今しかない
学生の頃、友人と友情や恋愛について青い考えを交わしながら迎えた夜明け。時間は永遠にあると思っていました。誰でも経験があるのではないかしら? それが、徐々に時が永遠ではないことに気づきはじめ、身近な人の死によって、終わりがあることと、生きることの意味を直視します。「今」についての感覚は人生とともにうつりかわってゆきます。
シナリオに切り取られた「今」、その「今」にドラマ性が薄く、過去や未来にドラマ性がたくさんあることがあります。昔は葛藤があった、昔は苦労した…もしくは、よくゼミで出てくる意見ですが、「これからドラマが始まる、と云うところで終わったよう」…そんな切り取り方です。いくら上手く描かれていても、これはドラマとしては迫ってきません。「今」を描き込むのには、作者自身が「今しかない」という気持ちで、主人公と向き合う情熱を持つことがたいせつだと思います。
「明日があるさ」というリメイクソングが流行りました。不景気にふさわしい、気持ちを楽にしてくれる応援歌ですが、危ういのはライト感覚に染まりきった現代人ゆえの流行のように感じることです。本来「明日があるさ」と云った励ましは、「今しかない」と生きてきた人にのみ効を成すと思うのですが、「このあたりでもういいや、また気がむけば」と過ごしてきた人にとっては、同じ「明日」も違うはず。表面的には緊迫感もなく、溢れる物質に慣れきった現代人は、どのようにこの励ましをとらえればいいのでしょう? 一方では、リストラ、失業と、ライトでは済まされない歪みがあるのも現実です。
さてそこで、どのように「今」を描くべきか?