【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】伊豆の踊子 脇のエスプリ
日本人の心に残るラブストーリーとは?
映画化がおおい作品ともいえます。
「伊豆の踊子」を主演、美空ひばり(33年・野村芳太郎監督)、吉永小百合(63年・西河克己監督)、山口百恵(74年・西河克己監督)を見比べました。
それぞれその時代の映画の位置づけや企画の特徴がわかり、とても面白かったです。
特に美空ひばり作品は野村監督で、社会派の視線に感動しました。
「伊豆の踊子」は野村監督が35歳の時の作品で、「砂の器」の20年前なのですが、社会派の才気を感じさせます。あと、田中絹代、鰐淵晴子、内藤洋子主演作があるそうです。
そしてあらためて原作がたいへん計算された小説であることを勉強しました。
短篇ほど計算が求められるという、まさしく教科書です。
冒頭で旅芸人と道を同じくする学生。
峠の茶屋につくと、お婆さんがいて、奥ではお爺さんが中風で寝こんでいます。
かたや生命力にみなぎる美しい踊子。生命への視線の対比を感じさせます。
学生がそう感じているのかどうかにはふれられず、小説の「話者の視線」として命と恋へのテーマへ導入します。心をとざしていた学生は一座の家庭的な温かさに触れ心をひらき、恋心を募らせます。そして人生の酸いも甘いもしりすぎた四十女の兄嫁の母。流産と早産で子どもを亡くした兄嫁。彼女たちと踊子との対比が、プロセスに効果をあげ、あどけない踊子の未来への危惧と同情に、ますます恋心をふくらませてゆきます。対比、対比、対比、対立と別れ…といった構成ですが、対比とは脇役ですね。
作者の人生観の滲みでる、本当に味わいのある脇役が、小説も映画も映えさせます。
脇に作者のエスプリを。
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