【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】越前ふたたび 虚の笑い 実の笑い | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】越前ふたたび 虚の笑い 実の笑い

 越前お能の里をふたたび訪れました。面打ちの先生と奥様は囲炉裏で、地もとのお餅のはいったお善哉をことこと炊いて迎えてくださいました。奥様も面打ち作家であられるとのこと。控えめな柔和さに、学ぶことしきりです。

 大自然のもとで創作とむきあっている方々に惹かれます。もうおひとりはながらくお世話になっている染め師の先生です。いずれの方も使命を全うされながら、きびしい自然と戦っていらっしゃる強い志をおもちと、尊敬いたします。

 わたしが尊敬する上方文学者、喜劇作家は井原西鶴です。西鶴は51歳で亡くなっています。大坂・難波に生れ、15歳頃から俳諧師を志し名をなし、34歳の時に妻を亡くし1000句の追善興行。40歳のときに『好色一代男』を出板して大ヒット。作家へ転進します。西鶴の作家人生は40歳から50歳の10年間。そこで面白い形跡なのですが、デビュー当時は「虚の笑い」で大ヒットしたものの、晩年は「実の笑い」を描き、あまり多くの人には受けいれられなかったそうです。「虚の笑い」とは今の言葉でいうならば、デフォルメ、カルカチャライズされた笑い、ということとでしょうね。「実の笑い」とはリアリティの角度から掘りさげられた笑いということでしょう。「実の笑い」の方が文学性としては上質なぶん瞬時の驚きはなく、大衆受けしなかったのだろうと思います。シナリオのジャンルのなかでも喜劇が一番むずかしいといいますが、笑いとは奥が深いものです。


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