【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】秘密は歴史を作る
紅葉盛りの有馬温泉へむかい赤湯の熱を肌にさしこむようにうけて、パワーをもらいました。
有馬は日本三古湯のひとつ。赤い鼻緒の下駄を鳴らして滝川の小路をすすむと、夜露にしめったオゾンの香りに時代劇の登場人物のような気持ちになり、かけ流しの露店風呂に身を沈めると、地下深い岩盤の割れ目から湧きでる自然の威力に、新たな意欲を得て文化を創造してきた、歴史上の人たちの人生への挑戦に、畏敬の念を感じました。
大阪神戸から一時間もあれば赴ける有馬ですが、かもしだす空気に魅力を感じるのは秘密的な処です。
谷崎潤一郎も『細雪』『猫と庄造と二人のおんな』『春琴抄』等の小説に有馬を描いています。手塚治虫の『アドルフに告ぐ』に登場する有馬芸者、絹子は印象的です。
秘密めいたことが、坂のある温泉街の路地と湯けむりのなかですすめられてゆく… 歴史は秘密で作られる、そんなことを考えるとわくわくします。
同じように魅了されたのは、愛知県の蒲郡です。天守閣とレトロな仏蘭西料理レストランを併せもつホテルの迷路には隠れ部屋もあったと伺い、わくわくしました。
秘密にまみれた現実生活などはおくれませんが、物語には非現実性がたいせつです。
庶民凡人では遭遇し得ない秘密を追ってみたくて、わくわく興味が湧きでてきます。
この秘密性も時代とともにさま変わりしてしまったのが、物語を作る上では残念です。
とうてい互角になれない秘密や欲深さ、そのようなものが昔のフィクションでは底に蠢く動機であったのが、このところはスケールが小さく均等になり、さっぱり面白くありません。
人の欲望でドラマが作られるのに、欲がなければどう作ればいいのかといえば、結局、変わった現代人をスケッチするほかに方法はありません。でもそれは面白くないのです。
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