「父ちゃんは1度でいいからスポーツカーに乗りたいの!」から私のハチロク(トヨタ「86」)生活は始まった。
ハチロク以前、私は3代目「プリウス」に乗っていた。
優れた省燃費と静粛性、機動力も十分確保されていて、都内での通勤をメインにする私にとってはベストマッチなクルマだった。
だが、心のどこかに「1度でいいからスポーツカー」という気持ちがあった。
そしてプリウスから乗り替えたのがトヨタのハチロクだった訳だ。
赤いスポーツカー。
派手だったし、スポーツカーは想像以上にスポーツだった。
もちろんさらに本格的なスポーツカーは、もっとスポーツなのだろう(謎の表現だが)。
だが、私にとってはオートマの赤いハチロクが、世界最高のスポーツカーだった。
トランクが狭くてパソコンのフルタワー本体ケースを箱ごと入れるのが難しくても、後席が狭くて実質2人乗りであっても、ハチロクに乗るのは楽しかった。
そんなハチロクを降りることになった。
もちろんクルマ自体を降りる訳ではなく、ハチロクから別の車種に乗り替えるということだ。
ハチロクは私にとって大変思い出深いクルマなので、当初は2台持ちということも考えた。
しかしコスト面、維持管理の手間、そして何より乗る機会が減ることを考えると2台持ちは難しいという結論に。
最終的にはハチロクを下取りに出して、新しいクルマを導入することとした。
ハチロクとは3年半の付き合いである。
思えばハチロクだったからこそ、さまざまな新しい体験ができた。
そんなハチロクともお別れすることになったので、最後に少しだけそんな新しい体験をまとめてみた。
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その1:「父ちゃんは1度でいいからスポーツカーに乗りたいの!」
■ おっさん、サーキットへ行く!
ハチロク体験というか、スポーツカー体験で1番衝撃的だったのはやはりサーキット走行だろう。
右も左も分からないおっさんがライセンスを取得し、愛車ハチロクを駆って富士スピードウェイを周回したのである。
事の顛末はこうだ。
ある日、Car Watchから「サーキットへ行ってハチロクを走らせましょう」という電話がかかってくる。
私としては「あ、体験走行とかサーキット入門の取材だろうな」などと思うのだが、Car Watchからの電話には基本的に裏がある。
そう、サーキットを走る前提として「スポーツドライブロガー」をハチロクに取りつけなさいというのだ。
このスポーツドライブロガー、サーキットを走行したデータをUSBメモリに記録し、その状況をソニーのPS3で動作する「グランツーリスモ6」上で再現できるというのである。
そしてこの機能に対応するサーキットの1つが富士スピードウェイということなのだ。
要するに「スポーツドライブロガーをハチロクに搭載し、ガチで富士スピードウェイを周回して、その結果をPS3上で再現せよ」という話なのである。
そうまで言うなら了解した!不肖・高橋、真紅のレーシングスーツに身を包み、赤いハチロクを3倍速で走らせてやろうじゃないか!はい、もちろん3倍速なんて夢のまた夢でした。
ほかのドライバーに迷惑をかけないよう必死に走っただけで終わりました……というか、やっぱりスゴい体験だった。
ストレートはアクセルベタ踏み、180km/hがしばらくの間続くのだ。
そしてフル減速して第1コーナーに突っ込む。
感動したとか気持ちよかったとか、爽快だったとかそんなことを言うつもりはまったくない。
ただただ唖然茫然とする中、全てが進んだというのが正直なところ。
この回ではCar Watchでもお馴染みの“ハッシー”こと橋本洋平さんが合流して、あれこれ教えてくれた。
「GAZOO Racing 86/BRZ Race」でプライベートながら大活躍しているハッシーがいればもう鬼に金棒、このままハッシーに走ってもらって私はデータだけ頂こうとかも思ったぐらいだ。
だが、自分のハチロクでサーキットを生まれて初めて走った。
唖然茫然としただけではあったが、最後には「もう1度」と思える貴重な体験だった。
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その13:「スポーツドライブロガー取り付け、プラス・ワン!」
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その14:「富士スピードウェイへの道、前編」
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その16:「富士スピードウェイへの道、後編」
■ おっさん、十勝へ行く!
数多いハチロクがらみの体験で、何が1番記憶に残っているかと問われれば、やはり「86S HACHI-ROCKS J005 TOKACHI」と答えるだろう。
ハチロクッス、ハチロクを愛する人々が集うファンミーティング。
そのオフィシャル5回目(日本国内)が、十勝スピードウェイで開催されたのだ。
それもハチロクッスとして初となる1泊2日の開催で、十勝スピードウェイを貸し切って開催するというのだ。
例によって例のごとく、Car Watchから電話が来る。
「86S TOKACHIに参加しませんか?」と。
驚いたのは「自分のハチロクに乗っていってください」ということ。
東京 杉並から北海道 帯広にある十勝スピードウェイまで「自走」という話だったのだ。
その距離は1000kmを超える訳だが、ハチロクは海の上を走れないのでフェリーを使うことになる。
それでも相当な距離をハチロクで走り抜くことになる。
ある意味チャレンジであり、ハチロックス自体にも興味があったので十勝行きはスムーズに決まった。
クルマ好きのカメラマン氏が同乗してくれたため、運転を交代してもらうこともできた。
そして2014年9月19日、私の赤いハチロクは十勝スピードウェイにいた。
赤いハチロクは東京都内にあってもかなり目立つ存在なのだが、その日は目立つどころか地味な存在だったかも知れない。
なぜなら当日、十勝スピードウェイはハチロクまみれ。
ノーマル、カスタム合わせて100台以上のハチロクが集結していたからだ。
しかも集まったのはハチロク好きか、クルマ好きでハチロクに興味のある人々のみ。
これで盛り上がらないはずがない!
主催者側のホスピタリティも万全、ハチロクを使った、あるいはハチロクに関連したプログラムを存分に楽しむことができた。
ハチロク好き、クルマ好きという共通する思いを持った人々の集まりなので話も弾む。
私もそんな参加者の幾人かと、今でもSNSを通じて交流がある。
ハチロクでのロングドライブも初なら、クルマでフェリーに乗り込むのも初、ファンミーティングのような催しに参加するのも初。
初めて尽くしの貴重な体験だったし、クルマという枠を超えて「86S TOKACHI」は私の人生の中においても貴重な思い出となった。
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その17:「そうだ、十勝へ行こう86S HACHI-ROCKS J005 TOKACHI」
■ またいつか、スポーツカー
私のハチロクは新車購入だったため、初回の車検は3年目にやってきた。
それが2015年の5月、そこから年末まで乗り続けたので、3年半ハチロクと共に過ごしたことになる。
最後の最後にオドメーターをチェックしたところ、走行距離は1万7816km。
私の場合、1年で約1万km走るのでこの数字は決して多くない。
といっても、我が家にはハチロク以外にポニョ嫁の「ポルテ」があるので、2台の走行距離をプラスすると3万kmを遥かに超える。
要するにハチロクでよく走ったということなのだ。
ちなみに車検の時、1つだけ面白いことが起こった。
というか書類を添付しなかった私のミスなのだが、サイバーナビのHUD(ヘッドアップディスプレイ)が車検の基準に適合するかどうかが問題になったのだ。
これがもう恥ずかしい話で、実はサイバーナビのHUDには「技術基準適合確認書」という書類が付属している。
HUDはクルマに装備されているサンバイザーと入れ替えで取りつけられるため、確かに車検に対応しているかどうかが気になるところ。
だからこそ「技術基準適合確認書」があり、ちゃんとそこには「本書を自動車検査証といっしょに大切に保管してください」と書いてるのだ。
それを私が入れ忘れたために発生したトラブルだった。
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その4:ヘッドアップディスプレイ、取り付け完了!
3年半、1万7816km走ったハチロクだが、大きなトラブルはゼロ。
最後の最後、2015年の年末にテールランプに雨水が入る可能性があるということで無償交換が行なわれた。
そのほかのトラブルと言えば、ほんの数回、メーターパネルの点検ランプが点灯したぐらいだ(すぐに消えたので誤動作と思われる)。
トラブルが無ければ修理も無い。
2度ほど私のミスで出来た塗装の傷を修理したぐらいなものだ。
実質上ノントラブルで、本当によく走ってくれた。
生まれて初めて選んだスポーツカーがハチロクでよかったと思うし、繰り返しになるがハチロクに乗ったからこそ得られた新しい体験が山のようにある。
サーキット走行もそうだし、ファンミーティングもそう、ハチロクと出会わなければ恐らく一生体験できなかったことだと思っている。
なので心からハチロクには「ありがとう」と言いたい。
ちなみにハチロクを選んだ際、私はポニョ嫁に「1度でいいからスポーツカーに乗りたい」と言った。
もちろんこれに嘘は無い。
だが「1度でいいから」は決して「2度目」を否定するものではない。
機会があれば2度、3度と「いい」思いをしたいものである。
機会があって今回、私はハチロクというスポーツカーを別のクルマに乗り替える。
しかし、もしまた別の機会があればハチロクに戻ってもいいし、ハチロクの兄弟に乗り換えてもいい。
スポーツカーで楽しい思いをすると、それを忘れるのは難しい。
問題はポニョ嫁をどう説得するかだ。
幸いなことにポニョ嫁は過去を振り返らないというか、3歩歩くだけで結構いろいろなことを忘れてくれる(酉年生まれとの因果関係は不明)。
実はポニョ嫁も結構ハチロクのことは気に入っていたらしく、乗り替えるという話の後、2人でハチロクに乗ってドライブに出たりもしたのだ。
最後にポニョ嫁様が我が愛するハチロクに贈った言葉を記しておこう。
「ハチロクの助手席は結構寝やすいじゃ!」
ありがとうハチロク、またいつの日か。
