【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】渓流の里のガラス博士
吉田喜重監督の「秋津温泉」の舞台となった岡山県の奥津温泉へいってきました。
恋の物語にふさわしい、清らかで凛とした滝の音が響く、ステキな山郷でした。
近くにウランガラスの美術館がありました。
ウランガラスとは、ガラスにウランを混ぜて作った、黄色や緑色の色彩を放つガラスです。
製造されはじめたのは1830年代で、ウランが原子力に利用されるようになった1940年代までにヨーロッパ、アメリカで大量に工芸品が製造されたそうです。
現在はウランを扱うことがむずかしいために極少量が生産されているにすぎないそうですが、アンティークとして愛好家も多く、高値で取りひきされているそうです。
日光をうけると透明なガラスの奥から色彩を放ち、まるでガラスが生きているかのような、とても美しいガラスです。
訪れたときにはガレをはじめとした、19世紀から20世紀に至るヨーロッパ、アメリカのガラス美術展を開催していました。アールヌーボーの螺旋に、奥からの色彩の輝きがなんといえない美の世界をかもしだしていました。
ガラス博士のように詳しく丁寧にご解説くださった館長とおぼしきご高齢の紳士は、こよなくウランガラスを愛していらっしゃるご様子で、ひとつひとつの作品を愛でるごとくご解説いただき、たいへん勉強になりました。
「はい、一列に並んでください」
と、学校の先生のように几帳面な博士にいわれて、見しらぬ子どもづれの家族と先生の教えに従うように一列に並んでガレを鑑賞したのも、なんとも不思議な体験でしたが、心をこめて美の世界を創りだしてきた芸術家の作品を、心をこめて見てもらいたいという、熱い情熱をガラス博士から感じさせていただきました。
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