【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】悪女ケート | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】悪女ケート

 長篇を描くときには、主要人物三代の履歴書を作らなければならないといいますが、履歴書作りに充分な時間をさいていますか? 先日、映画「エデンの東」の人物を原作から紐といてみました。旧約聖書の「カインとアベルの物語」に基づいた人物構成は、カイン型人物、アベル型人物と、理路整然と整理されています。そのためブレを起こしていないことが、とても勉強になりました。

 なかでもジェームス・ディーン演じる次男が逢いにいった、いかがわしい居酒屋の実母ケートが、わたしは秀逸に感じます。なぜならケートはその時代でこそうまく立ち回れなかった悪の権化ですが、現代なら女性のだれしもが求める自由の権化であるからです。ケートは映画では少ししか登場しませんが、原作では思いきりハラハラドキドキさせてくれます。この人がでてくるページはグイグイ読みすすむ、そんな小説ってありますね? 「風と共に去りぬ」のレッドも同じくです。シナリオも小説も人物の魅力と、人物構成への目論見が肝ですね。「エデンの東」では、何代にも及ぶ必然的キャラクターの他の人物群に対し、ケートは、「良心の欠けた怪物として生まれる」と非情に大胆な設定で、そのコントラストが物語をぐいぐいすすませます。15歳で教師を自殺に追いやり、16歳で家族を焼死させ、売春業の男のかこわれ者になった彼女が男からズタズタの傷を負って棄てられている処を、ジェームス・ディーンの父のアダムに救われ夫婦に。ところがうまくいくはずもなく子どもたちをさっさと棄ててまたしても居酒屋へ。このケートの悪女像には評論家のあいだでも賛否両論あるようですが、わたしは断然、悪女ファンです。なりたくてもなれないものへの憧れと、同時に表裏一体の恐れが、フィクションの醍醐味だから。  

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