2016年、F1は現行規定3年目を迎えます。見ていて分かりやすい変化は
せいぜいタイヤの選択ぐらいのもので、基本的に昨年と大きく変わらない
規定のシーズン。PU開発に関する規則が緩和されるので、シーズン中も
開発について話をすることが出来るのは面白みでしょうか。

 そして、2017年以降に関しての規則づくりというのも進められています。
観客・視聴者減に悩むFOMとFIAは打開策として『より速い車』を掲げた
規則をまとめつつあり、車の開発を考えるともう固めないといけない時間に
なってきていますが、これが私には逆を向いているようにしか思えません。

 彼らは『車が速ければエキサイティングで盛り上がる』と考え、
『5秒速い車』を掲げて、幅の広いタイヤや、大型化された空力部品により
それを実現しようとしています。
 しかしレースを知る人間なら、誰もが
『ダウンフォースが増えると後方乱気流が増えて追い抜きが難しくなる』
ということを知っています。
 これはGT500ですら言われていることで、NASCARでも問題視されて、
今季は昨年テストした『低DFパッケージ』に空力規則に変更になっています。

 この規則を実現すると、明らかに今まで以上に接近が困難になり、レースは
単調になります。速い車が走ってはいるけど2秒以上近寄れないレースを
ファンが喜ぶとは思えません。
 空力要素を減らし、タイヤのグリップに頼った車にすることでドライバーの
力量をより反映するようになり、追い抜きも増えるはずで、そのため
少々ラップ タイムが低下することもやむを得ないと思います。
 スーパーフォーミュラやGP2は確かに速く、F1があまり遅いと
速度差がどんどん無くなりますが、じゃあSF面白いか、と言ったら
全然抜けなくて玄人好みのレースになり
「わざわざ高い金払ってこんなに速い車いるか?」と指摘されています。

 実際にチーム側の人からでもそういった声があり、当然多くのジャーナリストも
そう指摘していながら、規則はそちらへ向かっていく。
一体何がそうさせるのか。低迷の原因があるとすればまさしくこの点に
あるわけですが、当事者はそれを認めたくないので、それをかき消すために
また違うことに走り、それが迷走を生み、そして問題が出ればまた違うことを始める。
懲りない人々です。

 全くの余談ですが、とんねるずの番組の『モジモジくん』で流れるBGMは
『タンクポリスの懲りない面々』と言います。



 そしてもう1つが『クライアント エンジン』と呼ばれる『別規格エンジン』の導入。
現行PUは非常に高価で、メーカーが供給先に引き渡す価格が高すぎて
小規模チームの財政を圧迫しています。FIAとFOMはこれも問題視。
 現在PUの引き渡し価格は2000~3000万ドル程度と言われており、FOMの
バーニー エクレストンはこれを引き下げようとしますが、
フェラーリが拒否権を行使したこともあり実現せず。
 後にコストがかかるのでMGU-Hだけでもやめる話が上がりましたが、
ホンダが「ハイブリッドを磨かないならやる意味ねえよ」と拒否。
MGU-Hで一番苦労してる彼らが拒否とは男気でしょうか。

 これまでもV8に戻すだの何だのと文句だらけのバーニーはキレて
『だったらPUと別に安価なやつをこっちで作って供給する』と強攻策に。
 しかしこれはPUとは全くの別物で、2.2~2.5L程度の排気量の
V6ターボ、エネルギー回生などしないただの『エンジン』。
しかもパワーは現行PU以上、当然燃料消費率なんかも全然違うので、
レース中に使える燃料量も違う予定で、これをPUの1/3程度、1000万ドル以下で
供給するというのです。
バーニーの案にFIAの会長・ジャン トッドも乗っかりました。
 昨年11月にこの案はFIAで否決され、2017年からの導入はなくなりましたが、
2018年導入をまだ諦めていません。

 当然メーカー側は反発。
バーニーが「チームは自分たちの利益しか考えていない」と批判するも
チームは「多額の費用がかかってるんだから当たり前」と平行線。
「お金をかけていない別規則のエンジンが速くて開発したものが遅いなんて
F1の原理原則としてあり得ない」とします。
 
 確かにPU価格の高さというのは予算に直結するので、メーカー側の
譲歩は必要であると感じます。彼らは広告宣伝も含めて活動しているわけで、
人気が落ちて効果が落ちれば、結局引き下げなかった価格以上に損を
する可能性もありますから、過度の強硬姿勢は彼らにとっても損です。
 例えば、供給先の成績に応じて支払代金が増減するインセンティブ契約にするなど、
契約方法1つでも価格は調整できるはずです。スポーツ選手の
とんでもなく細かい契約内容を見習えばいくらでもやりようはあるはずです。

 しかし、全く違うエンジンを導入とは意味不明です。
だったらもうメーカー閉めだして今すぐ単一エンジンにでもすればいい。
 FIAは環境問題への発進も考えてハイブリッド技術、それもまだ市販車に
実用化されていないもMGU-Hをうまく使えば使うほど速く走れる巧妙な規則に
したはずで、トッドもそれを誇らしげに語っていたはずなのに、バーニーの
世迷い言に付き合うとは残念です。
本来「黙れジジイ」と言う立場のはずなんですが。

 そもそも、PUの契約は多くのチームが長期で結んでいるので、
クライアント エンジンが導入されても簡単に乗り換えられない可能性もありあす。
 あるジャーナリストの邪推の記事ですが、バーニーは
『レッド ブルがルノーと決裂して2016年のPUが無い』という状況に
陥った際に奔走、メルセデスと話を付けた、と思っていたら全然違ったので
仕返しのためにやっている、と書いていました。
 そこまでボケた人間では無いと思いますが、この規則が基本的にレッド ブル向けに
考えれれているようなのは確かなようです。
 で、レッド ブルが安価なエンジンを手に、一人だけガンガン燃料使って
すんごいスピードで圧勝したら、何て言うんでしょうか?
 
 バーニーは小規模チームの救世主として頑張っているように見えますが、
彼は一方でグランプリ開催に関し、お金が払えないところはたとえ伝統があろうと
あっさりと切り捨て、お金のある新興国のイベントと入れ替えています。
イタリアですら消える可能性が取り沙汰されるほど。
あくまで彼の行動原理は『人気が落ちるとお金が集まらなくなる』からで、
『F1のため』『ファンのため』であるとは私には思えません。
価格引き下げを渋るメーカーと何も変わらないと思っています。

 分配金で調整すれば多少は下位チームの窮地が緩和されそうですが、
それもコンコルド協定で既に決められており、何やかんやの政治的対立の
解決手段としてバーニーが一部チームに多く配分される工作をし、このせいで
ロクに走らなくてもお金が受け取れるような立場の人ができてしまったため
機能しているとは言いがたい状況です。

 オートスポーツNo.1420内のインタビューで、WECのCEOジェラール ヌブーは
最先端の技術を開発するのにお金がかかるのは当たり前であるとした上で、
それを中~長期的視点に立っていかにそれを制御するかを語っています。
それは運営、参加者双方に言えることで、ちょっと経営状態が変化した、
不祥事があった、と言う時に感情的に物事を決めてはいけないとしています。
 WECは動力を他所に売ったりしないので論点は異なるでしょうが、
F1はいかにも長期的視点に欠けているように思えます。

 結局のところ、毎度毎度テキトーに取り繕ってその場をしのいできたために
運営する側も参加する側も危機感が薄いとしか思えません。
一度潰れたカテゴリーは再建にあたってコストや意思決定、理念について
参加者同士での結びつきが非常に強いです。WECもグループCが
1回潰れたカテゴリーと言っていいでしょう。
F1は中途半端にまだ成功しているからその意識がありません。
 変な規則を続けるぐらいなら、いっそプライベーター全部消えて
消滅してしまったほうがいいんじゃないかと思います。
もちろん無能な現経営陣はサヨウナラです。
 妙な規則を考える時間があったら、話し合いの時間を増やして引き出しを
増やしたほうがよほど建設的だと思うのですが。