大阪のおばあちゃん
先日テレビを見ていると、浅草でお好み焼き屋さんをやっていたおばあちゃんのことが。
ソースがたっぷりのった、大きな大きな、具もはみだしているお好み焼き。「風流お好み焼き 染太郎」というお店の崎本はるさんという方です。東京でお好み焼き? と不思議に思うと、大阪上本町出身の方でした。東京で生きぬかれた大阪のおばあちゃんのことを知りたくて調べてみました。
漫才師であった夫を戦争にとられ、昭和十二年、四十二歳のとき、浅草の家の一階で元手のかからないお好み焼き屋を開業。染太郎は夫の芸名で、店の安普請も風情として味わってもらおうと、開店後の常連客であった作家の高見順氏が屋号を命名。高見氏の小説「如何なる星の下に」にこの店はしばしば登場しています。
昼は仕事のない芸人やレビューガール、夜は演出家、踊り子、仕事帰りの芸人、文士たちが、「おばちゃん、元気!」の挨拶とともに訪れては我が家のようにくつろぎ、はるさんは有名無名問わずどんなお客さんも、わけへだててなく温かくもてなされたそうです。
お客さんの送別会やお祝い会のときには、はるさんは、「わたしにもお祝いさせて」と、当時は手に入らない豪華な食材の料理をだして、お金はとられません。はるさんのわけへだてのない愛情は人間に限らずそそがれて、二階の空き室は多いときで二十匹もの野良猫たちの棲家と化しました。
八十歳もすぎた晩年、店の思い出をぜひ本にとの依頼があり、そのときはるさんは、「本を書くとしたなら、お客さんを選んで書くことになってしまう。お客さんは一人残らず大事だから選べない」と断られたそうです。お好み焼きの気取らない満腹感。飾らない店と人柄とお客さんへの感謝の気持ち。ステキな大阪のおばあちゃんです。
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