SUPER GTにもFCYは必要である、ただ、その運用も万能ではないので、
他カテゴリーを参考にしながらより良い制度を模索していかないといけない、
といった話を2回に渡って書きましたが、


 一方で私は、F1にVSCが導入された昨年の開幕以降、違った部分で
この制度に妙な矛盾を感じていました。
そんな折、7月にユーロF3で、しかもジュール ビアンキの1周忌に
『SCを出さずにクレーンが出動する』ということがあって批判が殺到、
さらにその翌週のF1ハンガリーGPでも、予選で黄旗2本が降られていた中で
ニコ ロズベルグがベストを更新してPPを獲得し、これまた批判殺到。

 そして、そんなタイミングでオートスポーツ誌のコラム、大串 信の
『全日本モータースポーツ会議』でもこの件に触れていて、古参ライターさんは
私と似たようなことを感じていたようなので、F1も夏休みのこの機会に
触れておこうと思います。


 同コラムでは、『ビアンキの事故に学ぶ』と題して、F3での出来事に
触れました。
ちなみにこういう出来事です。
題名から、コラムの内容もこの批判に乗っかる形だと思ったら大違いで、
要約すると、

『そもそも黄旗は減速を意味しているのに、なんでみんな
SC運用に責任をなすりつけて普通にレースやってるんだ。
死人に鞭打つわけではないが、ビアンキの事故も一義的には減速していない彼に
責任があり、それがいつの間にか話がすり替わっている。
黄旗の意味をちゃんと理解することこそビアンキに学ぶことだろう』

といった内容です。

 このコラムではSCについてですが、私がVSCやFCYといった制度を見て矛盾を
感じたのもまさにこの点です。
 これらの制度は、基本的に黄旗2本が降られる状況で必要に応じて
適用され、規則によって定められた最高速度なり平均速度なりに全車が
強制的に減速させられます。
 そこまでゆっくり走れば、通常ドライバーが作業場所にぶつかっていくようなことは
(どこかのドライバーみたいに一人だけ事故車両の方に向かって
急加速するようなことをしなければ)起こり得なくなるので、
SCを導入して一旦レースをほぼリセットするより
遥かに進行への影響を小さくしつつ安全に作業を行えるようになりました。

 しかしそもそも、黄旗が2本降られている場合、規則では
すぐに停止できるよう準備をしておく≒徐行しないといけないわけで、
黄旗2本自体がスロー ゾーンの意味合いを持っているはずです。
 しかし規則では具体的な速度が示されていないため、結局ドライバーは
現場を気にはしつつも、自分だけゆっくり走って抜かれでもしたら来年の
自分の仕事が無いので、『ほどほどに全速力』で走ることになり、
拘束力のある規則といえば『当該セクターでベストを更新しない』ぐらいしか
ありません。
黄旗区間でのスピンやコース オフも違反行為ですが、そもそもプロ選手が
飛び出すこと自体がそれほど多くないので、ちょろっと気をつければ
まあそんなヘマをする人もいません。

 そこに来て、全車に速度抑制を具体的な数値で強制するVSC/FCY/SZといった
規則が新たに設けられてきたため、逆説的に
『それらが出ていない=気にせず走って良い』といった意識になっているのではないか、
と感じているのです。

 ロズベルグの予選の件でも、確かにベストは更新されておらず、
また、細かい規則では、現場を含む3つのタイム ループ
(我々が見るセクターをさらに細かく分割した計測区間)で0.3秒以上
落としている、とかいう基準があるらしく(不正確です、スイマセン)
それも満たしていたので、規則上は完全に合法でした。
 車載映像を見ても、コーナーでマノーに引っかかった、ぐらいに
通常よりも手前からスロットルを戻してターンに入っており、F1ドライバーの
感覚で考えれば、あれはもう全速力の100m走を徒歩に変えたぐらいの
差があるんでしょう。
が、たった0.3秒の速度低下、平均速度にしたら一体何km/h出てるんだ、という
絶対的価値観で考えれば(作業しているマーシャルはただの一般人である)
あんなものは減速したうちに入りはしないでしょう。
 
 実際にはロズベルグがこの区間を通過した際には、黄旗の要因だった
フェルナンド アロンソの車はいなくなっており、コースのすぐ脇に
危険があった状態ではありませんでしたが、ロズベルグは『現場だった』部分を
200km/h近い速度で通過しています。
 結果的にこの一件が大きな批判と議論を呼んで、ドイツGP以降は
『黄旗2本の状況になったら赤旗にしてセッションを止める』という
フリー走行のような対応にすることで決着を見ましたが、
この件からも、上から強制されない限り、ドライバーは合法な範囲内で
可能なかぎり速く黄旗区間を抜けようとすることははっきりとしています。

 もちろん、ドライバーがそういう人間であること、規則上そうならざるを得ないことは
運営側も完全に理解しているわけですから、上記F3の件にしろ、
ビアンキの事故の件にしろ、SCを出さなかった競技長の判断は私には理解できません。

 他方、そうした人間だからこそ、無理矢理にでも減速させる制度で安全性を
確保しようとしているのに、それによって有利不利が出た時に露骨に
不満を表した先日のWECのドライバーの反応もまたおかしいと思います。
だったら、FCYなんて無くても、みんなちゃんとゆっくり走ってくれるんでしょうか。
やらないからFCYがあるんだぞ、という基本が忘れられています。

 


 黄旗2本の本来持つ意味だけを考えれば、SZこそ最も適切な規則であり、
これによって有利不利が出ても一切文句は言わない、というのが
最も簡単な答えだと思うんですが、興業という側面から考えると
競争に関係ない車の回収作業で致命的にレース展開が変わると困るから
代替案としてVSC/FCYがある。それは元をたどればドライバーが黄旗を見ても
みんなばらばらな解釈でお世辞にも減速しているとは言えないからで、
じゃあなぜ減速しないといけないかというと、万一作業中の場所に車が
飛び出してくると、マーシャルの生命に危険が及ぶからだ。

 物事の経緯をきちんと順序立てて整理し、競技者も、運営者も、
何が大事なのか、まず尊重されるべきものが何なのか、それをもう一度
整理した上でレースに臨んでもらいたいです。
 どれだけ規則を作っても、それを運用するのは結局人間のさじ加減でしかないわけです。

「ちゃんとちょろっとアクセル戻したからデータを見ろ」

「レースが終盤だから止めづらい」

「何でSC出さないんだ」
「黄旗なんだからちゃんと守れ」

と互いに罵り合っているだけなら、その狭間で、必ず次の犠牲者が出ます。
その時、その犠牲者を巡って、また責任のなすりつけ合いを続けるんでしょうか?