【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】オリーブの実の成る島 | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】オリーブの実の成る島

 秋晴れの日、瀬戸内の小豆島をおとずれました。この島で有名な方に「二十四の瞳」の原作者・壺井栄さんがいらっしゃいます。

 壺井栄さんは明治三十二年に小豆島で醤油樽職人をしていた父のもとに生まれました。十一歳のときに父の稼業が得意先の蔵元の経営不調により傾きました。小豆島は赤穂等の塩田に近く、醤油の産地として歴史がありますが、現在に至るまで、組合ができたり、醤油税がかかったりと、さまざまなできごとが余儀なく起こってきたそうです。その後、小学校と高等小学校を卒業し、苦労をかさね上京し、プロレタリア作家・壺井繁治氏と結婚され、作家として開花されています。

 わたしはこの作品から、本来の教師という聖職の清さを感じていました。木下恵介監督の映画では「仰げば尊し」の音楽が流れるのでなおさらです。今回は、おだやかな波とお日さまに癒されて、少し考えてみました。

「二十四の瞳」では女の子が売られたり、男の子が戦死したり、やむを得ず思うままに成長できなかった子どもたちが登場してきます。それは作者が稼業の影響でご苦労され、思うままにいかない人生を感じられ、その後、人の愛を考えられたので描かれたのではないかと思います。父をどのように小説で描かれているかというと、主人公・大石先生の父は三歳のときに亡くなっています。その設定にはご自身の家族への愛を感じます。作者の母上は十一人の子どもを生み、戦争も挟んで孤児を二人ひきとって育てられています。作者ご自身に子どもは生まれませんでしたが、兄弟の遺児を二人育てられています。父への愛と、子どもたちを育てられた母への尊敬が、あたたかい文学の根底にゆるぎなく据えられているように、オリーブの実が成る島で波風にうたれながら、思いました。



【文庫】二十四の瞳(角川文庫)

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