【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】 ほりわり川から大海原へ | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】 ほりわり川から大海原へ

トンビ、そしてインヴァネスコートってご存じですか? 
着物にはおる男性用コートで、明治後半から大正昭和はじめに流行りました。
トンビは袖なしで、インヴァネスは袖があります。
スコットランドのインヴァネス地方で生まれたコートなのでこの名前だそうで、小説家の織田作之助がよく着ていました。

横浜の或る駅のホームにて、インヴァネスに貂(てん)の襟巻をした男の人が、眸を夢に輝かせて、まっしぐらに、かつかつ歩いてゆく幻をいくたびもみました。
大正時代の男の人の幻です。現代の人が夢もなさそうに俯いてホームをすすむなか、そのレトロマンはかつかつと、恰好よく闊歩しては過ぎ去り、また闊歩しては過ぎ去ってゆきました。

年も明け、そろそろ幻覚をみる状態にまで悪化したのかしら、ですって?
いえいえ、昨年亡くなった母が三つまで暮らした横浜の或る町へ散策にいってきたのです。
亡くなるまえの数か月間すやすやベッドで眠っている母をみていると、赤ちゃんのように可愛いなぁ、と思いました。
そして赤ちゃんのときに母が暮らした町へせめてわたしがいくと、母も喜んでくれるかもしれないと思い、旅だちました。
不思議なもので母からの聴きおぼえでしかないのに、町の光景はわたしの思い浮かべていたとおりでした。
小川が海へむかい流れていて、川のところどころに船が泊まっていて、そばには細い歩道があり、路地を曲がると小粋な民家群。
デジャブ―のような不思議な体験をしました。

 
インヴァネス・レトロマンは祖父の幻です。
ほりわり川から大海原を、夢で眸を輝かせ望んでいた祖父の、まぎれもない微笑みを感じました。
現実世界では、幼な子と散歩している若いお母さんたちといくたびもすれ違い、わたしはその後ろ姿を目で追いつつ… 


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