【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】盛り下がり | シナリオ・センター大阪校 鳩子の日記

【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】盛り下がり

 「盛り上がりに欠けている」とはゼミでよく出る意見です。「盛り上がってますねぇ」とは宴会に遅れてやってきた人のセリフ。


 この「盛り上がり」に反して、盛り下がりの時間を摂ってみました。一人で六甲ライナーに乗って六甲アイランドへ。視界に広がる海と山。盛り下がりにふさわしくない秋晴れの日でした。客気のない家具屋や骨董品店を散策。ジャズバーでビールだけを頼みました。盛り上がりの日なら食べたくないメニューを注文するのですが、盛り下がりデーには本当に自分の欲しているものをじっくり考えます。帰途、住吉から御影まで散歩。「世の中にはこんなお金持ちもいるんだなぁ」とゴージャスなガーデニングに又しても盛り下がりつつ、心中はすっかり過去と現在とアイデンティティーを反芻、瞑想した、有意義な一日でした。


 山田太一さんが公演録の中で、「どうも最近この国では、仲間をたくさん持っていることが素晴らしいことだととる風潮がある。けれど、孤独と向き合うことは大切。必ず何かが見えてくる」とおっしゃっていました。退職されて人間的な厚みを増された方がいらっしゃいます。きっと何かを視つめられたのでしょう。多忙極まる現役時代が可能性を含めた涼やかで鋭利なカットグラスの煌きなら、退職後は、その奥深くに息吹く結晶群がその人の体温を伴い放つ鉱石の輝きです。 


 勿論シナリオではクライマックスへの計算は大事です。ただそれを表面的に描いていると、人の心には届きません。日頃からほんのひと時でも、視つめ、咀嚼する時間を摂るか否かが分岐点だと思います。そしてじっくりと、作者と観客と時代が何を本当に欲しているのかを吟味してみてください。<鳩子>