ブランドーのブログ

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六月のまとわりつくような雨。 アジサイが咲くそばの橋の上で、僕は彼女との思い出を流していた。

遊園地の写真、水族館の写真、犬と一緒の彼女の写真、ファミコンに興じている写真、杖をついて歩く写真、抗がん剤でやせ衰えながらも、カメラに向かって楽しそうに笑いかける写真… 写真を一枚ずつ流していくたびに、奇妙にマヒしている僕の頭は少しの間、じんわり熱くなり、写真が流され、水の底に沈んでいくたび、奇妙な焦燥感と喪失感に襲われ、なにかから逃れるかのように次の写真を流す、という工程を、無感動に、無機質に繰り返していた。

やがて僕が、手紙をすべて流し終わったときには、雨は篠突く雨に変わっていた。 今まで傘もささずに(というか、傘をささずにアパートから出てきてしまったのだが)手紙を流していたので、僕の体はすっかり冷え切っていた。

無意識に、両手をすり合わせ、息を吐きかける。

 あたたかい。 今までロボットのように、思い出を切り捨ててきた自分とかけ離れた自分の姿が、あまりにも対照的で、僕は笑ってしまう。 そのまま僕は、捨て鉢な気持ちのまま、しばらく狂ったように笑い続けた。 雨が、そんな僕を否定するかのように強く叩き付けてくるが、僕はそんなことは気にせず、笑い続けた。 むしろ、僕の頬を流れ落ちる涙を洗い落としてくれる分、雨は僕の味方でさえあるかのように思えた。 

ややあって、僕は雨が上がっていることに気づいた。 雲は晴れ、虹が上がっていることに。 そして僕は思い出した。 彼女が大好きだった、「スーパーマリオ64」を。 

彼女は病室で、何の楽しみもない中、ずっと僕とプレイしたマリオの話を、繰り返し、くりかえし楽しそうに語っていた。「君はね、私にとってのマリオなの。 いつか、ここから助け出してね」と、こっちが照れくさくなるようなことを、やさしい顔で話していた。 僕は思い出した。彼女が初めてスターを取った時の、あの笑い声。 病室に来ると、いつも楽しそうにハミングしていた、無敵のイントロを。

僕は、涙を流しながら、天に広がる虹を見つめていた。 虹は、天国の彼女が弱い僕にかけてくれた、無敵の魔法なのだ。 彼女が僕に送ってくれた、精いっぱいのエールなのだ。

ややあって僕は、びしょ濡れの顔を、同じくびしょ濡れの服で拭い、歩き出した。 天の虹は、僕を見守るように輝いていたが、ややあって薄れていき、そしてやがて完全に見えなくなった。                              完