【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】海と人のお話  | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】海と人のお話 

 「別れのセリフ」のシナリオをたくさん読ませていただきました。別れの悲しみを描いた作品や、設定を練った作品等、セリフも含めてさまざまに工夫されていました。ただ別れる必然性を考えることはとてもむずかしいことなのだとつくづく…
 ちょうど民話について考えていたときなので、別れにはしかけが大切なのだと、ふと思いました。「鶴の恩返し」では、絶対に部屋のなかをのぞかないでください、という約束がしかけられ、「浦島太郎」では、玉手箱をあけてはいけないと乙姫様に約束させられて。タブーをしかけていなかったら、お話はおわりません。民話にもとづいた現代のドラマもよく読ませていただきますが、百年の夢も、覚めてしまうしかけがなければ、必然として不充分な別れしか描けません。でも、部屋をあけるなとか、箱をあけるな、と命令する側がたいてい女性であるところが面白いですね。あけるなと言われると、あけたくなるのがあたりまえであり、先にあけるなと言っておいたのだから、約束を破ってあけたあなたが悪いのですよ、とばかりに責任を前もっておさえているところが、よく考えるとやり手の女なので、日本のお話は怖いです。
 「浦島太郎」がマザコンのお話であるという説には納得がいき、とても面白かったです(「昔話と日本人の心)河合隼雄著)。同じ海と人のお話では、アンデルセンの「人魚姫」がありますが、浦島太郎が流されるばかりの受け身ダメ男であるのに対して、人魚姫はずいぶんポジティブで、困難を乗りこえ、ひたすら自から恋する王子様に接近していきます。悲恋であろうとハッピーエンドであろうと、西洋のお話の女性が意思を持って動いていっていることには感服。しかし禁忌を前もってしかけている日本の女性の方が、複雑であり、本当に怖い!
 日本の女性が儚げでしおらしげで、と思いこみたいあなた、危険ですよ!<鳩子>

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