ベッテルが勝ちすぎたかと思えばメルセデスが独走。醜いノーズ、静かすぎる音
(個人的には肯定派ですが)・・・人気低下だ、と騒いだお偉いさんたちは
2015年のF1の規則改定を決めました。
主なものが
・セーフティーカー(SC)明けのリスタートをローリングからスタンディングにする
・車の底面に付けるスキッドプランクをチタンにして火花を出して派手にする
・醜いノーズを何とかする
 
 ノーズは本当に何とかなるなら歓迎、火花は排気管にブブゼラを取り付けるのと
同じぐらいバカらしいですが、まあ実害がないので好きにしてもらえばいい、という
感じ。しかしリスタートだけは見逃せません。
私はこの案にいくつかの面から反対です。
 
 一応整理しておくと、SCは事故が発生した現場を処理するにあたり、
レーシングスピードで車が走っていると危ない、でもレースを完全に止めるほどでもない、
という時に、先導車が隊列を従えて隊列走行しながら事故処理の終了を待つ制度。
 追い越し禁止で隊列に並ぶ制度の性質上、築いたタイム差がなくなってしまい、
一般的に前を走る人にとってはそれだけで不利になる、ということと
平均速度が遅い+隊列走行中ですぐ追いつけるためにピット作業を行う絶好の
機会とされます。
 さらに、SCは導入時期とそのとき各車両がコースのどこにいるか、で有利不利が極端に
分かれるときがあり、レースに大きく影響します。
 2005年のカナダGPでは、トップを走るファン パブロ モントーヤが最終コーナーを
通過した後に最終コーナーで事故があり、モントーヤは即SCに前を抑えられ、後続の
ドライバーは全員ピットイン。自分だけタイヤ交換していないのにリードがゼロという
とんでもない不運がありました。キレたモントーヤは次の周にピットに入ると、
まだ隊列が通過中でピットロード出口の信号は赤なのに無視してコースイン。
さらに勝手に何台か抜いて2位でリスタートするという暴挙に出て失格となりました(^ ^;)
 JGTCでもGT300クラスの2位以下がいきなり事実上周回遅れになったり、
良し悪しは別にしてこの存在自体に1つのドラマがあります。これ、重要です。
 
1 公平性は?
 F1では現在SCが出動すると各ドライバーのモニターに「セーフティーカーデルタ」とか
中継では呼んでいる、「このタイムで走りなさい」という指定ラップタイムが表示されます。
これは、SCの後についた車がゆっくり走らされる一方、SCから遠く離れて、
事故現場でもない場所を走る車はレーシングスピードで隊列に追いつこうとして
意味がない上に不公平と考えられたからで、極力有利不利が出ないように
瞬時にコンピューターによって計算されている、はずです。
 その前は一旦ピットインを禁止するアメリカ式にしましたが、「たまたまその時に燃料が
切れたらどうしてくれるんだ」という話になり、今のハイテク制度になりました。
 つまり、この数年間、F1は必要以上に不確定要素になることを避けるように
制度を作ってきたはずです。もちろんこれはチーム、ドライバーの意見を踏まえたものでしょう。
 それがいきなり、「レースを面白くするためにもう1回スタンディングスタートをやって
順位をぐちゃぐちゃにしよう」となるのですから意味が分かりません。
 上に書きましたが、SCそのものが既に1つの不確定要素であり、タイミングしだいでは
大きく順位が変動します。タイヤ交換義務と相まって、思わぬ罠が待ち受けることもあります。
それだけで十分ではないでしょうか?
 
2 安全性は?
 スタンディングスタートということはまた停止状態からトラクションをかけて車を
動かすわけで、使い古しのタイヤがまた冷えたやつでスタート、そして
1コーナーへの進入、新品より遥かに難易度が上がります。
「プロなんだからやれよ」「だからこそ面白い」
「危険だというならなぜ最初はスタンディングなんだ」という発想かもしれませんが、
他人の事故でリードを失った上にミサイルでも食らったらもう何なんだ、という話です。
規則によると2周以内にスタート(あるいはリスタート)があった場合は次は
スタンディングはやらない、つまりエンドレスではないようですが、逆から言うと
リスタートでぶつけられた人、かわいそうすぎます。
 そもそも安全のためのSCなのに、それが事故を誘発するなんて本末転倒です。
 ドライバーからは安全面で反対意見が多いそうです。気に入らない規則に対して
ドライバー・チームはかなり過剰に反発するものですが、これは大いに同意します。
 ジェンソン バトンは
「確かにテレビ的にはいいアイデアだろうが、ピットインしなければならないなどの、
タイヤについての規則も定めるべきだ」(AUTO SPORTS webより引用)
とベテランらしく比較的現実的な受け止め方をしているようですが、
そうなるともう別のレースな気がします。そこまでしてスタンディングにする必要ありますか?
3 信頼性は?
 今年からのパワーユニットはターボエンジンが熱対策に苦労させられる上に、
エネルギー回生システムも膨大な量の運動エネルギー←→運動エネルギーの
変換を強いられ、熱の処理が大変です。
 SC中に適切に冷却できていれば良いですが、「道を車がふさいでたけどSC入ってくれたから
すぐどけれた」みたいなケースの場合、まだ熱がある状態でグリッドに停止させられます。
トップの車は風が当たらない状態で最後尾が隊列に付くのをじーーーっと
待つわけで、車にダメージを負う可能性もあります。
 そのあたりの対処は考えてあるのでしょうか?そこも含めて車の性能だ、と
言われてしっくりくる人、どのぐらいいるでしょうか?
 
 基本的にSCを利用してついでに順位をぐちゃぐちゃにしてやろうとするのに
無理があると私は思います。そんなに順位をいじりたいならアメリカンモータースポーツみたいに
ゴミ1つでフルコースコーションにしてやればいいのではないでしょうか?
これなら回数が多いからローリングでも面白くなります。
 でも恐らく彼らは「そんなのはアメリカ人だけの話でF1じゃない」と突っぱねるでしょう。
じゃあリスタートでカオスにするレースはF1なんでしょうか?
 
ニコ ロズベルグは
「スタートがファンにとって最も興奮する時間のひとつであることは理解している」
「でも行き過ぎだと思う。僕は、この50年行われてきたような純粋なレースが好きだ。
(レース中に)もう一度スタートするような大きな変更は全く望まない。変だよ。
『今のままでいるべきだ』というのが僕の正直な意見だ」(AUTO SPORTS webより引用)
と語ったそうです。
 
 この制度の下劇的なレース、劇的な勝者が出たとき、テレビの前の私は
素直に面白がって見ていることでしょう。しかしそのレースを
「いいレースだった」とは感じず、「*(アスタリスク)マーク」付きのレース、
として記憶に残るでしょう。
 ポイント2倍のときも同じことを言った気がしますが、今からでも間に合うので
変更を破棄すべきだと私は思います。
 
ドライバーコメントの引用元