【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】サンフランシスコのおばあさん | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】サンフランシスコのおばあさん

 戦前戦後の雑誌、「ひまわり」「それいゆ」で有名な美人画家・中原淳一展を観た翌日、淳一の世界に魅せられた私は、紫のひまわりの髪飾りをつけて、電車の中で淳一の絵本を読んでいました。人から見ると危ないオバサン出没の光景です。そんなことは気にもせず、淳一の浪漫に魅せられた私は、そのまんまの姿になっていました。


すると前の席のおばあさんが、私をにこにこ眺めていました。少し目があい、私も少し微笑み返しました。やがて梅田へ。下車して数歩進むと、彼女は私に走り寄り、差し伸べられた握手の手を大きく上下に振られて、

 「あなたは夢でいっぱいね」

 と仰ってくださいました。戸惑いつつお礼を述べてその場を別れましたが、ムービングウォークのあたりで再び彼女は私を追って来られ、

 「私はサンフランシスコに一人で住んでいます。歯の治療の為に帰国しているのですが、日本の女の人はアメリカ人に較べて、みんな夢のない顔をしているのが、とても悲しかったの。あなたみたいに夢のある女の人が増えてほしいの」

 と、仰ってくださいました。私はたまたま淳一ワールドに魅せられていただけだったのですが、その言葉がとても嬉しかったのです。哀しい日には、電車の中で涙がとまらないこともある私です。泣き女のオバサンになり、過ぎ行く景色を眺めつつ、流れる涙を拭えない夜もありました。でも、こんなに励まされたことはありません。私もおばあさんになったら、見知らぬ人でも次の世代の女性に、励ましの言葉をかけてあげられる人になりたいと思いました。

私が夢子さんでいられたのが淳一のせいだけでないとしたら、それは、みなさんの夢のお裾分けをいただいているおかげです。昔のご近所づきあいで、たくさん作ったお惣菜をおすそ分けしたように、夢一杯の人は夢がげんなりしているお隣さんに、時には気前良く夢を分けましょう。<鳩子>

 
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