いよいよチェイスが始まるということで、たまにはNASCARの基礎知識的な記事を1つ。

 NASCARでは頻繁にハンドリングに関する情報が入ってきます。
使われる表現はルース、タイト、フリーの3つ。
中継を見る際に視聴者側も常に注目すべき点です。

 ルースは日欧で言うオーバーステア。
リアのグリップがフロントに対して不足しており、ステアリングを
リアが先に外へ出ていってしまい、ステアリングを切った以上に車の
向きが変わってしまう状態です。
要するにスピンしそうなわけです。
 ラインが複数ある中高速トラックの場合、ルースの状態では、
大外ラインを走ると滑った拍子に壁に当たることがあるので、
どちらかというとボトムを走ることが多くなります。

なお、古いトヨタのNASCARサイトなんかで『ルーズ』と書かれていますが、
looseは『ルース』です。
日本では『ルーズソックス』『時間にルーズ』等、looseをルーズと読んだ
和製英語があるためにトヨタもそれに合わせたか、単に書いた人が英語を
知らなかったのでしょうが、発音は『ルース』で濁りません。

 タイトは逆にアンダーステアのこと。
フロントのグリップが不足していて、ステアリングを切っても車が
曲がってくれない状態です。
減速しないと壁にぶつかってしまいそうなわけです。
 こちらはラインが複数ある場合、ボトムを走るには大幅な減速を
強いられる上にステアリング舵角が増えてますますフロントを傷めるため、
どちらかというとトップを走ることが多くなります。


 で、よくわからないのがフリー。
 G+解説陣のうち、桃田 健史はフリーについてよく
「フリーっていうのは要するに曲がっていかない、ってことですね」
と解説してくれます。タイトまでいかないけど曲がらない、という感じの説明です。
 ですが実は、アメリカのNASCAR関連サイトで検索をかけると、
「フリー(あるいはルース、オーバーステア)」と書かれてあるサイトばかり。
桃田さんの解説とは正反対に、ルース側の表現として紹介されています。
はて、どっちなの???

 そのあたりの細かいニュアンス、調べてもあまり良くわからないので、
私は自分で勝手に解釈をしています。
 グランツーリスモで長年遊んだ中途半端な挙動に対する理解から来ていますので
信頼性は不明ですw
 基本的にフリーは4輪全体の設置感が不足している状態ではないかと考えます。
ルースは前は強いので巻き込み、タイトは逆ですが、フリーは
4輪がバランスよくグリップしていないため、ターンで切り込むと
感触としてはまずお尻が思っているより外へと滑り出す感覚になります。
でも別に前もグリップしているわけではないので、スピン挙動になるでもなく、
結局4輪まるごと自分のイメージよりも車が外のラインに押し出されるような
格好になります。でも別に後ろが強すぎてタイトなわけでもないので、
アクセルとステアリングで車の向きを変えつつ、結局ズリズリと走ることになります。
 後ろのしっかり感が無いから進入で思い切ってステアリングを切ることができず、
結果、全般的な旋回性能が落ちている、ということもあるでしょう。
 説明が真逆のようになっているのは、曲がっていかない、という説明と、
ルースである、という説明、どちらも間違いではない状態であるがゆえでは
なかろうか、というのが私の解釈です。


 そしてこうした表現をドライバーは、ターン1~4、あるいは3つの部位に分割して
表現します。3つに分ける場合
イン(あるいはエントリー)、センター(あるいはミドル)、アウト(あるいはオフ、エグジット)
の3つの部分に分けてコメントします。
 例えば
ルース イン、ルース アウト
タイト イン、タイト センター、ルース オフ
とか言います。
 どこも同じ状態なら、アジャストもだいたい一方向で良いので、
実力のあるチーム・ドライバーならレースしながら対処しやすいんですが、
進入がタイトで出口がルースなのは日本語で言うアンダーオーバーというやつで一番最悪。
 入り口で曲がらないから車速を落とすしか無いのに、出口で踏もうとしたら
お尻が出てしまうから出口でも踏めず、めちゃくちゃ遅くなります。
前だけ強くしても出口のルースは悪化するかもしれないし、かと言って
踏めるようにしたらますます曲がらないかもしれません。
 こうなると、アジャスト レンチをグルングルン回したり、バンプ ラバーを
付け外ししたり、かなり大規模な突貫工事が必要です。でも
ベースのセットがダメならどうやってもダメなもんはダメだったりしますw

 私もGT5のたのクリシリーズの際、350Z RSはセンターでフリーになりやすく
そこの改善が課題でした。
(ハンコンとパッドの差もあったと思われます)
切ってクリップに付くあたりまではすごくいい感触なのに、そこから4輪が
スルスルと外に逃げるような感じがあり、回り込むようなコーナーが特に
難題でした。
かと言って、これを曲げようとオーバー方向にセットを振ると
出口で滑るルース アウトになるので、折り合いを付けるのに苦労しました。
 コースによっては、むしろ後ろのグリップを増やしてやったほうが
進入は少し遅くなってもその先がしっかりして逆に速かったりしましたし、
ラグナ セカで車高を最大まで上げたのも、ここを最も改善できたのがたまたま
ヤケクソでやってみたこれだったからですwセットの奥深さを学びました。

 オーバルは同じ場所をグルグル回るだけですが、たったその十数秒の中で
ルースもタイトもいろいろな形で次々と顔を出し、ドライバーは
それに対処しないといけません。
 ルースと言っても、入り口で横を向きそうになるのと、
出口でアクセルを踏んだ瞬間に滑るのとでは同じルースでもまた別の
対応が必要なこともありますし、長いレースの中で、時間とともに
コンディションがタイト寄りになっていった結果、レースの最後に
ばっちりいい車になることもあります。

 レースを見ながら、リポートを聞いてドライバーの様子を聞きつつ、
映像でその姿を見て
「おー、相変わらずルースひでえなあ」とか思いながらレースを見ると、
ただぼんやり見るより格段にレースは面白くなります。
 そして、何も知識がない状態よりは、たとえゲームであっても、
ハンドリングのバランスについてのぼんやりしたイメージが有ると、
なお面白く見れると思います。

 ハンドリングがどうこうと言って、レース中にそれをいじるレースは
そう世の中にありませんので、NASCAR観戦するなら、ハンドリングの
話題はぜひ抑えておきたいポイントです。