【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】雪つばきのぬくもり
二月のはじめ雪の舞う日に、京都文化博物カ館へ佐藤太清・生誕百年展を鑑賞してきました。
佐藤太清画伯は大正二年に福知山市に生まれ、おなかのなかにいるときに父上が亡くなり、誕生直後に母上も亡くなるという孤独な幼年時代をおくられました。
その後画家をめざして上京、修行をつまれ日展入選後、超人的な努力により大作を次々と発表された壮年期、花鳥風景画家としての道を進まれ、「一期一会の世界」を描かれた旅シリーズ、旅の終焉、晩年の作品へと。
日本画はもとより、そこには一人の人間の人生が描かれていました。
なんとやさしいつばきなのでしょう、と作品「雪つばき」のまえで永らくうごけなくなりました。
庭のつばきにつもったやわらかい雪と、それをついばむ愛らしい雀たち。
ご自身が庭へ訪れる雀にえさをあげて、いとおしんでいらしたそうです。
このやさしい眼で雪つばきを描かれたのが八十三歳のときで、日展出品の最後の作品になったそうです。
「花に想う」という文章が残されています。
いつもマッサージに家に来られていた全盲のご老人のことを書かれています。
「小学四年生の朝顔の咲くころにふとしたことで失明して、以来今でも心の眼にその当時のすがすがしい夏の朝の垣根に咲いていた朝顔が美しく残っているとはなしながら、今頃は美しいでしょうねと、遠い悲しい昔を追憶する様に虚空を見ていたことがある。
私もその話しを聞き、胸のつまる思いがして、この老人の心にある様な朝顔の花が描ける様になりたいと思っている」
勲章を授与された大家なのに、市井の人の思いを真摯に心にきざみ、こたえられるようにと、高齢になられても命をかけて創作されつづけた清らかさに胸をうたれました。
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