今年から本格的にSUPER GTに導入されたマザー シャシー(MC)。
3台の86と1台のエヴォーラが参戦し、前戦菅生ではVivaC 86 MCが初優勝。
規定最低重量1100kgの軽量車体は次戦のオートポリスでも
活躍が期待できそうです。

 彼らの話を聞いていると
「GT500の写真を見ながら形を研究して効果の有りそうなものを付けた」とか、
「これはホームセンターで買ってきた」とか、古き良き時代を
思わせるような手作り感もあふれていて、ファンとしては来年以降
もっと普及してほしいところ。現に優勝できるだけの素地があることが
示されたので、余計にそう思うところです。
 ただ、実際に広まるかというと、色々と壁が多いのが実情です。

 1つは費用の問題。オートスポーツ誌の記事を見ると、
どうやら素体の購入代金に最低限レースをするために諸々足すと、車両代金は
8500万円ほどになるとのこと。ここから開発費用が上積みされていくわけです。
ボディーをオリジナルにするならそれもさらにかかってきます。
 方やGT300の主力であるグループGT3車両は、販売価格に蓋がされているので
円安の現在でも、どこの車でもだいたい5000万円を超えるぐらい。
もちろんこれは車体価格で、そこから色々と+αの費用はいるんでしょうが、
整備するだけでいいことも考えればやはり大きな差があります。
 大メーカーが販売レース車として複数台生産されるGT3と、GT300専用に
童夢が事実上レース専用設計したMCが同じ値段とはいきません。
 現状では故障も非常に多いので、ある程度の技術力を有していないと、
そもそもレースにならず、走行距離がないので
「コスト パフォーマンスが計算不可」な可能性すらあります。

 ただ、MCは購入後開発を進めてどんどん速くできるのに対し、GT3は
買ったまま。アップデート、ないしは新車が出てそれを買うと、またお金が
必要なわけで、継続使用で進化できるMCにも利点はあります。
ただモノコックはだんだん劣化しますが^^;
 また、GT3車両は性能調整されているとはいえ、メーカーの力の
入れ具合やその年の性能調整池で「ハズレ」が生まれることも多く、
万一ハズレだと、どんな強豪チームであってもただただ遅い車に歯ぎしりを
するしかない部分があります。MCなら自分たちで努力ができます。
ただエンジンは全くいじれないからパワーは無いままですが^^;

 で、もう1つの問題が『権利』
 MCはどんなメーカーでもこの車台を使って自由に車を製作、参戦してくれ、
というのがコンセプトの1つなんですが、
「じゃあ俺、鬼のコーナリングR35作る~♪」とか勝手にできるかといえば
残念ながらそうではありません。
 市販車を買って自分たちで草レースしている分には個人が自らの所有する車で
遊んでいるにすぎないので問題ないんですが、MC用に何らかのメーカーの車を
ベース車として使おうとするとデザインや名称を使用する許可が必要となり、
これが結構壁なようです。
 ネット上だけの情報だけで確定的な情報源を見たわけではないのですが、
今の86型車体、トヨタは正式に認めてはいないそうです。
 日産にしろトヨタにしろ、MCと競合することになるGT3を自分たちで
手がけており、それ故自社の車の仕様には許可を出さない、とか。
 しかしながら主催するGTAとしてはMCをやるにあたり何かベースがいる、
となり、他社はお断りな感じだったので、トヨタが黙認するような形で86を使っている、
というような話です。
(ただ、これが『クロに近いグレー ゾーン』というような話なのか
トヨタという大企業が表向き認める訳にはいかない事情があるので
『公認に近いグレー』としているに過ぎないのかは分かりません)

 唯一違う車体で出てきているエヴォーラは、このチームのオーナー、
高橋 一穂がロータスの日本での正規輸入代理店・LCI Limitedの社長であるために
実現した、というちょっと特別な事情があります。
 ということは実際問題、MCを作るのはワークス系、ないしはそれに近い
組織でないと結構難しい、ということになってしまいます。

 未確定な情報に戻りますが、日産もGT-R ニスモ GT3があるので、
フェアレディZの権利は完全にロックしてしまっている、という話。
ZのMCがGT-Rとレースしてたらファンは絶対盛り上がると思うので、
単に見る側の理屈だけを言わせてもらうと「器が小さいな」と思います。
 せっかくMCというものができて、こんな高いし壊れるし直線がクソ遅い車でも
好んで使っているチームが現に4つもあり、きっと
「買ってくた車を整備するだけなんてつまらねえ」と思っているチーム・人は
他にもいると思います。
 それもそれなりに走れる素地のある車であることが既に証明された今、
少なくとも国内のメーカーはもっとオープンに対応することはできないでしょうか?

 確かに、エンジンが「GTAエンジン」という名の、実態は日産VK45DEで
あることは、特にホンダあたりからすると絶対に認めたくないところかも
しれませんし、自分たちのGT3より速く走られると困る、というのも
あると思います。
スバルなんて水平対向でなけりゃあ絶対作らないでしょう。

 個人的にはエンジンは、出来るかどうかは知りませんが、オリジナルも可、
但し性能はGTAエンジンに合わせる、という風にしたら良いと思います。

 BTCC(イギリス ツーリング カー 選手権)はMCと似たことをしており、
主催団体が簡単に言うと
『どんな車でも前後にこれをくっつけたらレース車になるよシャーシ キット』
みたいなのを開発して提供。安価にレース車を作ることが出来る上、エンジンも
選択は任意でありながら、主催団体が提供する『TOCAエンジン』
というのが存在し、他のエンジンもこれと同等以下の性能で動かす規則に
なっています。
 実際同じメーカーの車でも、チームによって自社製エンジンのところと
TOCAエンジンのところに分かれていることもあるそうで。
 GT300はBTCCと比べ物にならないぐらい改造範囲が広くて速いですが、
こういったやり方は大いに可能性を感じます。

 一方でかつて改造範囲の広さを活かした様々な車の開発を支援し、
シルビアやMR-Sなんかでポルシェやフェラーリをやっつけてファンを
楽しませていた人たちが、いざ自分たちの側になったら締め出す、というのは
やはり残念に思えてなりません。
 あの時海外メーカーの人たちがいちいち
「こんな不平等な規則で負けたらイメージに傷がつく」と怒っていたでしょうか?

 来年は『GT3新車ラッシュ』となっており、多くが来季のGT300に
投入される模様です。現状既にGT300の複数の強豪チームは海外メーカーから
ワークス格の待遇を受けたり、あるいはワークス格のチームと提携するなど
つながりが深まっており、彼らがMCに簡単に移行することはないので
今年の状態からさらに台数が増える、というのは難しいものがあるでしょう。
増えても全部86では『オイオイ(;一_一)』と思ってしまうのも正直なところ。
 放っておくとせっかくできたものもあっという間に消滅してしまうのでは、
と危惧しています。

 もうすっかり忘れ去られていそうですが、SUPER GT発足時、
『challenge to the world, challenge from the world』
世界への挑戦、世界からの挑戦、という言葉がありました。
 GT500はDTMとの規則統合で、体制としてはこの言葉に近づいた反面、
技術、という点では挑戦というより融合になってしまいました。
 GT300まで世界標準のみ、というのは味気ないものがあります。
私程度が知っている事情以外にもきっと様々な大人の事情とやらが
存在していることは分かりますが、それでも日本のレース界のため、
ひいてはSUPER GTというカテゴリー自体、自動車産業全体のために、
メーカーにはもっとMCに積極的に関わってほしいと思います。