【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】なにもしていない人 | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】なにもしていない人

 生徒さんたちはお昼のあとなのでうつらうつらと眠たそう。そこでわたしが「なにもしていない人ってほんとに、いないですね」というと、みんなむくむく頭をあげて、変なおばさん、とわたしを睨みました。電車やカフェの中で、なにもしていない人がいません。携帯、スマフォに釘づけ。指も大忙し。ちょっと、ちょっと、桜も、青空もみてください、流れる雲も… 草木やものがなにかをしようと思っていたなら、ものすごい数の目的が空気をゆきかい、息がつまりそうですね。人間だけの本能なのでしょう。フェイスブックには「今なにしてる?」とあり、なにもしていないのは、現代ではかなりの変人になってしまうのかしらと、不理解がむずむず。


 目的といえば、「将来、なにになりたいですか?」という問いに、小学生のわたしは隣の席のケイコちゃんから、「なに書いたらええかわからへん」と相談をうけました。ケイコちゃんはいつも鼻を垂らしていたのですが、とても可愛いので、「ファッションモデルにしといたらええやん」と答えて、そのままケイコちゃんは書きました。わたしはなににしようかと考えて、「残りもので美味しい料理が作れるお手伝いさん」と書きました。ちょっと変わった子どもだったようですが、きっとそのころ、残りもので料理を作ると、母に、美味しいね、上手やね、と誉めてもらっていたからだと思います。母は安くついて喜んでいただけでしょうね。


 なにもしていない人が、薄墨の雲につつまれた山里に棲む仙人のお爺さんに限らず、むかし、夏の夕暮れどきの軒先で、なにもしないで団扇で暑さを凌いでいる、クレープのシュミーズ姿のお婆ちゃんをよくみかけました。なにもしていないのが一番かっこよくてサマになっている人といえば、なんといっても笠智衆です。笠智衆がジムで筋トレしていたら幻滅。小津安二郎が外国で評価されるのも、なにもしていない人を視つめる視線なのかもしれません。夜のとばりに秋の音が…<鳩子>

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