お客さまに恋を
料理学校の講師の方に伺ったお話です。いつも次のことを教えていらっしゃるとのこと。
「好きであること。人を喜ばせたいこと。この二つが料理家の条件」
シナリオではどうでしょう?
もちろん好きでないと続きません。きっとみなさんは大好きなのだと思います。でも、「人を喜ばせたいこと」が、シナリオに当て嵌め、なおかつ実践できることの、なんと困難さ!
人って? そう、お客さまです。
そのお客さまが、目の前にいないので、想像しにくいのです。なにも無理にお客さまを不愉快にしたい訳がありません。
例えば、和菓子屋の職人として修行中の身であるとします。すると作業場の暖簾の隙からでも、たまにはお客さまの姿を垣間見ることができます。それが私たちはお客さまを実感できないので、分かっちゃいても、つい自分を喜ばせてあげるシナリオに走ってしまうのです。
どうすればいいか、さまざまな考え方があると思います。よくコンクール作品を描くときのスタンスとして、「たった一人の人のために描く」という方法があげられます。これはステキです。「~に捧ぐ」と巻頭にあげられている小説もありますね。誰か一人、実在の人に捧げて描いてみてはどうでしょう?
それから身近な人で、お客さまとしてのモニターを持つこともお勧めです。その場合はシナリオに詳しくない人で、ズケズケ本音の語り合える関係の人がいいと思います。
シナリオの目的は映像化されなければ達成されません。その夢に向かってひたすら進む私たちの道のりは、遠く険しく、でもステキで喜びに充ちた道のりです。姿の見えないお客さまに恋をしましょう。