【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】悪い男
小池真理子さんの「レモン・インセスト」を読みました。
- レモン・インセスト (光文社文庫)/小池 真理子
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近親相姦のお話です。さまざまな男が出てきます。ヒロインは喫茶店のアルバイト。と云っても、店のオーナーの愛人。相当額のお手当てをもらって、ぶらぶらアンニュイな愛人生活を送っています。もともとその関係は、ヒロインにとって恋ではなかったのですが。そんなとき、弟と再会します。生まれてすぐに誘拐された弟が、美しい青年になって目の前に現れたのです。喫茶店のオーナーは、露骨に体だけを求めるような、悪い男ではないけれど、嫌な男になってゆき、弟との禁断のプラトニックラブに堕ちていくヒロインから、ぼろぼろの状態で捨てられます。オーナーが嫌な男になってゆくプロセスでのヒロインの心の流れが、女性に共感を得ると思いました。又、勧善懲悪の悪人ではない、嫌な男を視つめるヒロインの視線が伝わります。どの程度のところから始まった嫌さ加減なら、とことん嫌な男になりはてるのか…その移り具合にリアリティも感じました。一方、弟は一貫して理想の美青年として表現されています。決して結ばれてはいけない、愛する相手だからこそ、人間を超越した理想に成りえます。そして、弟との恋は、苦しまされる男になることを拒むかのように、突然のエンディングで物語は終わります。
この小説が映画化されたなら、嫌な男のオーナーを演じる役者の方が演じ甲斐がありますね。美しい弟は、いまどきの美をあてがうと、それで用を足しそうです。だからこそシナリオライターは嫌な男を描けなければいけません。
苦悩と恋が紙一重のような、嫌な男、悪い男を、脇役でなく描けたなら、と思います。森雅之が演じた、「浮雲」の男。悪くて、嫌な男で、それでも愛さずには生きていけない男としては、わたしにとっては最高峰です。<鳩子>
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