【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】花、咲かせて
女流日本画家、片岡球子氏の画集に、同氏の恩師からの忠告が記されていました。
「あなたはみなから、ゲテモノの絵を描くとずいぶんいわれています。今のあなたの絵はゲテモノに違いありません。しかしゲテモノと本物は紙一重の差です。あなたはそのゲテモノを捨ててはいけない。自分で自分の絵にゲロが出るほど描きつづけなさい。そのうちに、はっといやになってくる。いつか必ず自分の絵に、あきてしまうときが来ます。それまでに何年かかるかわかりませんが、あなたの絵を絶対に変えてはなりません。他人が何と言おうとも、そんなことに耳を傾けることはいりません」
片岡球子氏は、お若いころには賞にいくたびも挑戦され受賞されることが少なかった画家だそうです。
戦前は、「落選の神様」とまであだ名されたそうです。しかし後年は、歌舞伎、能、浮世絵師、富士山、史上人物と生涯描きつづけるモチーフを得られ、芸術賞や勲章をもらわれました。
ゲテモノといわれる土着的な作風は、北海道石狩で造り酒屋と材木商を営んでいた生家の環境から発しているそうです。戦前、日本画の世界は技術優位の価値観で優劣を定められ、戦後になり洋画化がとりいれられていくまで、時代にかかわりなく永らくご自分の絵を描きつづけられたひたむきな人生観に感動しました。恩師もまた、素晴らしい創作者と感動しました。
いわゆる日本画の女性像ではなく、リアリズムのなかに佇み、生きてゆこうとしている女性を描かれている球子氏初期の作品に、やさしく命を視つめる眼を感じました。
際立つ欠点と紙一重の個性的な輝きが、あなたのなかにあるのかもしれません。個性が摘まれては、花が枯れて、朽ちてしまいます。
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