【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】花束
五月、厳しかった冬を越え、新緑はかがやき、力強く花は咲きます。センターへの路のりにある小さな民家の不揃いの鉢には、可愛い小花が生き生きと咲きほこっています。長屋に暮らすおじいちゃん、おばあちゃんたちが、たいせつに育てられている小花です。
道すがら高架があり、そのしたには頻繁に車のゆきかう窪んだ道路があるのですが、ここ数年絶やさずずっと、高架をすぎた角に、花束が置かれていました。おそらくそこで事故に遭われた方のご遺族が、手向けていらっしゃったのだろうと思います。ところが昨年の夏、そこへ役所の下請けの人たちがきて、冠水警報機をとりつける工事をしました。その際に絶やさず手向けられていた花束は邪魔になったのか、同時にすぐ傍に作られた鍵つきの金柵の中へ、放り投げるように捨てられていました。
よこをとおると、猛暑のなか、朽ち果ててゆく花束がずっと視界に映りました。なぜもっと別の方法で、花束をそっとのけてあげることができなかったのでしょう。
震災後、「今できることは…」と連日テレビで問いかけていますが、現実は、「いつもしてはいけないこと」が忘れられているのではないかと、その花束を思うと哀しくなります。工事をした人には、おそらく花束ひとつの処理のために、仕事がのろいと叱咤される事情があったのかもしれませんが、そのことはひいては、仕事でへまをしないため、仕事を請けあえるため、スピーディな業務遂行のため、お金を儲けるため、それらのためなら、他のことは見捨てなければならないことに繋がります。そうならば、常日ごろ暮らしてゆくことは哀しみに満ちています。
テレビでは「被災地にも桜が咲きました」と、満面の笑顔でミニスカートの気象予報士が報道していました。被災地の今年の桜を、深い哀しみに満ちて視つめる人もいるのに…。<鳩子>
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