2016 AUTOBACS SUPER GT Round6 45th International SUZUKA 1000km
鈴鹿サーキット 5.807km×173Laps=1004.611km(GT300 Leader 161Laps)
GT300 class winner:SUBARU BRZ R&D SPORT 井口 卓人/山内 英輝
(SUBARU BRZ GT300/R&D SPORT)
GT300クラスの鈴鹿1000kmでも『5回ピット&ドライバー交代義務』は
戦略上大きな影響を及ぼします。
燃費の良い車両は、従来4回のピットで十分に走りきれていたため、
この規則は燃費の悪い車に対するマージンを吐き出す幾分不利な制度です。
しかし一方で、タイヤのライフに余裕さえあれば、どこかのスティントを
極端に短く切ったり、給油のみの作業にするなどの手は打つことが可能です。
そして、結果的にそのサイクルのズレが勝敗を分けることになりました。
予選のPPはUPGARAGE BANDOH 86。VivaC 86 MCばかりがどうしても
注目されますが、こちらもかなり仕上がってきていて、順当な結果と言えます。
2位はTOYOTA PRIUS apr GTでしたが、彼らは決勝のスタートに雨用タイヤを選択。
5回もピットがいらないプリウスからすると、たとえ5周だけであっても、
濡れた路面でマージンを稼いですぐにタイヤを捨て、残りを『4ピット』で走れれば、
という計算があったものと想像できますが、素人が見ても選択ミスで、
コーナー1つたりともこのタイヤが優位な場所は存在せず、たった3周で
何一つ効果を発揮すること無くプリウスは『捨てピット』を消化しましたが、
これで上位争いからは消えたと思われました。
トップのUPGARAGEは後続にBRZを引き連れながらのリードが続きますが、
BRZが25周と比較的早い時期にピットに入ると、同じ周に入って真後ろで
コースに戻ったGAINER TANAX GT-RにS字でまさかの追突を食らって
後ろからバリアに接触。幸い車両へのダメージは無かったようですが、
大きく順位を落としてしまい、この時点で優勝の目はなくなったかと思われました。
同様に、ペナルティーを受けたGAINER GT-Rも終わりと思われました。
UPGARAGEが28周目に1回目のピットを終えると、後続とは大きな差が付いていて、
7位スタートのグッドスマイル 初音ミク AMGが2位、16周という短い
第1スティントをとったGAINER TANAX AMG GT3が15位スタートから3位と、
随分とスタート時から展開が変化しました。
GAINERは2台とも、完全にライバルとはずれたサイクルで勝機を
見出しに行っている模様で2回目のピットも人知れず早めに終了。
一人だけ『4ストップ』のプリウスもズレてしまっています。
方やコース上では雨が降りだすとUPGARAGEのペースが大きく鈍り、
初音ミクAMGがコース上でこれを捉えてリード チェンジとなりますが、
その後のピットでまた逆転されてしまいます。
画面を確認していると、2回目の義務を消化した中では
GAINER GT-Rが実質的トップになっていて、非常にややこしい状態だなと
気づいたのはこの頃で、このままレースが展開した場合、
最終スティントは、早めに5回目を終えてタイヤが古い2台のGAINERが
しれっと前にいるのをUPGARAGEが追う展開になる可能性があり、
見えない戦いのチェックを怠らないようにしないとな、と思っていました。
残念ながらAMGの方はその後エンジンの問題でリタイアしてしまいますが。
ところがその必要があまりなくなったのが、83周目に起きた
シンティアム・アップル・ロータスのクラッシュによるSC出動。
高橋 一穂、交代まであと数周というところまで来ていて、しかも見た目の順位で5位、
健闘していましたが無念のリタイアでした。
冷静に考えれば、10年前のGT500並に速くなった今のGT300は、
還暦を過ぎたジェントルマンが戦うにはかなり過酷な場所です。
で、なぜ考える必要が無くなったかというと、サイクルがズレていたせいで、
SC前に3回目のピットを既に終えていた人と終えていない人に大きく分かれてしまい、
前者の人が後者の人に実質的に1分を超える大量のマージンを持ってしまったからです。
中継でこの辺の解説がほとんどされていなかったので、あまり詳しくない方は
どうしてUPGARAGEがトップだったはずがいつの間にかBRZが勝っていた
理由がよくわからなかったんじゃないかと思います。
その『前者の人』だったのが、GAINER GT-R、プリウス、BRZでした。
ペナルティーを受けた車と、タイヤ選択で大大大失敗した車と、飛び出して
ぶつけた車が優勝争いをすることになります。プリウスは恐らく
ドライでスタートしていたら後者の人の仲間でしたから、失敗が結果的に
幸運を呼んでしまった形です。
むちゃくちゃ速いUPGARAGEと、食い下がっていた初音ミク号は
見た目上はトップ争いですが、実際にはGAINER GT-Rの1分以上後ろです。
このSCで得をした3車の中で、最もピットの時期が遅く、常に新しいタイヤで
飛ばせる条件だったのがBRZでした。リスタート時はこの3台の中で
3番目の位置でしたが、4回目のピットが一番遅く、このピットを終えて
2台まとめてオーバーカットに成功。
とりわけGT-Rに前を抑えられずに済んだのは勝因の1つだったでしょう。
GT-Rは直線が速くて抜きづらい上に、実は車体がでかくて後方乱気流もひどくて
空力重視の車両ほど接近しづらいという地味な武器も備えていますw
こうして解き放たれたBRZ。
SCで損した組はMC86を中心にタイヤ無交換など策を講じてきますが、
普通にレースしていれば効果てきめんだった作戦も、この展開での、
優勝争い、という点ではSCで失われた膨大な時間の前には全く効き目なし。
レース最終盤、豪雨の中でプリウスがGT-Rに一気に追いついて
思わぬ大逆転を果たし、対BRZでも同様にすごい勢いで追いついていましたが、
BRZはそこまでに20秒以上リードしていたので、貯金を取り崩して
8.395秒差での優勝となりました。
乾いた路面に雨タイヤを選んで失敗したプリウスが、最後に濡れた路面を
スリックで1台だけえらく速かった、というのがまた妙な話ですw
BRZはこれで3戦連続の表彰台。
SUGOはウエイト無しでの3位で悔しさが上回ったかもしれませんが、
富士での3位は逆に望外とも言える好結果。
そして1000kmで優勝と波に乗っているようです。
BRZは富士で、ブロー覚悟で回転数の引き上げを行ったそうで、チームとしても
かなり攻めの姿勢を見せています。
今回はそうはいかなかったでしょうが、ドラッグとダウンフォースのバランス、
タイヤ性能の引き出しといったあたりが数年ぶりにうまく決まっているんだろうな、
という印象を受けます。
メーカーの変更、サイズの変更などで、ここ数年は作った車の性能を
出しきれないままシーズンが終わっている印象だったので、
久々に手にしたこの感触を生かしたいところ。
ただ残念なことに、この後待ち受けるコースは、いずれも
BRZの得意とするコーナリング性能よりも、加減速性能が重要な
コースしか残っていません。。。
たまたまそういう条件がハマっただけ、という側面もあるとはいえ、
スバル車はこれで2010年・2011年・2013年に続く優勝で、
ここ7回のレース中4回をR&D SPORTが制しています。
(ただし2010年はレース距離700km、2011年は500km)
SUPER GTのシリーズ戦として鈴鹿1000kmが組み込まれたのは
2006年ですが、以降このイベントで複数回勝利しているのは
MOLAのフェアレディZが2008年・2009年と連勝した1回のみ。
2009年・2010年は700km、2011年は500kmで開催されているため、
1000kmのレースで複数回勝利しているのはR&D SPORTとBRZのみです。
過去このイベントで勝利してシリーズでもチャンピオンだったのは
2008年のMOLA レオパレス Zと2015年のGAINER TANAX GT-Rのみ。
どちらかというと、ウエイトが軽かったり、救済でこのイベントに
うまくハマった車が勝つ傾向があるレースという印象がありますが、
このレースを終えて選手権首位となったBRZは、苦手コースを克服して
チャンピオンとなれるでしょうか。
あ、またライブの車載映像期待してますw