【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】 愛のある光景 | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】 愛のある光景

 ここ数年、四月から七月にかけて京都の大学へ通っています。朝はいつもより早起きします。せっかく大学生と一緒にときを過ごすのだから青春の心を取り戻そうと、我が家のささやかな書棚から遠藤周作の「恋することと愛すること」という文庫本を取りだして、電車のなかで読んでいます。朝日が差す車窓からは桜の色どりも移り変わり、青春の書物にときめく時間は、早起きの辛さも忘れさせてくれます。
思い出せば大学生のころ、恋と愛はどうちがうのかと、友だちと夜更けまで語りあったりしました。夜更けの談義にはインスタント珈琲だけで充分でした。青いということを、遠くにしてしまったら、ものは書けないような気持ちがします。澄んだ青さよ、永遠に…


 恋すること、つまり異性に対して情熱を持つこと、これは「愛する」こととはちがいます。なぜなら、恋をすることは、その機会や運命さえあれば誰でもできることだからです。(中略)愛することとは決意と意志と忍耐とからはじまるのです。だから、それは「恋する」ことのようにやさしいものではない。貴方もA嬢もB嬢もC嬢も、誰でもが機会と運命とさえに恵まれれば、できるというものではない。愛することは、貴方だけの決意と、貴方だけの意志と、貴方だけの努力によって少しずつ創られていくものなのです。(遠藤周作「恋することと愛すること」)


 恋をしているときは人生の輝けるひととき。でも、その恋も客観的に視つめると、誰にでもできることなのですね。単に機会に恵まれただけのこと… などと考えつつ、愛のある光景は見逃さないようにと思っていますと、京都の町を行く揺れるバスのなかで、足の不自由なお婆ちゃんを、出口までずっと支えられるご婦人の姿に、胸が熱くなりました。<鳩子>


恋することと愛すること (新風舎文庫)/遠藤 周作
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