような感想を持たれた方がいらっしゃれば、
アンケートでそうした意見を送っていただき、このやり方は間違っていると、
そういう声を届けていただければと思います。

※あくまでこれも個人の感想であり、強要するものではありませんw

 ところで、本来の働きというと、生物の遺伝子には元々老化が
プログラムされているというのが現在の学術的見解だと思いますが、
そうすると、本来の働きを促進すると猛烈に老化してしまう気がするんですが。
そんなに都合よく良い面だけが出てくるってどういうこと?