ついぞ、一月ほど前に神社へ向かう。初詣でというやつだ。
寺に向かわないあたり成長したなと、我口元を緩ませる。

同行したのは弟とその友人、神社の石畳はローションを一瓶の半分ほど撒いたルームのごとし、ツルツルと滑り、我らの進行を阻害するなり。

時刻は6時を少し回ったあたり。早朝と呼べる時間。先客は無し。

お参りへ向かうべく境内を進行する我とその供。ツルツルは変わらず、歩く速度が遅い弟の友人の履物はスニーカーである。

「雪国を舐めるな」と友人へ忠告した弟もスニーカーである。

「お前もな」とたしなめた私の履物も当然スニーカーである。

そうこうしていると、神社の本堂へ到着。
我らいそいそと財布をとり出すなり。

賽銭箱へ小銭を投げ入れる。悪ノリ感がヒドい我はオーバースローで放る。吸い込まれる50円。

ノリの良い弟はサイドスローで放る。吸い込まれる10円。

流されやすい弟の友人もサイドスローで放る。「ちょっとは変えろよ」と、我思うも言わず。
はじかれる500円。

500円!

この男、意外に大物やもしれぬ。

ガラガラを鳴らす。

我ら目を閉じ、しばし祈りにふける。

20秒ほど後、目を開ける。弟も同じく目を開け顔をあげる。

……。


……。


……。


……長し!

やれ、弟の友人の願いの多さよ。

ようやく顔をあげる弟の友人。

「500円分のお願いしようと思ったら大変だったよ」

こいつ、やはり小物か?

「再来年分の願いもしたよ」

小物だった。

それ以前、ぬしの500円は、賽銭箱にはじかれたままだな。

思ったが我、言わず。

弟の友人は500円分の願いを終えて良い顔をしているなり。

賽銭が賽銭箱に入らずとも願いをするのは良いのか?

我はその答えを持ち合わせていなかったので、何も言わず。

知っている方がいるなら教えてほしいところだ。


ただ、賽銭箱に入らぬのは可愛げがあるとしても、サイドスローの方で神の怒りを買った恐れあり。


そう思いあたり、我口元を緩ませるなり。