【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】ピアノのような雲
以前、構成が得意な方に描写性もと願われ、倉田先生が、
「ピアノのような雲…と云う発想を」
とポエムの一節からヒントを与えられたことを思い出しました。きっとグランドピアノの形みたいな雲のことでしょう。モーツワルトのエチュードが聴こえてきそうです。とてもいいことのあった日、恋をした日かもしれません。見あげた水色の空に、ぷっかりと浮かんでいた雲のことなんでしょう。
脚本家の依田義賢氏は、
「私はシナリオを書いて行き詰まると、心の中のその部屋へ逃げ込むんです。純情で、子供のような、そんな詩の部屋を持っているつもりなんです。そこへ逃げ込んで、じっとしてる。そして純な気持ちというんでしょうか。そういうものにひたって、もういいなと思うと出ていく。そういう制作態度をずっと続けてきてるんです」
(「スクリーンに夢を託して」・なにわ塾叢書 より)
と語っていらっしゃいます。
人形作家のおばあさまが創作するときの秘訣を語っておられました。
「歌うように作るんですよ」と…。
子守りしている姉やさんの人形。その人形の揺するように斜めに構えたS字型の腰の線や、薄く閉じられたやさしい目蓋からは、本当に稚児を愛しむ子守唄が聴こえてくるようでした。
いくらコンピューターが進歩しても、詩は人間にしか作れません。
人間にしか描けない心をシナリオに託しましょう。<鳩子>