2015年のNASCAR スプリント カップ シリーズは
カイル ブッシュ(Joe Gibbs Racing/Toyota)が初めてのチャンピオンを
獲得しました。トヨタにとっても初のカップ王者輩出となりました。
カイルはカップの開幕戦Daytona 500の前日に、Xfinity シリーズの開幕戦
Alert Today Florida 300でクラッシュして足を骨折。
カップ戦を開幕から11戦欠場しました。チェイス制度がなければ
チャンピオンには成り得ない立場で、「史上最も欠場したチャンピオン」
になりました。
彼は「チェイスに弱い」と言われており、チェイス ラウンドでの勝利は
2005年フェニックスでの1勝のみ。しかしこの年は非コンテンダーで、
コンテンダーとして臨んだチェイスでは1勝もしていませんでした。
しかし最終戦、昨年の王者ケビン ハービックの攻勢をしのいで『チェイス初優勝』で
チャンピオンを決めました。
カイルにとっては、怪我による欠場、そしてチェイスに出るためには
『1勝してなおかつポイント30位以内』を達成する必要がある難しいシーズンでしたが、
それはクルー チーフのアダム スティーブンスにとっても同じでした。
彼はカップでのCCは今年が初めて。それが担当するはずの相棒が怪我で
いなくなり、マット クラフトン、デービッド レーガン、エリック ジョーンズと、
3人のドライバーと仕事をすることになりました。
ただジョーンズは欠場中もカイルと連絡を取り合い、カイルの復帰にきちんと
備えていたそうです。カイルの復帰後、彼らのコンビネーションは非常に
良いように感じました。
カイル自身、怪我をして客観的にレースを見ていたせいか、今までの
ガンガン攻めてタイヤが無くなってそのうち落ちてくる、という走り方から
随分と大人になったようですが、スティーブンスの手綱さばきも非常に
良かったんだと思います。カイルは勝たないといけない、大量ポイントを
稼がないといけない、という一方でクラッシュでそうそうに消えることは
許されない立場。スティーブンスとしても、特にまず1勝した後は、
作戦的に攻めに入るか、守りに入るか迷いが出そうですが、彼は常に攻めの姿勢を
見せていました。
最終戦、王者ハービック相手の確か最後のピットだったと思いますが、
彼らは「さっきのアジャストでやり過ぎたから戻す」という選択をしました。
その前のランも決して遅いわけではなく、王者までもう片手が届いた状況で、
大きな重圧の中で、たとえ戻すとは言っても、替えることに対して迷いが生じても
不思議ではないわけですが、見事なコールで勝利を手繰り寄せました。
トヨタ自体もシーズン中盤から車がすごく良くなったように見えました。
エンジン面で序盤戦はシボレー(ヘンドリック エンジン)に劣っているような
感じでしたが、途中からそのハンデが無くなって常に対等かそれ以上に
戦えている印象を持ちました。
あんまり良すぎると出る杭は叩かれやしないか心配でしたが、見事に
チャンピオン獲得に貢献しました。
連覇こそならなかったハービックですが、その結果はチャンピオンに匹敵
するものであったとデータが証明しています。
彼は『ポイントの単純合算』であれば、ジョーイ ロガーノに22点差をつけて
チャンピオンでした。11戦欠場したカイルは20位です。
史上4位タイ、13回の2位を記録し28回のトップ10。2294周をリードしました。
これは彼が走った周回数の22%に相当します。ハービックの次にラップ リードが
多かったのはロガーノで1431周と大差が付いています。
ただ、チェイスのタラデガ戦での彼の行為はチャンピオンに相応しくないものでした。
彼は釈明していましたが、外から見ていると、トラブルを抱えた彼が
グリーン-ホワイト-チェッカーにおいて
「このままだと抜かれて次のラウンドに進めなくなるからわざと事故を起こして
コーションでレースを強制終了させた」としか見えませんでした。
わざと、といえばマット ケンゼスも故意にロガーノを撃墜して2戦出場停止。
NASCARにこういうシーンは付き物ではありますが、『わざと』ぶつけるにしても
それなりの『マナー』というものがあり、この時の彼は優勝を目指して
走っていたのに、接触でそれが叶わなくなったので故意接触でレースを荒らすことに
仕事を切り換えたようでした。これまた釈明していましたが、やるなら
自分のレースがダメになってでも、近寄ったタイミングでやらかすべきで、
自分がダメになってから、しかも数レース前の出来事の報復を、やるのはいささか
マナー違反です。これがまかり通るとえらいことになるので処分は当然です。
欠場王者とは対照的だったのは今年で引退するジェフ ゴードン。
彼は今年、リッキー ラッドが持つ連続出場記録788を上回り、最終的に
797戦連続出場まで記録を伸ばしました。1992年の最終戦でデビューして以来、
引退までの23シーズン、1度として欠場しませんでした。
まだまだ怪我が多い90年代からレースを続け、アメリカによくある
『婦人の出産に立ち会う』といった要素もありませんでした。
23シーズンということは例えば日本のプロ野球だと3000試合を遥かに超えます。
もちろんモータースポーツとその他の競技を同一視はできませんが、
あらゆる競技において23年間も試合に出続けることが出来る人がどれだけいるでしょうか?
なお、現役でゴードンの次に連続出場記録を持つのはジミー ジョンソンと
ライアン ニューマンの504。ゴードンを抜くにはまだ8年かかる計算です。