昨日の記事で触れたとおり、今年からF1ではクラッチ パドルが
1つに制限されました。私も決勝前の川井ちゃんの話で初めて知りましたが。
ただ、そもそも仕組みを詳しく知らない人からすると「何それ?」な話で、
年に何回かこれまた川井ちゃんが解説しているものの、急いで喋ってるのと、
そもそも言葉では伝わりづらいために、知らないで聞くと意味が分からないのが
正直なところ。というわけで、この機会にざっくりと、今まではどうで、
それが今年どうなったのかを、スタート全般を含めて書いておこうと思います。
ちょっと古い記事ですが、こちらが参考になります。
F1だけでなく、スーパーフォーミュラなんかもそうだと思いますが、
クラッチは足ではなく手元で操作します。
仕組み上、変速の度にクラッチ操作をするわけではなく、発進時以外は
使用しないからでしょうね。
パドルはステアリングの後ろに付いていて、手を離していると繋がった状態、
手前まで目一杯引くと完全に切れた状態です。
PS3のコントローラーだとR2/L2ボタンを想像すると良いと思います。
昨年まではパドルは2枚でした。ツイン クラッチだから2ついるのか、
難しそうだな、とかそういうわけでは全く無く、よりうまく発進するための仕組みです。
このパドルには『より手前に引いてある方に従ってクラッチが動く』という
仕掛けが予めされており、これが重要です。
スタートに臨む際、ドライバーは、例えば右手は目一杯パドルを引き、
左手は、予め調べておいた最適なバイト ポイントの位置で手を止めます。
手前にある方が有効ですから、この状態ではクラッチは切れています。
さて、スロットルを踏んで回転数を合わせ、シグナルがブラックアウトでスタート。
ここで右手は離してしまいます。すると、手前優先システムに従って、
左手の位置がクラッチの位置となり、ここでいわゆる半クラ状態になります。
そして、もう十分だな、と思ったら左手も離して、これで完全にクラッチが繋がります。
今年はこれが1枚になった、ということは、
『事前に最適な場所に合わせて待つ』ということができなくなります。
本当に単純に、足でやってるクラッチ操作を手でやるだけ、手の感覚でちゃんと
最適な場所に発進と同時にクラッチを操作してやる必要が出てきます。
うっかり緊張で手が滑ったりなんかしたらエラいことですw
また、スタート時の最適なバイト ポイントというのは、基本的に
事前のフリー走行で試しておいて、エンジニアがそのデータを元にはじき出して
決定されます。
ただしそれは決めたら何もしなくても100%そこ、というわけではもちろんなく、
グリップ力が大きく影響するので、タイヤの熱の入れ具合と
路面の摩擦係数が狙った数字でないといけません。
コースによってはグリッド位置によって微妙に勾配が違ったりすることもあり、
それだけでも微妙に変わります。
よりグリップさせようと、フォーメーション ラップに出る際にわざとタイヤを
空転させてタイヤのゴムを付けたりしますが、事前の想定以上に付け過ぎると、
グリップが高すぎて、発進後に回転が落ちてしまうかもしれません。
こういうことは、以前はエンジニアが事細かにスタートまで指示していました。
が、これは昨年の途中から無線の制限のために無線での伝達ができなくなり、
ドライバーは事前に全部説明を受けて
「こうやって、ここで◯回バーンナウトやって・・・」と全部覚えて実践しないと
いけなくなりました。
エクストラ フォーメーション ラップに入ったりなんかすると、もう1回車を
転がすことになるのでまた想定から外れてしまいますので、うまくいかない人は
増える可能性があります。
ゲームほど簡単には発進させてもらえないことがだいぶ
お分かりいただけたかと思います。
さらにもう1つ、これまた解説で知りましたが、今年から出力マップも
1つしか使えないそうで、『RSモード』とか呼ばれていた発進専用の
出力マップが事実上封じられたようです。
このスタート用モード、何が違うのかというと、
普通足元のペダルのスロットル開度と実際のエンジンの開度はイコールで
繋がっているはずです。(実際の出力の出方はターボとERSの都合で全然違うけど)
そうすると、例えば発進時には60%の開度が理想だ、と決まっていたとして、
足を完璧に60%の位置で固定しておかないと、空回りや失速を招きます。
×ボタンでGTをやっている私には一番むずかしい分野です。
ゲージがピコピコと増減します。私がニュルでFF車を使っていたら
リプレイを見てみてください。最近頑張って合わせにかかってるんで
ゲージがすごいですからw
しかしここは電子スロットルの利点、要は、少々踏み方が狂っても60%に
なるようにプログラムの側で介入してやればいい、というのがRSモード。
例えば、60%までは足の動きと連動して動き、そこから80%までの範囲は
どこで踏んでてもず~~~~っとエンジン側の開度は60%、
で、そこを超えたら急激に立ち上がって100%へ、とプログラムしておくと
『空振り』は少なくなります。
これGTの×ボタンユーザーにはぜひ欲しいですねw
ただ、当たり前ですがこのモードのままレースをしようとすると、
今度は微妙なアクセル操作をしたいのに、ハーフ スロットルでコントロールしていたら
いきなりパワーが出て制御ができなくなるので、スタートが終わったら
すぐに切らないといけません。
確か、モードは設定後何秒か経つと自動的に切れるようにはなっているそうですが、
1コーナーが近いとかだと、マニュアルで切らないとエラいことになります。
エンジニアからも「RSオフ」という、切る指示がよく出るそうです。
事実かどうかは不明ですが、キミ ライコネンがここ2年で何度かやらかした、
スタート後/ピット後の周にいきなり暴れてスピンしたのは、単に
切り忘れではないかと川井ちゃんは指摘しています。
ピット ロードが超絶狭いトンネルのコーナーになっているアブダビでは昨年
ニコ ロズベルグに対してエンジニアのトニー ロスからの
「ニコ、重要な事だ、RSはピット レーンだけだぞ、RSはピット レーンだけだ」
という無線が放送されていました。
切らずにトンネルに入ると、アクセルを踏んだ瞬間回ってリタイアの恐れがあるからです。
で、マップが1つ、ということは、スタート用の設定でレースなんか
できっこないので、事実上RSモードは封印されるわけです。
クラッチと同様、今まで細工によってだいぶ楽させてもらっていたものを
自分の感覚できちんと最適な操作をしてやらないといけなくなったわけです。
あるいは、ペダル開度と少々実情が変わる特殊な設定を施しておいて、
ドライバーがそれに順応して走るか、ということになります。
普通そんなことしないと思いますが。
と、いくつかの点が変更されたことで、元々決して簡単とは言えなかった
スタートの手順にだいぶやること、考えることが増え、今年は苦労する
シーズンとなりそうです。
無線制限に関しては、
「スタートの成否はエンジニアでほとんど決まっているようなもので、
スタート失敗が誰のせいかよくわからん。これは変だろ」というような
意見があって変更されたところがあります。
私も当初そう思っていたんですが、その一方で、失敗スタートというのは
ただ下手くそなぐらいなら良いんですが、ほぼ動かなかった場合
大事故に繋がる可能性があります。
近年その手の事故が無いのはある面その手のズルのおかげとも言えると思うので、
あまりに古典的手法に回帰しすぎて大丈夫か、という疑念も湧いてきました。
スタートはより順位変動を演出する方向となりましたが、くれぐれも
大事故だけは勘弁です。