【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】春彼岸
三月三日、雛祭りの日に叔母が亡くなりました。享年八十四歳。夭折されたお嬢さん、ご主人をおくられたあとで、しばらく悠々自適で過ごされ、おひとり安らかに逝かれました。むかしお嬢さん、つまりわたしの従妹の葬儀にも参列しました。従妹は永い患いで自宅療養をしていたのですが、たくさんの友だちが葬儀に参列してくださっていました。病と闘いながらも友だちに愛された従妹に、尊敬の念を抱いたものでした。しかし叔母が背負った、親が子を送るという哀しみが参列者に伝わり、お気の毒に思えてしかたがありませんでした。そんなおり、お通夜での読経のあと、お坊さんがご詠歌をうたってくださいました。哀しい旋律でしたが、すうっと心がおりてゆくような、安らかな気持ちになりました。
人のこの世はながくして
かわらぬ春とおもいしに
無情の風はへだてなく
はかなき夢となりにけり (光明摂取御和讃)
ご詠歌にはさまざまなうたわれ方があるそうです。巡礼や法会でうたわれたご詠歌や、棺をお墓までおくる際にうたわれたご詠歌など。聴かせていただいたのはキリスト教でいう処のレクイエムのようなご詠歌です。そういえば、物心つくかつかないかのころ、田舎でのお葬式のあと、大人の男の人たちが土葬の棺をかつぎ、お墓へむかう際になにかをうたっていました。忘れがたい光景でした。きっとご詠歌だったのでしょう。
ベランダの彼岸花が春のお彼岸にも咲き、ようやく四月にはいり、冬枯れた薔薇や朝顔の蔓や枝葉を少し綺麗にしました。朝顔の種はぷくぷくはちきれ、今にも空へ飛びそう。きつく絡んだ蔓をほどいて摘みとり、五月にはまたあらたに種をまきます。夏の朝にはまっすぐ太陽に向かい、鮮やかな花を咲かせてくれることでしょう。自然の強さをならいたいものです。<鳩子>