ドラマティック・ソング | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

ドラマティック・ソング

ドラマティック・ソングとして思いうかぶのは「喝采」でしょうか? 恋人の死を知り喝采を浴びている彼女のこれからの人生は? 哀しみを乗りこえ、素晴らしい歌い手として人に愛を伝えてゆくのでしょうか? 孤独とともに…

 クミコのシャンソン、「わが麗しき恋物語」より。町でも噂のちょっとした不良で、わりかし美人の部類だったから、ちやほやされていた19歳のあたし。こちこちになって、ふるえさえして好きといってくれたあなた…人生って奇妙で素敵って、少しだけ泣いた。五年が経ち、あなたの浮気が七回目。あたしの浮気は三回目。視線もそらし会話も減って人生ってそんなもの、でも退屈と思い… 半年後、あなたのくちびるから、聞いたこともない病気の名前。いなくなるの、あなた。白い煙が昇った日、空はどこまでも晴れて、あたしは自分でも疑うくらい、大声で泣いた。人生ってなんて愚かなものなの、みんなあとで気づく…

ドラマティック・ソングの「ドラマ」とは? ふたつの歌の共通点は、物語性、死と人生観。では、シナリオでは、死を出せばドラマティックかと云うと、そうではなくて、失うことへの洞察力だと思います。なぜ失ったのか? そして失うまでもなく、自分と、自分の愛する人が、この世に今、在ることをなぜ視つめられないのか? この、「なぜ」を探すことがドラマの発想源だと思います。愛する人への想いを断ち切った。でも、どうしても、ふたたび彼女の元へ駆けずにはいられない…と云う流れは恋愛映画の醍醐味です。映画「ひまわり」で、男が一旦、別れを決意した女をふたたび訪れるシーン…。今はもう昔に戻れないことを二人は識ります。そして、市井の男女の愛が崩壊したことを通して、反戦のテーマが、胸に刻みこまれます。この胸に刻みこまれる深さの度合いが、「なぜ」への洞察ではないでしょうか?


クミコ・ベスト わが麗しき恋物語/クミコ
¥2,832
Amazon.co.jp