読みかえして
先日は市川崑監督が亡くなられました。みなさんも心に残る映画がおありでしょうね?
「木枯らし紋次郎」のかっこいい男の翳り。「犬神家の一族」のおどろおどろしさ。「細雪」の豪華絢爛な桜のシーン。「四七人の刺客」の健さんの鋭い視線。たくさんの名シーンが蘇ります。映画監督の仕事というのはシーンを観客の人生に影響させてゆく、ものすごい仕事なのだとあらためて… 人は映画の名シーンとともに墓場まで登場人物と共有した人生観や浪漫を抱いてゆくのでしょうね。
わたしが市川監督の作品で一番好きな映画は「おはん」です。とくにラストの無人駅での吉永小百合の不思議な笑顔が好きです。原作ではどのように描かれているのかと原作を読みかえすのですが、笑顔について描写はありません。それなのに鮮烈に刻みこまれたあのラストの素晴らしさにつくづく… ひとつの映画をどのようにとらえるかは観る人によってまちまちなのでしょうし、またわたしひとりにしても同じ映画を数回観ても、観るときの状況によってとらえ方がことなります。作品から投げかけられた問いへの応えは、そのときどきの明日からの人生に反映してゆくものですね。
先日、ある方からお話を伺っていて、いいお話を伺ったと心にのこりました。その方の知人のお母さまはご高齢になられ、昔はあちこちへと出かけていらしたのがそれも思うに侭ならなくなられ、家に篭ることばかり。そのときにその方がなさったこととは、昔読まれた本を何度も読みかえされることだったそうです。
現代は情報過多で書物も溢れています。あれもこれも読まなくちゃ、と窒息しそうです。
そんな時代に、好きな本をじっくり丹念に読みかえして、自分の人生の来し方を視つめるときとは、本当に至福のときのようです。
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